こういう先生が一番こわい!!!!

とある大講義室で授業を聞きながら二人並んで仲良くパソコンと睨めっこする女子大生が。


一方は今夜の予定のことを考えながら滞ることなくタイピングをし続け。


方やもう一方は無い頭を捻りながら必死にレポートの文字数を埋める方法を考えている。


「おい、無い頭ってどういうことだ」


「変なこと言ってる暇あったらさっさと進めなさい」


そうやって時々集中力が切れて隣の親友に話題を振るのはもちろん梨沙。

もうこうやって梨沙が気晴らしに話しかけてくるのも、隣の親友が単位を落とすかどうかの瀬戸際で綱渡りしているのを見るのも慣れてしまった早紀はそんな親友に助け船は出さない。


「そもそも今期は私とほとんど遊びに行ってないのにギリギリな時点で救えないよ梨沙。どうせ彼氏でしょ?」


「ぐっ、それを言われると言い訳できない……。一緒に課題しようって言って家行って、気づいたらキスしてんだもん。もうそうなったら課題なんてできるわけないよね」


「ちなみにそれ、どっちから誘ってんの」


「私に決まってんじゃん。裕也はずっと私の課題の心配しながら付き合ってくれてるよ」


「じゃあ全面的に梨沙が悪い。私や彼氏と一緒にちゃんと大学卒業したかったらそのレポートさっさと終わらせな」


自分のレポートを終わらせた早紀は、今度は今晩の配信のサムネイル作成に移る。

当然ながら授業で先生が言っている内容も全て理解しつつだ。

梨沙の方は……まぁ言うまでもないだろう。


「てかこの授業難しくない?専門用語とかばっかで正直お手上げなんだけど」


「あー……まぁ確かにこの先生の授業全部難しいかも。なんというか、ある程度専門知識ある前提で進めてるって感じする」


今も教室前方のプロジェクタースクリーンには普段絶対に聞かないような専門用語に、普段絶対に聞かないような専門用語を用いた解説が添えられたスライドが表示されている。

早紀は普通に理解できるが、普通の大学生には予習なしでは何一つ理解できないレベルではないだろうか。


まぁそんな授業でも履修する生徒が多い理由はいくつかある。

そのうち一つは先生が可愛いからだ。


中学生くらいに見紛うほどの身長と幼い顔立ちの少女。

白衣を着てはいるが、合うサイズがなかったのか袖はかなり余っている。

抑揚が少なく、眠たそうな声もまた人気の理由の一つである。


とはいえそんなダウナーな声につられて睡魔に身を委ねると、名指しで質問が飛んできて大恥をかく上にこの先生の豊富な語彙で詰られるという公開処刑ごほうびを受けるのだが。

いやそもそもなんで大教室で授業を受けてる数百人の顔と名前覚えてんだこの先生化け物かよ。


ちなみにそんな理不尽質問が飛んでくるのは何も眠っている生徒だけではない。授業を聞いていないだろうなと先生が判断した生徒にランダムで飛んでくるのだ。


というわけで。


「おい山本梨沙。そこからの回答でいい。問題」


「あ゛っ」


「こm……深山。答え教えるなよ?これは二つ前に説明したスライド。山本、この空欄に入る語句は何」


「えーっと……。DV問題で……諦め……あ、SMプレイ?ああ違う、調教?」


「なるほど。お前が授業を全く聞いていないということとそういうプレイに造詣があるということがよくわかった。コイツの彼氏もしくはコイツを狙ってる奴、覚えておけ」


先生がそう言うと、講義室全体が爆笑に包まれる。そして梨沙の顔はもう真っ赤だ。いや答えが分からないにしても調教はないだろ。せめてもうちょっと考えて答え出せよ……。

てか何、梨沙って普段裕也くんとそういう感じなの?

ああいやまぁ親友と友達の性事情なんて絶対に知りたくないことランキング余裕で第一位だから答えなくていいんだけどさ。


「正解は『学習性無力感』。自分が何をしてもDVによる支配関係からは逃れられないと学習してしまうという意味。ほら、聞いてなかった山本も他の奴らもさっさとメモしろ。定期試験で『調教』なんて答え書いた奴がいたら問答無用で0点にしてやるから」


再び笑いに包まれる教室。

こうやって授業を聞いていない生徒を出汁に冗談をかますのも生徒に、特に真面目に授業を聞いている生徒に好かれる理由の一つだ。


「ねぇ早紀答え教えてくれてもよかったじゃん……」


となりで真っ赤な顔で泣きそうな梨沙。可愛いけどさっさとちゃんと授業聞きながらレポート進めようか君。


「いやあの先生に名指しで警戒されたら無理だって。梨沙の膝とか使ってモールスで答え教えりゃよかった?」


「来週までにモールス信号理解できるようになっとく」


「それができるんならさっさとレポートを終わらせるか授業を聞きながら他の作業できるようになっときなさい」


そんな呑気な冗談を漏らしながら課題を進めていく梨沙を横目に早紀も自分のやるべきことをこなす。


サムネの作成は終わった。次は今度出るグッズやボイスに関する連絡が企業や加瀬さんから来ているので返信しなければならない。


VTuberとしてある程度人気が出てきてからというもの、こういった連絡事項や細かい情報伝達などでプライベートの時間を使うことが多い。

早紀はほとんどの課題や仕事を化け物並みの効率で進めることができるから問題ないが、同じ大学生である桃花ちゃんや普通にOLとして働いている結菜先輩なんかはオーバーワークになっていないのだろうか。


まぁ普段の彼女らも裏での彼女らも心底楽しく仕事をしているという印象を受けるし、何よりキャパ的にキツかったら他の人を頼るといったことができている印象なので問題ないか。


……え?彼女らより仕事は多いはずなのに一人でどうにかしてる私?

やだなぁ、これくらいじゃ仕事多いだなんて言えないよ、たはは。


おい梨沙なんでこっち睨むんだよ。さっさとレポート終わらせろ。そんなに睨んでも私は手伝わないぞ。

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