どうしてこうなった!!!!!

今、私は多分ほとんどの人が遭遇したことがないであろう状況に陥っている。


「お前か、俺らのシノギを組長にチクったんは」


「はよ答えんかいアホ」


金髪と坊主の若い男二人に拳銃を突き付けられているわけだ。

随分と殺気立ってドスの効いた声色。

はじめましてだが聞いていた特徴と一致するのでなんとなくこいつらが誰かは察せる。


「ああ、あなたたちが高橋さんの息子さんイジめてたって人?」


学校帰りに唐突に連れ込まれた路地裏、そこでの出来事である。

どうやら私が桃花ちゃんに連絡したことで彼らは組で何かしら痛い目を見たらしい。

桃花ちゃんが私の名前出すわけないし、全くどこから調べたんだか。


「うっせぇ!そもそも先に舐めたことしてきたのはあのガキなんだよ!」


「そんなキレるって一体何されたのよ……」


私がため息混じりに吐いたその質問に、さっきまで威勢がよかった男たちは急に歯切れが悪くなる。

どうせしょうもない理由なんだろうな。


「……ラーメン屋の列に割り込んだら注意してきやがったんだよあのガキ」


「思ってた100倍しょうもな!?てかお前らが100%悪くない!?」


「うっせぇ!!俺らがどんだけ恥かいたと思ってんだ!!てか俺ら銃持ってんだぞ!!なんで全くビビってねぇんだよ!!」


ビルの壁にもたれかかる私に彼らが拳銃を突き付けてきているとった構図だ。まぁ確かに女性がこんなところに連れ込まれて拳銃を突きつけられたら少なからず怯えるのが当たり前か。


「きゃーこわーい。ほんであんたたちは私にどうしてほしいの?」


「……一発殴らせろ」


「あ、そんな要求でいいの?ちなみに知ってると思うけど私桃花ちゃんの友達だしあんたたちの組長さんは私のお母さんに頭上がらないらしいけど殺しておかなくて大丈夫?」


「……もしかしなくても俺ら絡む奴間違えた?」


「今更何言ってるの!?」


思わずツッコんだが、もうなんとなく理解しつつある。こいつらアホだ。絶望的なアホだ。なんで私が桃花ちゃんの友達だってことを理解した上でこんな変なことしようと思ったんだ。


「おい、どうする?このまま攫ってどっか沈めるか?」


「おお、ヤクザっぽい。ちなみにどうやって?」


「え?」


「攫うんだったら車とかないとキツくない?人一人抱えて移動するのって結構目立つと思うんだけど?」


「なんで自分を攫う話にアドバイスしてんだこいつ?」


思っていた反応と違うからか、分かりやすく頭の上にクエスチョンマークをいくつも浮かべるヤクザAB。多分今の状況もこいつらの思いつき由来の突発的な物だろうし、なんかもうこれ以上こいつらに構ってても何も生産的じゃない気がしてきた。


「ねぇもう行っていい?この後予定あるんだけど」


「い、いいわけねぇだろ!」


「じゃあどうしたらいいんだよ……。そもそもさ、こういうことするならもうちょっと計画的にしないと」


「な、てめぇに言われる筋合いねぇよ!」


「いやね?町の往来でいきなり女子大生拉致なんてしたら絶対通報されるに決まってるんだから攫うにしてもボコるにしても手早くしなきゃ……ほら」


「おいお前ら!!何やってるんだ!!」


「ほらぁ、こうやってもたもたしてるからお巡りさん来ちゃったじゃん」


流石に学校から帰ってくる途中にいきなり銃で脅されてこんなところに連れ込まれたんだもん。近くにいた人たちが通報していてもおかしくない、ていうか通報してないとおかしい。


「ほら、これだけは見つからないようにしなきゃヤバいよ?」


「なっ……いつの間に!?」


私の手に握られていたのは二丁の拳銃。先ほどまでヤクザABが握っていた物だが、お巡りさんの登場に驚いて隙だらけだった彼らから掠め取っておいたのだ。


「すみませんお巡りさん、この人たち道に迷ったらしくて。道聞かれてたんですよ」


お巡りさんに見えない角度で拳銃をとりあえずカバンに放り込み、何事もなかった風の笑顔を浮かべてお巡りさんの方に向き直る。


「いや、多分君かな?女子大生ぐらいの女の子が攫われたって通報があったんだけど……」


「うーん、通報した人の勘違いじゃないですかね。見ての通り、私何もされてませんし」


「うーん?うーん……」


「じゃあ私、この人たちを駅まで案内しなきゃなんで失礼しますね」


そう言うと、終始ぽかんとしてるヤクザABについてくるように合図してお巡りさんの脇を抜けて大通りに出る。


よかった、流石に被害者と思われてた人がなんでもなさげだったらそれ以上は踏み込めないだろう。

ちなみに私がこいつらを庇ったのは別に優しさとかそんなんじゃない。何かしらの事件に巻き込まれたってなると警察での事情聴取でめちゃくちゃ時間取られる上に高畑さんに怒られることが確定しているからだ。もう嫌だよあの人に怒られるの。どうせお母さんとかにも連絡いくし。


ヤクザと揉めたどころかそいつらに銃刀法違反の疑いなんてなったら大事も大事。どれだけドヤされるか分かったもんじゃない。


どうやらお巡りさんは困惑しながらも諦めてそのまま交番に戻って行ってくれたよう。怪しまれなくてよかったよかった。


「あ、あの」


「何?」


お巡りさんの姿が見えなくなったあたりで坊主の方のヤクザが話しかけてくる。

その目はなぜかキラキラと輝いている。

え、いや、怖いよ普通に。


「ありがとうございました!!深山さん……いや、姐御!」


急に頭を下げる坊主ヤクザに困惑する私に、隣の金髪ヤクザも同じように頭を下げる。


「こんな俺らを庇ってくれるなんて……。しかもマッポ相手に一歩も動じないあのお姿!!流石はお嬢のご友人、天使、いや女神です!!この御恩は一生忘れません!!」


「……姐御?女神?」


なんだ?謎の称号はもう魔王だけでお腹いっぱいなんだが?


「いきなり変なことしてすんませんっした!!もう金輪際姐御には迷惑かけないと約束します!!あ、これ俺の電話番号っす。もしシメたい奴とかがいたら連絡ください、すぐに駆け付けますから!!」


そう言って金髪が名刺を渡してくる。

わー、今どきって下っ端のヤクザでも名刺常備してるもんなんだなー。いや、ていうか誰かをシメるために呼びつけたりしないから。基本的に自分でどうにでもなるし多分アリシア先輩とか呼んだ方が効果的だし。


「お、おい抜け駆けすんな!!あ、姐御!これ俺の電話番号です!!雑用でもなんでもしますのでいつでも呼びつけてください!!」


坊主も同じように。

わー、なんか急に舎弟っぽいのが二人もできたぞー。


「俺らは失礼させていただきやす!!ほんと、ご迷惑おかけしましたぁ!!!」


「したぁ!!!」


そう言い残した二人はダッシュで私の元を去っていく。


「さて。今日の配信は何しようかなぁ」


半分くらい現実逃避しつつ呆然自失とした私のそんな呟きは誰の耳にも届かぬままに冬空に吸い込まれていくのであった。


どうしてこうなった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


アトガキ


最近更新ペース落ちててごめんなさい。

大学で論文書かなきゃだったり炎の国に新しいマップが追加されて探索しなきゃだったりで忙しかったのじゃ……。

一日に小説2~3000字書く代わりに論文6000とか書いてたから……シテ……ユルシテ……。

ちなみにもう両方終わったので明日以降はまたいいペースで更新できるんじゃないかな、知らんけど。

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