五期生初配信 1

さて、四期生の三人がミラライブに加わってもうそろそろ一年になる。


三人ももうミラライブに慣れてきて、それぞれで先輩らとコラボしたり四期生三人でコラボしたり個人配信を行ったり……。


『可哀想は可愛い』を体現したようなくるみちゃん。


プログラミング関係やイラストなどのクリエイティブな能力を活かした配信で人気を博すスピカちゃん。


可愛いギャルとヤ〇ザ、あと時々垣間見えるドMで様々な層のファンを獲得したモモカちゃん。


それぞれがそれぞれのキャラを確立し、四期生たちもミラライブ全体も概ね軌道に乗っていると言っていいだろう。


そんな中、ミラライブの公式シイッターからとある発表があった。


当然ながら、五期生のデビューに関することだ。

これまでと同じような形式で行われるらしい。


私たち三期生のデビューからもう一年と少しくらいだろうか。


……今回はどんな化け物が来るのだろうか、そんな期待と不安半分ずつの気持ちで初配信を待つのであった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



『《希望光》おいこちとら勇者だぞ頭を垂れよ《ミラライブ五期生初配信》』



――――ボクは勇者。



――――世界を救う勇者。



――――人の家のタンスや壺や樽をブチ壊しても許される勇者。



――――店から盗んだものをそのまま店主に売りつけても買い取ってもらえる勇者。



――――てことで配信でもすっか。


真っ黒な画面にそんなナレーションが流れた後、画面が切り替わる。

配信画面、その背景はよく見るRPGの宿屋のような感じ。


「みんな、ボクの声聞こえてる?」


画面に誰も映っていないままに、そんな声だけが聞こえてくる。


【コメント】

:まずツッコませろ

:勇者の意味調べてこい

:魔王の次は勇者か

:聞こえてるけど顔見えてねぇっす

:可愛い声で変なこと言ってんじゃねえwww


「お、聞こえてるっぽいね。じゃあボクのご尊顔を見せてあげよう」


そんな声が響いたと思うと、画面にいきなり女性のアバターが表示される。


……まぁ、勇者だ。典型的な勇者だ。

黒髪に紅い目。左右二つに分けられた黒い前髪の間から覗く綺麗なサークレット。

背中に剣を背負い、左手には何やらオーブのようなものを持っている。というか鷲掴みにしている。


「どう?可愛いだろ?貢ぎたくなっただろ?」


【コメント】

:おい何言ってんだこいつ

:てか名前の読み方何、きぼう ひかり?

:ユウカの系譜の者か?

金宝ユウカ🔧:あんま金せびったらあかんで

:残念ながら収益化まだなんだよな

:ねぇこれ初配信だぞ(定期)


「お、コメントにユウカ先輩も来てるね。じゃあとりあえずプロフィールを見ながらお話していこうか」


そう言って光が何度か配信ソフトを操作すると、一枚のウィンドウが映し出される。


名前:希望 光(ヘルト・リヒト)

種族:人間(勇者?)

年齢:21歳(精神年齢はガキ)

詳細:世界に平和をもたらすことを目的として活動している勇者……のはずだったのだが、その実態は自分の利益最優先で行動するもはや悪魔に近い存在。まぁクソガキ枠。ていうか面接のときからそうだったけどこんな傲慢極まりない態度でなんで勇者やろうと思ったんだ、身の程をわきまえろクソガキが。


「うん、なんかマネちゃんからのボクへの評価あまりにもひどくない?一から十まで全部批判なんだけど。一応ボク勇者だしこの会社のVなんだけどなぁ。あ、ちなみにボクの名前の読み方ノーヒントで分かった人いる?いないよね?これだから村人Aたちは……」


【コメント】

:こんなにボロクソ言われる勇者前代未聞だろ

:面接の時から傲慢極まりないって、なんで受かったんだよおい

:なんかマネちゃんキレてね?wwww

:なんかもうクソガキ以外の情報入ってこねぇw

:クソガキと言われる所以がよくわかった

:なんだこいつ

:あまりにもミラライブすぎるだろ


「ちょっとみんな?ボクはガキじゃないって。ほら、プロフにも書いてある通り立派な大人なの。まぁいいや、これからの配信を通してボクが如何に清廉潔白で仙姿玉質な勇者かをみんなに見せてあげよう。てことで次回以降の配信もちゃんと見に来るんだよ。そしたらボクのこのチャンネルが収益化できるようになるのも早まるから。君たち、勇者の言うことは聞いておこうね。ほら、さっさとチャンネル登録するんだよ」


まるで当然と言わんばかりの表情でバチコンとウインクを決める光。

コメント欄の大半は面白がっていじるか『まぁミラライブだしな』と諦めるかの二択。

お前ほんとにミラライブでよかったな。


「えーっと、あ、気になるコメント拾ってこう。『ミラライブには魔王と呼ばれる先輩がいますが討伐するんですか?』だって。まさか、何言ってるの?ボクは旅の途中の街のカジノに人生全部突っ込むタイプの勇者だよ。魔王なんて旅に出るための口実に過ぎないんだから。だから安心してね魔王先輩、怖がらなくてもボクはあなたとは敵対しないから」


【コメント】

:無理だよ

:しかし 魔王からは 逃げられない !!

狐舞サキ🔧:お前後で校舎裏な^^

:敵対しないとか言いながらケンカ売っていくスタイルwwww

:お前サキちゃんの配信見たことないんか???

:やっちゃえサキちゃん


「噂してたらサキ先輩!!!もしよかったら今度一緒に遊びましょうよ!勇者対魔王で何かゲーム対決とかしたら面白そうじゃないっすか??」


【コメント】

:舐めてる、あまりにもサキちゃんを舐めてる

:魔王にボコボコにされる姿が幻視できる

:もうこれ以上魔王を怒らせるな死ぬぞ

狐舞サキ🔧:初見で対峙した魔王に勇者がボコボコにされるのは様式美まである

:ミラライブの魔王にもし勝てたら『もうお前が魔王になれ』レベルだよ

:安直に『勇者だから勝てる』とか思ってそう


「あーあみんなそんなこと言っちゃって。ボクの実力も知らないくせによく言うよ。ま、今後のコラボを楽しみにしておいてって感じで。あそうだ、この後の二人について忘れないうちにちょっと情報出しとくね。大丈夫、運営から言ってもいいって言われてる内容だから安心してね」


再び光が何度がソフトを操作し、一枚の画像を配信画面に表示させる。

そこには中央で立派な剣を構える光と、その両隣に二人の女性のシルエットが。


「はい、この二人……まぁこの後デビュー配信する二人なんだけど。この子たちは僕のパーティーメンバーって設定なんだ。ボクが勇者で、彼女たちはそのお供。つまりボクが五期生のリーダーってわけ。まぁRPG的にはまぁまぁバランス取れてないパーティーなんだけどね。あ、そうそう。RPGといえば、ボクが得意なゲームについての話でもしておこうかな。今後の配信内容とかにも関わってくるからね。まぁ当然だけど一番好きなのはRPG。有名なD〇とかF〇は当然、メガ〇ン関係の作品も大体網羅したんじゃないかな。だから今後の配信では色々なRPGをプレイするのがメインになると思う。まぁボク勇者だから、それ以外でも何でも卒なくこなすんだけどね、ハハ」


【コメント】

:唐突なマシンガントークで笑う

:オタク特有の早口

:トーク力バケモンか

:めっちゃ喋るやん

:何わろとんねん


その後も、それとなく光の扱いを察した視聴者たちのツッコミやイジリを受けつつ光のデビュー配信は終わりを迎えるのであった。

言っていることは厚顔無恥ではあるが、何気にコメントをしっかり追っていたり話が途切れなかったりと、勇者らしい……とは程遠いが勇者を名乗るだけはあるトーク内容から垣間見える有能っぷりに多くの視聴者が舌を巻くとともに、こう思うのだった。


『この勇者クソガキ、さっさと魔王に理解らされてくれねぇかな』


と。

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