番外編 大魔王の視察

「いい?お友達出しちゃダメ。魔法もダメ。あくまで普通の人として行くんだからね?」


「大丈夫、私少なくともサキちゃんよりは常識あるから」


「失礼な!?」


そんな感じで雑談しながら森を踏破していく。

アリスちゃんと話す中で、なんとなくこの世界の世界観がわかってきた。


まず、人族と獣族と魔族がいる。

純粋な人間だけを人族、道具などを使わずに魔法を行使できる人間を魔族、そしてそれ以外を獣族と呼ぶらしい。

アリスは元人間だったが、戦争に巻き込まれて死んでしまった時にとある魔族の魔法によって魔族として生き返ったらしい。

その後彷徨っているうちに闇属性魔法への適性に気づき、この森でしばらく生活する間にアンデッドを作り、使役する関連の魔法が上達したらしい。

何気に波乱の人生である。


普通に魔物とかも存在しており、種族関係なく人間を襲う性質を持っているらしい。

実際森の中でも何度か襲われたよ。


その他の社会情勢などに関してはあまり詳しくはないとのこと。

まぁずっと森の中に住んでいたのなら当然と言えば当然なのだが。


「ちなみに私は魔法使えないのかな」


「うーん、多分獣族っぽいから厳しそう?まぁ魔王なんだし気づいたらできるようになってそうだけど」


「残念」


なんて話をしている間に、目的の村に到着。

魔物対策のためか村の周りには柵があり、村の入り口には槍を持った二人の男性が警備に立っている。


「止まれ。この村には何をしに来た」


ごつい男性が威圧感たっぷりに睨みつけてくる。


おいおい、こちとらか弱い女の子二人だぞ?そんなに睨んだら普通は泣いちゃうよ。


「王都まで行きたくて、その間に寄りたいだけだよ」


「王都まで?そっちの狐人はお嬢ちゃんの護衛か?」


「んー、お友達だよ?」


「そうか。王都まではかなりの距離だからこの村で護衛を探した方がいいぞ。何故か魔物が活性化してるって情報も入ってきてるしな」


「へぇ。ありがとうおじさん!」


「おう。なんか訊きたいことがあったらいつでも言ってくれ」


「ちなみにおじさんを雇いたいって言ったら?」


「ハッハ、そりゃ無理だな狐の嬢ちゃん。見ての通り仕事中だからな、酒場とかで適当に他の奴を探しな」


そう言って私たちを通してくれるおっさん。

顔に似合わず親切なおじさんの脇を通り抜けながら、違和感に頭を捻る。


あまりにも会話が自然なのだ。

この世界がゲームの中だと仮定して、アリスちゃんと円滑な会話ができるのは別におかしくない。

アリスちゃんも私と同じようにログインしている可能性があるからだ。


だが、先ほどの男性との会話はおかしい。アリスちゃんとの会話は固定セリフが用意されていたとしても、私の質問に対してのレスポンスが自然すぎる。恐らくだがミラライブの社員にもあんな男性はいなかったと思うし、部外者を使っている可能性はあるが……。


そんなことよりも別の可能性に思い至る。


「これ、マジのやつ?」


「マジの……?」


「ごめんこっちの話」


当然、思い当たったのは『マジの異世界転生』だ。

しかし脳内の冷静なサキが即座に否定する。

だったら何故Vの姿なのか、勇者じゃなくて魔王なのか、そもそもアリスちゃんがいたりと微妙の前の世界の諸々を踏襲しているのか。

そういった点があまりにもご都合主義すぎるのだ。


とりあえずうちの事務所が頑張りすぎたということにしておこう。

今色々考えてもしょうがないしね。


「じゃ、とりあえず一旦それぞれで情報収集しますか」


「トラブル起こさないようにね」


「私のイメージおかしいって!!」


ほぼ初対面のはずなのになぜか私の扱い方が現世と変わらないアリスちゃんと別れ、適当に露店などを見て回る。


「お、嬢ちゃん見ねぇ顔だな。何か買ってくか?」


露店に並んでいる見覚えのない果物?野菜?を眺めているとその露店の店主が話しかけてきた。


「実は王都に行きたいって思ってて。でも最近の情勢とかあんまり知らないから何か知ってることあったら教えてほしいなぁ」


そう言いながら、懐から銀貨を取り出す。


私もアリスちゃんもこの世界の貨幣価値は分からないが、おじさんの表情の変化を見る限りでは十分な金額なようだ。


え?この銀貨はどうしたのかって?

ほら、アリスちゃんのお友達のみんなって森に迷い込んだ冒険者の人とかがほとんどなわけだからさ。

多分だけど実はアリスちゃんの財力って結構なものなんじゃないかな。


「最近の情勢ねぇ……。ああ、そういえば勇者が召喚されたらしいって言ってた奴がいたな。まぁ眉唾もんの情報だが、ここの近所の森で魔王が出たかもって話もあるし魔物の活性化とかの問題もあるし、勇者がどうにかしてくれんのかねぇ」


「あー、勇者ねぇ……。ま、勇者とか魔王とかちょっと現実離れしてますよね~」


「確かにな。ああそうだ忘れてた、ここだけの話なんだが、国王が崩御したらしい」


「崩御って……王さまが亡くなったってこと?」


「ああ、それで、今は宰相が政治の実権を握ってるらしいんだが、こいつがどうも人族至上主義とかいう古い頭の奴らしくてな。獣族のあんたはもしかしたら王都は行かない方がいいかもな」


「思ったより色んな情報が出てきてびっくりだ」


「それで、何買うんだ?王都までの旅の食料にすんだったらこの辺がおすすめだが……」


「うーん、よくわかんないからこれでおじさんのおすすめ詰め合わせにしてよ」


そう言って大きい銀貨を一枚、店主のおじさんに渡す。


話をしながら店の売り上げらしきお金や他のお店のお客さんの支払いなんかを覗き見して、なんとなく大体の貨幣価値は分かってきた。

多分だけどこの大きい銀貨一枚で1000円くらいの価値……だと思う。


「大銀貨一枚だったら……こんなもんかな」


そう言って大きな袋に次々の果物を詰めていくおじさん。

……あれ、案外多いな。


「うしっ。嬢ちゃん、持てるか?」


「あ、大丈夫です」


合計で5kgくらいはありそうな袋を受け取り、零さないようになんとか抱える。

なるほど、貨幣価値はなんとなく分かっても物価が日本基準だとこうなるか……。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「あ、サキちゃん……って何その袋」


「この世界の物価の低さのお勉強をしてきたんだよ」


「なにそれ」


そう呆れながら私が抱える袋からリンゴのような赤い果実を取り出してかじり始めるアリスちゃん。


「アリスちゃんって味覚あるの?」


「失礼な。普通にあるよ。しかも食べた物は体内で魔力に変換されるから出す必要がなくてかなり便利なんだよこの身体」


「へぇ……。そういえばそっちは何か収穫あった?」


「なんかこの街に来てる商人の一人がもうすぐ王都に向けて出発するって言ってたよ。で、護衛探してるらしいからその人護衛しつつ連れてってもらわない?って言おうとしてサキちゃん探してたんだよね」


「アリスちゃんがあまりにも有能すぎる」


つづく

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