番外編 大魔王の誕生

番外編です。

ものすごく番外編です。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



とある森の奥に佇む巨大な城。

その主が不在故に野良の魔物の住処となっていたその城に、この日衝撃が走る。

物理的に。


ドン!!!!!と森中に響くような轟音を響かせて、何者かがその城に出現したのだ。


どこかから落ちてきたり、飛んできたわけではない。

ただその衝撃を伴って、何処からか出現……召喚されてきたと表現するのが正しいだろう。


突如現れたその少女は、一見するとただの人間。

しかしその正体は……



「いや中身も普通の人間じゃい」


普通?の人間だった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「えーっと……なんで私急にこんなとこに??」


目の前に広がるのは、あまりに荒廃した城の内装。

蜘蛛の巣の張ったシャンデリア、ボロボロの絨毯、そしてサキがいつの間にか座っている豪華な玉座は経年劣化からか色々なところの塗装が剥がれている。


こんな意味の分からない状況、真っ先に思い浮かぶのはミラライブの謎技術の仕業だ。

以前の誕生日配信の時の3D、そしてミラクエとかいうRPGを作る技術。

今度はVRMMO的な世界を作り始めてしまったのだろうか、とそんなことを本気でやらかしそうな後輩の顔を思い浮かべる。


とはいえサキ自身はそんなゲームのテストプレイとかに参加した記憶はない。

なんなら昨日は配信を終えてそのまま普通にベッドに入った記憶がある


「……あなただぁれ?」


「あ、アリスちゃんじゃん」


玉座に深く腰掛けたままあれこれと考えていると、玉座の間に一人の少女が入ってきた。

二期生の夢冥アリス。

サキの姿を見て驚いたような、珍しいものを見るような目でこちらを見つめてきている。


「お姉さん、どうして私の名前を知っているの?」


「あ、そういう感じかぁ」


どうやらアリスちゃんはサキのことを知らないらしい。

それかゲームの設定に合わせてロールプレイをしているだけか。


「よく分からないけど、ここは私とお友達のみんなのお家だから。死ぬか私のお友達になって?」


「うん、それどっちも『死ね』って意味なんだよね」


反射的にツッコむサキ。

それを気にも留めず、アリスはサキに向かって手をかざす。


その瞬間サキの足元に何やら黒い靄が出現する。


「おわっ、そういう感じ!?」


サキは慌ててその場から飛びのくが、今度はその黒い靄が触手のように変形してサキに襲い掛かる。

問答無用でのこちらへの攻撃。流石にもうちょっと躊躇しよう?


その速度自体は大したことないため走っていれば逃げ切れそうだが……。


「もう~、大人しく捕まってよ~」


「ちょっと!!アリスちゃんのお友達はこんなにグロくないよ!!」


いつの間にかアリスが召喚していたらしい亡者たちがサキに襲い掛かってくる。

しかしその見た目は配信者のアリスがファンたちの化身として用いているようなデフォルメされたものではなく、ガチの動く屍といった様相。

肉体は中途半端に腐敗し、衣類はボロボロ。眼球が抜け落ちて虚ろな眼窩が丸見えになってしまっている者も少なくない。


おいこのビジュでリリースするつもりかスピカちゃん?普通にR18レベルのグロさなんだが?


「ちょ、うわっ、あぶなっ!?」


無数のアンデッドの群れの攻撃をなんとか回避して逃げ回る。

奴らの動きはかなり緩慢。ちゃんと集中していれば回避はそこまで難しくなさそうだ。


とはいえこの状況、どうしたものか。

部屋の入口はアリスちゃんと複数のアンデッドが死守しており、逃げるのは不可能。とはいえこいつらの攻撃を掻い潜れたとしてアリスちゃんを傷つけるのも気が引ける。


「わ、いた……くない?」


思案していると、意識外からの攻撃を脇腹に食らってしまった。

しかし、痛くない。鈍い衝撃はあるものの、それだけだ。なんなら攻撃を受けた直後に少し身体の疲労がマシになったような……?


おっと?


今度は別方向から切りかかってきたアンデッドの剣を掴んでみる。


痛くない。ていうかあまりにも力の差がありすぎる。


「もしかして、今回は魔王並みの身体能力にしてくれてる??」


あのスピカちゃんに限ってそんなことはあり得ないと思っていたが、この状況を見る限りではその可能性が高そうだ。


「一応アリスちゃんのお友達だし、できるだけ傷つけないように……」


先ほどの剣を奪い取り、適当に攻撃を打ち払いながらゆっくりアリスちゃんの元に近づいていく。


サキのことを捕まえようとしていた魔法の靄も、絡みつくそばからブチブチと千切れていく。

そんな様子を見て力の差を理解してか、アリスちゃん自身は特段逃げようともしない。


「……お姉さん、何者?私の魔法、結構強いはずなんだけど」


「何者、かぁ……。一応多分魔王なんじゃない?不本意ながら」


そう言いながら自分の身体を改めて見てみる。

普通だ。別に悪魔の羽が生えているわけでもなければ、角が生えているわけでもない。

あ、当然のように狐耳は生えてるけど。


「魔王……。私のことをどうするつもり?」


「どうって……。別に危害加えるつもりはないよ?襲われたから対処しただけだし」


「魔王なのに??うーん……じゃあさ、3つだけ質問していい?」


「3つと言わずいくらでも?」


目の前で首をかしげるアリス。

私のことを本気で殺そうとしていたのはともかくとして、可愛い。

いつも通りの可愛さだ。


「なんでさっきから私のお友達を壊さないの?お姉さんくらい強かったら片っ端から壊せるはずでしょ?」


「あくまで『殺す』じゃなくて『壊す』なのね。普通に、仲良くなりたい人のお友達を壊すなんてよくないでしょ」


「なかよく、なりたい……?」


サキの返事が意外だったのか、目を見開くアリス。

そりゃそうだよ。こんな可愛い子と仲良くなりたくないわけがないでしょう。

……え、さっきまで襲われてたじゃんって?誤差だよ誤差。


「それなら抵抗せずに死んでくれたらいいのに」


「うん、できれば生きたままで仲良くしたいなぁ!!ほら、私魔王だよ?多分普通の人とは比べものにならないくらい長生きできるから、アンデッドにならなくてもずっと一緒にいれるよ」


そう言ってアリスの手を握ると、周囲のアンデッドたちからの攻撃が止む。

アリスちゃんのスタンスは向こうと変わらないようだ。

自身が屍鬼で、人間の友達ができてもすぐに死んでしまうのが嫌。だからさっさと殺して自分と同じ屍鬼にして永遠に友達でいたい、と。


今更ながら、ついさっきまでアンデッドからは攻撃され続けていた。

なんというか、防御力が高すぎるというよりは問答無用で無効化しているような感じで一切ダメージを受けていなかったのだが。


「じゃあ2つ目。どこから来たの?私ずっとここに住んでて、いきなりお姉さんが現れたからびっくりしたんだけど」


「どこから、かぁ……。まぁ、こことは違う世界って言うのが正しいかな……。てかそもそもここどこ?」


「ここは迷いの森の中だよ。まぁ迷いの森って呼ばれてるのは私が原因なんだけど。なるほど、勇者召喚みたいな感じで来たんだ」


「あー、それっぽい。そんなノリで魔王が召喚されるってこの世界的には大迷惑でしかなさそうだけど」


「わかる。じゃあ最後、私と仲良くなりたいんだったら一番大事な質問」


「お、何?」


「……お姉さんの名前は?」


「そっか、まだ名乗ってなかったね。私はサキ。よろしくねアリスちゃん!」


いきなりの質問の温度感の違いに思わずそう笑いかけると、アリスちゃんもぎこちなく笑い返してくる。


「なんかサキちゃんとは初めて会った感じがしないね」


「お、鋭いねぇアリスちゃん。さて、まずは何しようか」


「とりあえず近所に村あるけど滅ぼしに行く?」


「コンビニ感覚でそういうこと言うんじゃないよ!?まぁでも一旦その村目指そうかな。この世界のこととか何も知らないし」



つづく



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「そういえばアリスちゃんのあの魔法って何?拘束魔法的な?」


「え普通に最上位の即死魔法。あれ抜けられたの初めてだからびっくりしちゃった」


「こっわ!?無効化できてよかったぁ!?」

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