五期生初配信 3

『《白花さげ》うちのアホ二人がご迷惑をおかけしました《ミラライブ五期生初配信》』


「あ、ども。うちの声聞こえてる?」


【コメント】

:聞こえる

:ダウナーかわいい

:声が聞こえる、背景と顔が表示されてる、唐突に終わらない、ヨシ!!

:お願いしますまとも枠であってください

:やっと癒される


「あー、うん。うちのクソ勇者と脳筋戦士がほんとにごめん。うちの配信でよければゆっくり癒されてってね」


画面の中央で心底申し訳なさそうにしているのは、流れるような銀髪に紺色の瞳をした少女。シンプルで上品さが感じられる純白の法衣に身を包み、まさに神職者といった雰囲気。

そしてそんな彼女の眠たそうな表情と気だるげな声に、否が応でも視聴者の心が落ち着くというものだ。


ちなみにどうやら場所は教会のようだ。

よく見る荘厳な雰囲気の神聖な場所といった教会ではなく、何故か魔物と思われる生物のバラバラ死体が転がっていたりところどころに蜘蛛の巣が張っていたりするのだが。


【コメント】

:あれ、僧侶?

:賢者か魔法使いって聞いてたんだけどな

:まくりちゃんの勘違い説?

:やっと清純派来た(歓喜)

:頼むからこのまま、まともであってくれ


「あー、うちは一応賢者だよ。金のことしか考えてない勇者と脳筋しかいないからうちが回復も補助も魔法でやんないと冒険なんて無理無理。ちなみにここが教会なのは、ここ占拠してた魔物を魔法でシバいてうちの家にしたって感じのコンセプト」


よくよく見てみるとそこら中の壁に焦げ跡がある。

どうやらこの魔物たちではなく、さげ自身の攻撃由来のものらしい。


「ああそうだ、とりあえずプロフ貼っとく。多分そこまで変なことは書いてないと思うから安心して」


さげがそう言った直後に一枚の画像が配信画面に表示される。


名前:白花 さげ(びゃっか さげ)

種族:人間(賢者)

年齢:推定500歳ほど

詳細:その人生のほとんどを魔法の修練に注ぎ込み、遂に不老不死の境地にまで達した賢者。もうこれ以上覚える魔法もないため、『配信でお金を稼ぎたい』と言う光に付き合って配信活動を行うことにした。ちなみにほんとにまとも。基本的に寝ている時間が多くて連絡が取りづらいのが玉に瑕だが、それでも起きている時間で仕事はしっかり熟してくれる。運営陣の強い味方。ちなみに無意識のうちに人のことを見下している。言葉強い。でも多分先輩にもっと化け物がいるから大丈夫だよ、うん。


「おお、うちが思ってたより肯定的なコメントだ。まーもう500年ぐらいも生きてる賢者だからね、流石に平凡な人間どもよりはちゃんと仕事できるよ。よく寝るのは歳もそうだし、脳みその稼働量が凡人より圧倒的に多いからすぐにバッテリー切れになる感じ。まぁ配信はちゃんと定期的にするから安心して」


【コメント】

:声聞いてると眠くなる

:ASMRキボンヌ

:言われてる通りしれっと言葉強いな

:サキちゃんと同じで人間を超越してる感じか

:ここまで運営に信用されてるの珍しいって


「あーそだそだ、コメントでも言われてるけど多分ASMRとかはいっぱいやるよ。需要があるのはコメント見てたらよくわかるし、楽しそうだし。ゲームはあんまりやったことないけどRPGあたりから始めたいかなぁ。ホラゲとかは苦手だけど怖いと黙るタイプだから配信的にあんまよくないよね。てことで多分やんない」


何だろう、何か違和感が。

視聴者の心象は一致している。


そう、まともなのだ。

ただただまともなのだ。

変なところと言えば初配信だというのにも拘わらず終始ローテンションで覇気が感じられないくらいで、特段変な発言もミスも飛び出していない。


お前本当にミラライブか?


その後も適当にコメントを拾って質問に答えつつ、自分や光、真来のこと、今後の配信でどういったことをしていくかなどを淡々と語るさげ。


そんな中、視聴者のモヤモヤは一瞬で解決することになる。


「えーっと、『好きなアニメとかありますか?』ねぇ。うーん、まぁ好きな作品は色々あるしなんなら原作から追ってる作品も多いんだけど、一番好きなのはやっぱあれかな。……あー、配信でアニメの名前出していいんだっけか。まぁいいや、ムキムキの主人公がびりびりする力とか背後霊的な力を使って吸血鬼とか究極生命体とかギャングとかを相手取るあの作品だよ。いやまぁストーリー構成とかキャラ設定とかがすっごい練られてて秀逸なのは当然なんだけどやっぱり一番はキャラデザだよね。特にそれぞれの主人公。個人的には2と3の主人公が好きなんだけど、やっぱあの筋肉、そして性格。2の主人公とは一緒に遊びに行って振り回されたいし、3の主人公にはめちゃくちゃ付き纏って嫌がられて、でも鋼の精神で絡み続けていつか少しずつ絆されてくれたらいいななんて妄想してるいやまぁ正史の奥さんがいるしそこの立場を奪いたいとか浮気させたいなんて気持ちは当然ないっていうか原作リスペクト勢として当然のことではあるんだけどそれでもやっぱ貢ぎたいよねうん貢ぎたいていうかもう貢ぐことを許可されてる時点でかなりの好感度なわけだからそれで充分よね一モブになりたい身としては。あ、ちなみに作品内でもCPとかはあんま好きじゃないかな、あくまで個人的な意見ではあるんだけど原作へのリスペクトとか理解度が全く足りてない自己満足な作品が多くて苦手まぁそういった活動自体を否定するつもりはないんだけど少なくともうちは好きじゃないよってだけの話で」


【コメント】

:!?!?

:オタク特有の早口ってレベルじゃねえぞ

:早すぎて後半聞き取れねぇよ

:あの作品が好きなのかぁ……

:夢女ってやつか


「んでもっと語ると……。あ、失礼致しました、心の中のオタクが大暴れしてしまいました」


自分の暴走に気づいてハッとした表情を浮かべるさげ。その頬は羞恥によって徐々に紅潮していく。


コメント欄が「かわいい」一色に染まっていたことは言うまでもないだろう。


「や、もうバレちゃったから言うけどうちアニメ大好きなんだよね。なんなら今も隣のモニターでアニメ見ながら配信してる……ってこれマネちゃんに言ってなかったな、やっぱりなしで」


【コメント】

:オタクかわいい

:おいなんだこの新人欠点ないぞ

:初配信だぞ何やってんだwww

:しれっと爆弾発言やめろww

:やっぱなしにはなんねぇよww


「そうだそうだ、明日以降についての話をしなきゃだ。まぁデビュー前からそうだったんだけど、うちの真来がダメダメで。明日以降うちが泊まり込みで真来に色々教えることになったの、めんどくさい。てことで何日か真来の家から配信することになるからまぁどっちの枠も後ろから変な物音とか聞こえても気にしないでって感じで」


ちなみにさげの内心は不安一色だったりする。

真来の家に行ったことはないが、あの脳筋がまともに家事とかできると思えない。

とはいえさげ自身は運営への提出物とか配信とかの仕事以外ではできるだけ寝ていたい。

流石に自分の家の家事くらいはちゃんと熟しているが、他人の家の分なんて当然やりたくない。


ていうか数日レクチャーしたところであのアホがまともに配信できるわけないだろ。

また何か設定を変える必要が出てくるたびに頼ってくるのではなかろうか。非常に面倒くさい。


そう思っていたのだが。


【コメント】

:お願いします

:もういっそ一緒に配信してもいいのよ?

:その方が個人情報とか危なそうだけど大丈夫?

:いやもうほんとお願い

:信じてる、信じざるを得ない

:真来ちゃんの未来はさげちゃんにかかってる


そんなコメントばかり寄せられては思わず頬も緩むというものだ。


「……ん、任された」

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