五期生初配信 2

『《萌乱真来》どれだけ殴ってもPCが言うことを聞きません《ミラライブ五期生初配信》』


【コメント】

:まーた難読来た

:また化け物来た

:もらんしんく……???

:勇者の次は何だ、凶戦士か?

:頼むからまともであれ


「あ、あー、あー、これ聞こえてる?」


真っ暗な画面に響く女性の声。


「あれ?コメント表示されねぇ……これ配信できてんの?……ッチ、クソPCが、さっさと仕事しやがれ!」


ガッ!


――――。


――――――――。



――――この配信は終了しました――――。



……。


……まず2、3か所ツッコませろ。


視聴者全員がそう思った。


そしてサキたちミラライブメンバーを含むほとんどの視聴者が取った行動は同じ。当然公式シイッターのチェックである。


ミラライブ公式


『機材トラブルにより、本事務所五期生『萌乱真来』の初配信は10分遅らせて放送致します。

皆様には多大なるご迷惑をおかけすることを心よりお詫び申し上げます』


機材トラブル。

いや、機材トラブルっていうか本人が機材を破壊したよな?

10分でなんとかなるレベルの損傷なのか?


そう思っているとミラライブの公式シイッターが更に更新される。


ミラライブ公式


『は?あの新人何なん?なんでお前が設定ミスしたのをPCのせいにして蹴飛ばす??脳みそ筋肉でできてるんですか?むしろ蟹みそでも詰まってるんですか?いや多分蟹みそに詰め替えた方がまだまともに動くよな。もう今から詰め替えに行ったろかあのボケナス』



……。


公式さん!?!?


唖然としていると、ものの数秒でそのシイートは削除された。


ミラライブ公式


『本社従業員のアカウント切り替えミスにより、不適切な投稿してしまいましたことをお詫び申し上げます。ちなみに言葉遣いはともかく内容に関しましては従業員の総意の代弁に近いものです、ほんとに何やってんだあの新人』


……。


公式さん!?!?


『《萌乱真来》どれだけ殴ってもPCが言うことを聞きません《ミラライブ五期生初配信》』


「……ッスゥゥゥゥゥゥ……え、えーっと皆さん聞こえてますかぁ~?」


【コメント】

:やっと始まった

:何やってんだマジでwww

:公式にボロクソ言われてるのほんまwww

:何があったんだよww

:なんで機材蹴飛ばして破壊したのに10分程度で復旧できてんだww


「あ、さっきの醜態に関してはアレだ、PCを蹴とばしたら足引っかけてロンケーブル?が外れたから回線が死んで配信が止まっただけ。なんか壊れてたから新しいのに付け替えたら直った。多分もう大丈夫」


ちなみにこの間配信画面は真っ黒である。


「おいさっさと顔映せ」なんてコメントを視聴者が打つ前にとある耳慣れた音が聞こえてくる。


ビスコの着信音だ。


「え、マネージャー?今配信中なんだけどなぁ」


と言いながら出る真来。


「早く配信画面を映しなさい!!〇BSの画面見たら真っ暗なの分かるでしょ!!」


「あ、今見ました。〇BS最小化してました」


「配信中は常に一番前に置いておきなさい!!何のために運営が3枚もモニター用意したと思ってるんですか!!!」


「あー、あれ繋ぎ方よく分からなくて今一枚しか使ってないです」


「お前マジで覚えとけよ。今度本社に来たら殴るからな。ガチで。脳みそ引きずり出して代わりに蟹みそ詰め込んでやる」


【コメント】

:ロンケーブルって何だよ、LANだろ

:全部聞こえてるのほんま

:なんでその音配信に乗ってるんだよwwwwwww

:〇BSの設定ろくにできないのにビスコの音はしっかり入ってるの何www

:お母さんかよww

:あ、この人かさっき公式垢で誤爆したのw


うん。全部乗ってる。何故か完璧な音量バランスでマネージャーさんの声が。


「……は?もしかして私の声配信に乗ってる?」


「あー、多分、はい。前に〇BSの設定色々いじってた時に多分ビスコの音入るようになっちゃったっぽいな」


「お前ほんとに死ね。さっさと初配信終わらせて死ね」


「それ、マネージャーが言う言葉か???」


そんなツッコミの直後に聞こえるビスコの通話終了の音。

マネージャーさんの献身的?なサポートのおかげでなんとか配信画面はまともに。


背景はどこかの訓練場のような雰囲気。砂で覆われた地面から生える何体かの木人や、地面に突き刺さった何本もの剣や斧。

そしてその前に立つのは一人の少女だ。


栗色の髪は後ろで束ねてポニーテールに。無骨な雰囲気の中で一層際立つ大きくて美しい金色の瞳。その身を包む鎧には似つかわしくない吸い込まれるような白い肌。


美人だ。大人っぽい顔立ちも相まって美人だ。


「はい、てことで色々トラブルはあったがとりあえず初配信を進めていこう。そうだな。まずはさっきのマネージャーからもらったプロフィールだな。出し方は……えーっと……これをこうして……あれ、こっちじゃない。……えーっと、ああ、そうだそうだ、これで……よし」


名前:萌乱 真来(もろん まくり)

種族:人間(戦士)

年齢:22歳(脳年齢3歳)

詳細:勇者である光と一緒に旅をする女戦士。その人並外れた膂力で多くの魔物を殲滅してきた。ちなみにただのアホ。脳筋っていうかアホ。ほんとに救いようがないくらいアホ。これを書いてる時点で既にこいつがちゃんと初配信を始めて終われるのかが心配になってる。頼むから切り忘れだけはしないでくれよ。切り忘れて個人情報晒すとかなったらマジで困るから。いやお前の個人情報は別にいいんだけど他のメンバーのだけはやめろよ。本気で訴えるぞ。


「半分くらい不満と忠告だったんだけど。てかあたしそんなアホじゃないし。全く、切り忘れなんてするわけないだろ?」


【コメント】

:マネちゃん好きすぎる

:もう信用ねぇよ

:てかまた難読……

:名前どういう意味よ

:配信開始がこの時間の時点でもう諦めだよ


「てかあたしあまりにも可愛くないか?ほら、こんなに笑顔が眩しい美少女だぞ、惚れただろ」


配信画面上では美人女戦士が身体を左右に揺らしたり笑顔でウィンクしたりしている。

可愛い。普通に可愛い。性格がこれじゃなければ。


「ちなみに名前の由来はマネージャーに聞いても教えてくれなかったよ。まぁいいや可愛いし。まくりなんてまるでピストルとか上手く使えそうな名前だろ?いやまぁ実際使えるんだけど。戦士だし」


【コメント】

:勇者と戦士か。あと一人は……?

:やっぱ戦士というより凶戦士だろ、知性を犠牲に攻撃力上げるタイプの

:まぁいくら強くても魔王には勝てないんだけどな(定期)

:見た目可愛いんだけどなぁ

:見た目だけ美人なのが逆に許せん

:#戦士とは


「あ、ちなみにラスト一人は魔法使い?賢者?的な感じのコンセプトだ。リヒトの頭がちょっとアレなのをあたしと次の子でなんとか補う感じのパーティーだな、うむ、いいバランスだ」


その直後コメント欄が「?」で埋まったのは言うまでもない。


その後短くなってしまった時間の許すまでコメントとプロレスを繰り広げ、真来の初配信はなんとか無事に終わった。

ちなみに配信終了を宣言して挨拶した数秒後に『あっぶね』って声が聞こえてきたのは言うまでもない。

その直前にビスコの通知音が入っていたことももちろん言うまでもない。

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