すぽ〇ちゃ! 2

こんなに注目されている中で卓球を続けるのも恥ずかしいので他の場所に移動する。


「ここでできるスポーツでサキがやったことないのって何?」


「えぇ?でも多分バスケ以外はやったことないよ?ダーツとかビリヤードなんかはどういうルールなのかもあんまり分かってないし」


バドミントン、フットサル、野球なんかのスポーツはちょくちょく触ったことがあるが、ラウンド2に来ないと触れることのないような種目は本当に全く触れたことがない。


「サキが慣れる前に勝てるのないかな……」


顎に手を当てて熟考するクリス。別に勝ち負け気にしなくていいじゃない……。


「私が慣れる前っていうか、クリスが得意なのとかないの?」


「バスケットが一番得意だったんだよ!まさかサキがそんなに強いとは思わないじゃん!」


「クリスの前でバスケやったことないし配信でもほとんど見せてないと思うんだけど?」


「よし、じゃあサキパパさんとタイマンしてるとこ見せて。それで判断する」


「俺かよ!?バスケなんか何年ぶりだ……?」


あからさまにげんなりとした表情を浮かべるお父さん。

でもなぁ……子供の頃に私にバスケ教えてくれたのお父さんなんだよなぁ……。


あと、1on1は普通に1on1でいいんだよ、タイマンじゃないんだよクリス。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「こうしてボール持って対面するのも久し振りだな」


「子供の頃みたいに簡単には負けないよ」


私の目の前には腰を落としてボールを持つ父。

幼い頃には絶対に勝てないと思わせるほどのプレッシャーだった記憶だが、今はそうでもない。むしろ昔勝てなかった相手を負かせてやろうという気持ちがふつふつと湧いてくる。


ルールはシンプルに、ディフェンス側にボールが奪われたりボールがコート外にこぼれたら攻守交替。シュートが外れてもオフェンス側がリバウンドを取れれば続行だ。


とはいえ私よりもお父さんの方が身長が高い。よっぽど運が良くないとリバウンドを取るのは難しいだろう。

ま、相手にシュートを打たせずこちらのオフェンスターンにシュートを外さなければいいだけの話だ。


ボールを持つお父さんがこちらに一度パスを出し、私がそれを返すと試合開始。


一旦ボールを持ったままドリブルを開始しない父。

私が手の動きを見てタイミングを予想し、一瞬で奪い取るつもりなのがバレているようだ。


その後数秒間、一切の動きがない。正確には目線の動きや小さな重心移動などで細かいフェイントを入れてきているだけなのだが。


……と、急に父がボールを頭上に掲げ重心を大きく後ろにズラす。どうやらフェイダウェイで3Pを狙っているようだ。


仮にフェイントだったとしてもディフェンスしないことにはシュートを決められてしまう。

こちらも合わせて重心を前にズラして手を掲げ、シュートコースを妨害する。


直後、それを待っていたと言わんばかりの速度で腕を下ろし、ボールを地面に突いた父は低いドリブルで私の脇を抜けようとする。


しかし当然その動きは読めている。

こちらも素早く体勢を立て直すとバックステップで父の進路を妨害。ついでにワンチャンに賭けてボールに手を伸ばすのも忘れない。


「チッ」


短い舌打ちをしながらそれを回避し、ドリブルを続ける父。

おい何が何年振りだ。相変わらずクソ上手いじゃねえか。


次に父は背面、股下などを通しつつ足の動きや重心移動などでフェイントをかけながらドリブルを続ける。

地味にこちらの視線を誘導するようなボールの動きを組み合わせており、一瞬でも気を抜けばボールを見失ってしまいそうなほど。


一瞬でもフェイントに引っかかったら抜けられること間違いなしだ。そう思って油断なく動きを観察していると、急に父がボールを上に投げ上げた。片手で。まるでレイアップシュートのようなフォームで。


「え?」


あまりに予想外の動きに反応できず困惑する。


「部活とかでお手本通りのバスケやってるとこういうプレイには馴染みがないだろ」


綺麗な放物線を描いたボールはそのままシュパッと小気味よいネットの音を立ててゴールの中へ。


あんなフォームであんなシュートを打つなんて……。


「ハイループレイアップってやつだ。早紀の身長じゃ防げねえよ」


ニヤニヤしてそう煽ってくる父。


ムカつく。


「じゃあ次私の番だね」


ボールを拾い、3Pラインに立つ。


眼前で待ち構える父の表情からは先ほどのニヤニヤは消え、また真剣なオーラを放っている。


そんな父にパスを出し、返ってきたボールを受け止める。


そのままボールを地面に突き、ドリブルで突破の機会を窺う。


「さっきの俺みたいにしなくていいのか?」


「お手本通りのバスケで抜いてやろうと思いましてね」


そう返し、先ほどの父と同じように多彩なフェイントを混ぜ込んだドリブルを。

しかし父の身体や目の動きからは一分の隙も見えない。

となるとやはり……。


「ほっ」


先ほどの父と同じように後ろの重心をズラす。

フェイダウェイを警戒して妨害しようとした父の脇を抜き去るかのように右前に急加速。


そこまで予想していたであろう父が妨害のために重心を後ろに移動させる。


しかし私の目的はそこではない。

無理やり姿勢をグッと戻すと、左後ろに大きくバックステップ。

それに反応して詰めてくる父だが、私は勢いそのままに更に後ろにもう一度跳んでそのままシュート。

最初からこういう動きをしようと決めて動いていた人間とそれに反応する人間ではどうしてもコンマ数秒の差が生じるものだ。


シュートコースを妨害しようとする父の手を僅かに超したボールはそのままゴールの中へ。


「はい、これで3-2だね。お父さん衰えたんじゃない?」


「お前がバカ強くなっただけだよ。なんであんなアホみたいな姿勢から3P決めるかな……」


「え?これくらいならむしろ外す方が難しいと思うんだけど」


「お前世界中のバスケプレイヤーに今すぐ謝れ」


父のそんなツッコミを最後に、お母さんとクリスが待つコートサイドに戻る私たち。


「じゃ、やろうかクリス」


「誰がやるか!!アホ!!ビ〇チ!!!」


「ビ〇チは言い過ぎじゃない!?!?」


「だから言ったのに。早紀相手なんて私だって負けることあるんだから」


「……え?」


そんなクリスの困惑をよそに、私たちはバスケコートを離れるのだった。

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