たまには実家帰ってくるわ!!ほな!!

金宝ユウカ@ミラライブ一期生


『みんなごめんな!今日から実家帰省するからしばらく配信でけへんわ!!早かったら多分一週間とかそれぐらいで戻ってくるから気長に待っといて~!』



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「うわ、優香ねーちゃんやん!帰ってくるんやったら言うてや!!」


「アホか、ちゃんと電話したやろ。てか健太お前デカなったなぁ……。何年振りやっけ?」


「3年とかちゃう?もう俺中学生やで」


「あー……中学生にしてはちっこいな。ほらこれ東京土産や。ガキ共で食っとき」


「うわ!!ねーちゃんの腹回り横綱級!!」


「それただの悪口やねん。普通に太っ腹って言えや」


3年ぶりの再会だと言うのに感動的な展開なんて知らんと言わんばかりにボケ倒す弟に懐かしさを感じつつ、実家に帰宅したユウカ。

先祖から受け継いできたそこそこの大きさの一軒家だが、建ってからもうかなりの年数が経過しているためか色々なところにガタが来ているのが素人目にしてもよく分かる。


「おい健太!!母さんどこや?」


「和室!!多分寝とる!!」


ユウカが買ってきたお菓子を持って大急ぎで長男と末弟の部屋に向かう健太の返事を聞き、荷物の入ったスーツケースなんかを全部玄関にほっぽりだして和室に向かう。


「……なんや、起きとるやんけ」


襖を開けたユウカの視界に飛び込んできたのは、布団に横たわる一人の女性。

ユウカの母である。


「こんなうるさいのが帰ってきたら寝れへんわ」


「はいはいうるさくてすんませんねぇ。ほんで、具合は?」


「見たら分かるやろ、げんきのかたまりや」


「んなか細い声で言われても信用でけへんわ。てかそういうことちゃう、お医者さんはどない言うてるん」


「えーそれ訊く~?」


「乙女か」


昔よりも明らかに瘦せこけた頬、細く、白くなった髪、覇気のない声。これだけで母が虚勢を張っていることくらい看破できる。

それくらい本人にも分かっているだろうにどうしてこう飄々とした態度を貫くのか。


「別に大したことないで。なんか今んとこ薬で治るけどもうちょい悪化するようやったら手術しよか~みたいなこと言うてたわ」


「ほんまか……?てか何の病気なん、電話じゃ教えてくれんかったけど」


こうやってわざわざユウカが帰省してきた一番の理由がそれだ。

明らかに死にかけみたいな声色の母が電話してきて自身が病気だと伝えてきて、しかも何の病気かも教えてくれず。更にはその後何度電話をかけ直しても電話に出ない。

「これ放っといたら死ぬやつやん」と思い突発的な帰省を決めたのだ。


「え、知らん」


「は??」


「いや病気の名前とか聞いても分からんやん。てか分かってもしゃーないやん。ほな余計なこと考えんとお医者さんの言う通りしとったら治るんやからそれでええやろ?」


「いや、それはそうかもしれんけど、自分の身体のことやで……?」


「そもそもそんな死ぬような病気とちゃうし。多分。知らんけど。昨日も普通にから揚げ作って食べてたし。あ、冷蔵庫にタネ入ってるからほしかったら自分で揚げて食べてええで」


「それはもらう。……てかちゃうちゃう、なんか電話かけてきた時めっちゃ死にそうやったやん。しかも全然電話出やんし。やから慌てて帰ってきたんやけど」


「ああ、あの時二日酔いで頭痛ひどかったからちゃう?あの時はほんまに死ぬかと思ってた。あと普通に充電器失くしてスマホ死んでた」


「あんたほんまに一回死んだ方がええんちゃうか?」


予想外の理由に呆れ、また思ったより元気そうな母の姿に安堵の溜息をついて立ち上がる。


「あ、冷凍庫にガリガリくんあるから取ってや」


「アホか。晩メシはウチが作ったるから薬でも飲んでちゃんと寝とけ」


能天気な要求をぶつけてくる母に二の句を継がせず、襖をピシャリと閉じてさっさと玄関に置きっぱなしの荷物を回収。


そのまま高校生の頃自分が使っていた部屋に運び入れる。


「うわなっつかしいなぁ」


部屋に入ると、そこは記憶にある自分の部屋そのままだ。

当時読んでいたマンガ、勉強机の上の本、壁に張ってある漫才師のポスターまでそのまま。

しかも……


「別に掃除していらんて言うたのに……」


半ば飛び出すように東京に出てきたユウカ。

芸人の道を志し、挫折。その後紆余曲折を経てやっとミラライブに入ったわけだが、そもそもその目的はあまり裕福ではない実家での自分の食い扶持を減らすため、そしてお金を稼いで少しでも実家に還元し、楽をさせてやるためだ。


毎月欠かさず仕送りはしつつも、当然ながら元々の目的なんかについては家族には言っていない。今の仕事内容なんかについても当然言っていない。

以前母に仕送りをやめてもいいと言われた時も、適当にはぐらかして今も続けているという状況だ。


そんな娘の部屋だというのに、定期的に手入れしてくれていたというのが簡単に伝わってくる。


「うわ!!ほんまにねーちゃんやん!なんか老けた?」


「おい篤志こっち来い」


部屋の入口からこちらをのぞき込んで感動に水を差してくる高校生の長男を睨みつけ、両手をわきわきさせつつにじり寄る。


「やべっ」と漏らして逃げ出す弟に溜息をつくが、奴らに構っていたらいつになっても何も進まないのでさっさと荷ほどきすることに。

とはいえそこまで長期間滞在するつもりでもない。

配信をずっと休むわけにもいかないし、記念日……特にクリスマスくらいまでには帰らないとあまりよろしくない。チキンが冷めてしまう。


僥倖ながら母の体調もそこまで深刻というわけでもなさそうだし、数日ゆっくりしたら東京に戻ろうとユウカは心に決める。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



その日の晩。


「優香ねーちゃん料理できたんや」


「できるに決まっとるやろ。てかそんなん冷蔵庫の食材で作れそうなもん作っただけやから誰でもできんで」


「まぁ母の教育がよかったからやなぁ」


「母さんに料理教えてもらったこと一回もないけどな?」


今日の夕食は、冷蔵庫にあった食材からユウカが適当に作った何品か。

人数が多いこと、ユウカの仕送りもあるということで何気に食材の量は充実していたのだ。


「あ、母さんテレビでMeeTubeつけていい?」


「テレビばっかやなくてちゃんとご飯食べるんやったらな」


「わーい」


末弟の智がリモコンを操作し、AqqleTVを使ってスマホ画面をテレビに映す。

おい人の仕送りで随分贅沢してんなおい。

ちゃっかりMeeTubeプレミアムだし。


……って。


「おい智」


「なに?」


「そのチャンネルはやめよか」


「なんでよ」


「てかなんで知ってんねん。誰もVTuberなんか見るような趣味とちゃうやろ」


「あんたの後輩ちゃんがよーバズってるでな、たまたま見とったらユウカって名前で関西弁でやっとるんがおるんやもん。見るやろ」


「ねーちゃんもっと名前捻らな人気出ぇへんで?」


「うるさいわ!!一応うちの事務所やとトップやでな!?てかなんで自分の配信の切り抜きを家族と一緒に見なあかんねん!!ただの公開処刑やんけ!!」


「ぽちー」


「わあああああああああ!!!!!!!!やめろおおおおおおおおお!!!!!」


3年ぶりの、平和な一家団欒の晩餐であった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



アトガキ


文章化された関西弁って読みづらくない……?

てか句読点とかでの勢いの表現難しい……なんかずっとキレてるみたいになってる……

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