すぽ〇ちゃ! 3

「サキにバスケットで勝負挑まなくてほんとによかったよ」


「えぇ……やりたかったなぁ……」


結局私とお父さんの1v1を見てさっさと諦めてしまったクリス。

一緒にやってみたかったのに。


「どうせなら勝ち負け関係ない種目やればいいんじゃない?ほら、ローラースケートとかさ」


「サキのことだからどうせトリプルアクセルとかするんだ」


「しねぇよ!できねぇよ!!」


口をとがらせながらもローラースケートのリンク?に向かうクリス。


ローラースケートこそ本当にこういうところに来ないと触れる機会がないからなぁ。

全くと言っていいほどできる気がしない。


リンクの隣に設置されているロッカーに荷物を仕舞い、自分の足のサイズに合ったシューズに履き替える。


「おわっ、これ思ったより歩きづら……」


普通に歩こうとしても滑るし、左右のバランスも取らなきゃ足首が折れそうになる。


「サキいくよ~」


「わっ、ちょっとクリス引っ張らないで!!」


どこか慣れた様子のクリスに腕を引っ張られ、リンクの中に連れ込まれる。


「うわっ、ちょ、わぁっ!?」


そもそもの外の床との感覚の違い、それに加えてクリスに引っ張られたことによりバランスを崩して派手に転倒。


「いったたたた……」


超久し振りの尻もちめっちゃ痛い。


「サキ大丈夫?」


「大丈夫?って訊くくらいならはじめから無理に引っ張らないでよクリス……」


目の前で屈んでこちらを見やる美少女にそう苦言を呈しながらなんとか立ち上がる。


こちらを心配して……ないなこれ。ニヤニヤしてやがる。


「おいクリスわざとだろ」


「はにゃ?何のことか分からないにゃ?」


「だからそういう変な文化ばっか吸収するんじゃないよ。あ、ちょっと」


私が頬を膨らませると、私の手を離したクリスはさっさと離れて行ってしまう。後ろ向きで。


「ちょっと、クリス危ないよ!?」


「大丈夫、私たち以外にお客さんいないし」


そう笑いながら軽快な動きでスイスイと移動するクリス。

後ろ向きだというのに壁にぶつかりそうになったら方向転換してリンクの中をぐるぐると移動し続ける。

器用だなぁ……。


「えぇ……どうやったらそんなに動けるんだ……?」


一方で私はなんとか手すりを掴んだまま移動の感覚を掴もうとしている状態。


私らしくもないって?

いやこれほんとにむずいんだよ。ちょっと重心ズレるだけでバランス崩れるんだから。


そんな風に自問自答しながら練習していると、すいーっと近づいてきたクリスが私の目の前で止まった。


「サキがそんなに苦戦してるの見るの初めて。なんか意外」


「私にだってできないことはあるんだよ。それに、初めてでクリスみたいにスイスイ動けるわけ……うわぁ!?」


クリスに集中してバランスを取ることから気を逸らしてしまい、つんのめってしまう。


「え、ちょ」


「あ」


なんとか体勢を立て直そうとするもそれは叶わず、クリスを巻き込んでまた派手に転倒してしまう。


「あいたたた……ごめんクリス、大丈夫……」


クリスを下敷きにして倒れるような形で転んでしまった。早く退かなければ……


気が付くとクリスの綺麗な顔が超目の前に。

私たちの体勢も相まって、なんか私が押し倒したような構図になっている。


おい、顔を赤らめるんじゃない。ほんとにそういう構図になっちゃうだろ。


「サキのびっち」


「そこはえっちだろうが」


いつも通りのクリスに辟易しながらなんとか立ち上がる。


「はぁ……ほんとにごめんね。痛いところとかない?」


「大丈夫だけど……強いて言うならハート?」


「心臓痛いの?大丈夫?救急車呼ぼうか?」


「サキ絶対分かって言ってる。もう、ほら練習付き合ってあげるから」


そう言ってこちらに手を差し出してくるクリス。

先ほどのニヤニヤが脳裏を過ったため警戒しながらもその手を握る。

しかし、予想に反してクリスはそのままゆっくりと動きながら注意することなどをレクチャーしてくれた。


「重心で意識するのはこの辺。加速する時は足のこの辺に力を入れる。バランスを崩しそうになったら意識するのは……」


見本を見せながら分かりやすく説明してくれるクリスのおかげで、数分もすれば大分コツが掴めてきた。


「なるほど、こうやって……おっとととと」


しかしまだ時々バランスを崩す。いやほんとに難しいなこれ。

自分の足元にばかり集中してしまい、中々顔を上げることすら難しい。


「ほう。早紀がそんなに苦戦するなんて珍しいな」


「いやこれ、思ったより難しいんだって……ば……」


唐突に耳に入ったお父さんの声に本人の方を見ることもなく半ば反射的に反論する。


「俺の動きを参考にすればいいんだよ」


「……それが」


なんとか壁際にたどり着いて手すりを掴み、息を整えてから顔を上げて文句を言う。


「それができたら苦労しねぇんだよ!!!!」


目の前でくるくる回ったり跳んだりしているお父さんに向けて。


あと無言でただただ人間離れした技を繰り出し続けるお母さんに向けて。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「いやぁ~、久し振りに運動したなぁ」


「もう今から料理とかする気力起きないわ。どこかで食べて帰りましょう」


「えぇ~、誰が運転して帰ると思ってるんだよ」


「あなたでしょ?」


「やったぁお父さんありがとう」


「サキパパ懐深い、流石」


「ちくしょう三対一かよ。酒飲みたかった……」


ローラースケートの後もいくつかも設備で遊んだ私たち。

流石に時間も遅くなってきたので帰宅中だ。


「クリス、どうだった?楽しかった?」


「最高に面白かった。まさかサキの情けない姿をあんなに見れると思わなかった。また行こう」


「次行く時は流石に今日ほど下手じゃないと思うけどね!?」


ニヤニヤを隠そうともしないクリス。可愛い顔してこいつ案外腹黒いぞ。

まぁ実際、クリスのおかげで今日だけでかなり上達したから次があってもそんなに醜態をさらすことにはならないと思うけどね。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


アトガキ


クリス、本当はそんなに腹黒いわけじゃないんです。サキのことが嫌いとかでもないんです。

サキが中々上手くいかずに情けない姿を晒してたら誰だっていじりたくなります。私だってそうです。

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