まともじゃなかった!!!

『《萌乱真来》今度こそ仕事してくれパソコンくん《ミラライブ五期生》』


「だからそのタイトル何?PCはずっとちゃんと仕事してるんだって」


「あたしの言うこと聞かない時点でダメだな。なぁリスナー諸君?」


【コメント】

:何言ってんだ

:今日は蹴るなよ

:さげママ助かる

:ありがとう、本当にありがとう

:大丈夫?本名ポロったりしない?

:リアルな距離感わかる音の感じ助かる

:あまりにも早いオフコラボ助かる


「あー、本名とか個人情報とかは大丈夫、何も教えてないから」


「どれだけ聞いてもはぐらかされたんだ。ひどくないか?」


「うちは初配信であれだけの醜態を晒したアホに個人情報教えるほど愚かじゃない」


「もっと信用してくれてもいいんだぜ?」


「今のところ信用できる要素皆無」


「さっきはあたしのこと見直した感じの雰囲気だっただろ?」


「PCと配信の設定の段階でその評価全部覆った、余裕でマイナス」


「そんなにひどかった!?」


話は数時間前に遡る。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「メインで使ってるマイクのデバイス名どれ?」


「わからん!」


「カメラのトラッキングの設定ってどれぐらいやってる?」


「何もいじってない!」


「配信ビットレートは」


「何だそれ」


「そういえば配信用の素材ってどこに保存してある?」


「なんだっけ、ダウンロード?ってとこ」


「ほんとになんで初配信できた??????」


「マネージャーに電話で指示してもらいながらなんとかって感じだな」


「こいつの頭の中に蟹みそ詰めたいマネちゃんの気持ちが分かった気がする」


本当にどうしてこんな状態で初配信ができたのかが分からない。あの誤爆マネちゃん、思ったより優秀なのかもしれない。

……いや、最低限だけレクチャーして後はうちに丸投げするつもりだったのが丸見えの時点でダメだな、許さん。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「……てな感じ。リスナーのみんなの中にも〇BSいじったことある人いるでしょ。うちが今日どれだけ苦労したか分かる?」


【コメント】

:思ったより悲惨でわろた

:なんで素材がダウンロードフォルダにある状態で配信画面構築できたんだ

:そもそもその状態でよくV動かせたな

:マネちゃんの有能さが窺える

:ほんまにお疲れ様やで


「いやマジでさげ凄かった。最初見た時は『なんだこのチビガキは』って思ってたんだけどな」


「おい殺すぞ。体積でかいだけの独活の大木が調子乗んな」


「うどの……何って?」


「このレベルのド低能にチビガキ言われるの本当に釈然としない」


【コメント】

:チビガキてwwww

:さげちゃんはチビ把握

:相変わらず言葉強くて草

:めちゃくちゃイライラしてるじゃんwww

:さげママこわいよ


「はい、とりあえずこんな感じで配信もできてるし、コメントもこうやって配信画面に乗ってる。ゲーム音とかBGMとかの音量バランスは実際にリスナーに聞きながら調整していく感じ。じゃあうちはやることあるからもし何か分からないことあったら呼んで」


「わかった。ちなみにやることって?」


「今週末までに仕上げなきゃいけない論文がある」


「ろ、論文……。そういえばさげの配信はどうするんだ?ノートパソコンでやるのか?」


「そんなわけ。必要なデータ全部USBにコピってきたから後でそのPC借りる」


「おいお前ら、あたしの同期が優秀すぎて怖いんだが」


【コメント】

:ろんぶん!?!?

:え何、本職学者さんか何か??

:期限言っちゃっていいの?学会のタイミングとかでバレない?

:あまりにも有能すぎてミラライブとは思えない

:お前ほんとにミラライブか?


「そこの低能じゃないんだから。別に学会があるのが今週末ってわけじゃないし、発表の時には声色変えるから身バレなんてしない。てことで後はがんばれ~」


「おう!そっちも頑張れよ!!」


ぺたぺたという足音と扉が閉まる音の後で真来がモニターに向き直り、改めて配信を再開する。


「さて、とりあえず昨日時間が足りなかったせいでできなかった話とか質問コーナーとかやっていこうか。あぁそうだそうだ、なんか色々決めなきゃいけないみたいなことをマネージャーから言われてたはずだからそっちから片付けてくか。えーと、うわ、画面にビスコのアイコンがある。マジでさげ感謝。これ便利すぎる。じゃあまずは……」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「ふぅ~、まぁまぁいい感じだったんじゃないか?」


今日こそ忘れないように配信を切ってから椅子の上で伸びをする。


まぁ、配信を切り忘れなかったのはデスクトップの背景にさげが『配信切り忘れ注意!!!!』と赤文字ででかでかと大量に表示してくれていたおかげでしかないわけだが。


「そういえばさげは論文書き終わったのか?」


配信用の部屋を出て、さげがいると思われるリビングに向かう。


「……って、寝てるし……」


リビングに戻った真来の視界に入ってきたのは、ダイニングテーブルの上にノートパソコンを開いたままソファですやすやと眠るさげ。


「そういえば書いてるのってどんな内容なんだ?」


ふと気になって開きっぱなしのノートパソコンをちらっと見る。


「えーっと、『現代の人間の集団心理における……』なんだこれ、読めん」


難しい漢字なんて読めない。読めなくてもどうにかなるし。

ていうかタイトルの下にいきなりアブなんとかってサブタイで英文書かれてるし。こんなの無理無理。人間の読む文章じゃない。


とはいえこれじゃ書き終わってるのかどうかすらも分からない。そもそもこの後のさげの配信の準備なんかもあるだろうし、寝坊でもしたらまずいのでは。


「おーい、さげ、起きなくて大丈夫か?」


軽くその華奢な身体を揺すってみる。

小さな身体、幼さの残る顔、穏やかな寝顔。どう見ても高校生、いや中学生くらいにしか見えないのだが実際は何歳なのだろうか。まさか設定通り500歳なんてはずはないと思うが、流石に成人してるよな……なんて考える。


「……ぅぁ」


「おーい、寝言かー?」


「……あぅ、こっちの調査もダメ。有意な相関は見受けられないし仮にあってもこの条件だとただの疑似相関だと判断されてもおかしくない。でこっちのはまだソースが少なすぎるから信憑性があまりにも薄すぎる……。ていうかこれって一部内容被ってる先行研究見たことある気がする……。でも今から資料漁ってたら時間足りないし……あーもうなんでこんな短い期限でこんな内容の書かせるかなあの教授……」


「……」


理解した。

いや寝言の内容は9割方何言ってるのかさっぱりだったが、とにかく大変なんだろうなということだけは理解した。


「……ま、まぁ、ゆっくり寝かせてあげるか」


そもそも睡眠時間がたくさん必要なんて話もしていた中であたしの設定やらに付き合ってくれたんだ。せめてギリギリまでゆっくり休ませてあげるくらいはしよう。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



そんなさげの配信開始予定時間の30分前。


「おーいさげ、そろそろ……」


「おはよう、じゃあ配信準備してくるから何かあったら呼んで」


「へ?」


先ほどまでぐっすりだったさげ、30分前になった瞬間にいきなり電源が入ったかのように動き出したのだ。


「起きてたのか?」


「いや?今起きた」


「目覚ましとかかけてた?」


「いや普通に体内時計」


「体内時計ってそんなに高性能なものか?」


「……?普通でしょ」


心底不思議そうに首を傾げて配信部屋に入っていくさげ。

そんな後ろ姿を見て真来は思う。


「もしかしてさげってサキ先輩と並ぶレベルの化け物だったりする?」


と。

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