すぽ〇ちゃ! 1

「おぉ~、何気に来るの初めてだ」


私たち家族は今、ラウンド2という施設に来ている。

というのも、以前クリスに言われたように大学関連のことや配信のことで色々と忙しかったためにあまり一緒に遊べておらず、お父さんもこの前たまには私と遊びたいみたいなことを言っていたのでどうせなら家族みんなで遊びに行こうということになったのだ。


「それで、今日は何する予定なの?」


「ボウリングでもいいと思ったんだがな、どうせならクリスに色々体験してもらいたいしスポ〇チャにしよう」


駐車場から建物に向かいながらの私の問いに答えるのはお父さん。

メグ先輩の会社の仕事がかなり軌道に乗っているらしく、色々忙しい中で今日はたまたま休みが取れたとのことだ。


「いいねいいね。何ができるんだっけ?」


「確かビリヤード、ダーツ、バスケ、バドミントン、トランポリン、卓球とか……まぁ中入りゃ分かるだろ」


「わたしバスケットやりたい!イギリスでやってたから上手にできる!」


「「悪いことは言わん、やめとけ」」


「「なんで!?」」


目をキラキラさせるクリスに両親が声をそろえて制止する。

それに瞠目する私たちも息ぴったりだ。


いいじゃんバスケ、私も久し振りにやりたいよ。


「お前とやったらクリスが泣く羽目になるだろ」


「そ、そんなことないし。私だって久し振りなんだし」


「あ、サキもバスケットやったことあるの?」


「うん、中学高校の部活でね」


「じゃあダメだ。絶対やらない」


「クリスまで!?」


まさかの三対一。なんで私はどこでもこんな扱いなんだちくしょう。


なんて言ってる間に受付へ。何気に今は平日の真昼間なのでかなり空いている。ラッキー。

お父さんが会員らしいのでアプリで受付をし、残り三人はゲストとして登録。


初めて入る施設内には色々な道具が置いてあり、あれもやりたいこれもやりたいとわくわくする気持ちが湧き上がってくる。


「あ、サキはテーブルテニスやったことある?」


「あー、卓球?そういえばやったことないな。なんならルールも曖昧かも」


「やろう!!サシの勝負でシバき回したる!」


そう言って私の腕を引っ張って卓球台に連行するクリス。


「もうなんかそういう変な語彙の出どころが察せるようになってきちゃったよ」


できるだけ配信ではそういう面は出さないようにしてくれモモカちゃん。うちのクリスに悪影響だから。


……って。


「え、何そのフォーム。もしかしてクリスって卓球経験者?」


「最近大学のお友達と一緒にやってる。なんならインハイ?とかいう大会に出てた人にもこの前勝った。オラァ!!Die!!」


「ねぇガチじゃん!!って、うわぁ!?」


凄まじい気合いの入ったサーブになんとか反応してギリギリ返球。

何気にちょっと返しづらい回転かかってたし。

しかし甘くなってしまった返球を咎めてスマッシュを打ち込んでくる。

それもなんとか反応するが、返る場所はまたしてもギリギリだ。


「わっ、ちょっ、上手すぎだって!!」


「テーブルテニス初めてで全部返してるサキにだけは言われたくない!!」


「いやまぁ、返すだけならね……」


クリスの視線や動き、ラケットの面の向きなんかを見ていれば大体の角度は予想できる。この前のくるみちゃんのスナイパーと同じ要領だ。


とはいえそこにラケットを合わせることはできてもただ返しているだけで有効打にならない。しかも、初心者からすればどれくらいの力で、角度で、回転で返せばちゃんと入るのかも感覚が掴めていないのだ。


「よっ、よいしょ、ほいっ、あ、なるほど……、そこっ!やったー!」


「なんでぇぇぇ!!??!?」


返す球を少しずつ強くしたり回転を変えてみたりして感覚を徐々に掴む。

毎回クリスが強打で返してくれるおかげで逆に感覚がブレずに返しやすかったというのもあるが。

もしこれで色々変化球を混ぜられていたらヤバかったかもしれない。


「あーあ、だから早紀を相手にするのはやめておけとあれほど……」


「早紀を倒したかったら初見殺しするしかないんだから。ちゃんと不意打ちしなきゃダメよ?」


「それでも対処しそうだからなぁ……。我が娘ながらまさに魔王って感じだよな」


そんな声が隣の台から聞こえてくる。

言わずもがなお父さんとお母さんだ。


二人は時々こちらの様子を見ながらカコッ、カコッ、と小気味よい音を響かせて軽快なラリーを続けている。


いや、インハイ出てるような人に勝てる子に不意打ちされたら流石に無理だって。

あと、お父さんまで魔王呼びし始めるのやめてマジで。


カコッ……カコッ……ガコッ……ガコッ……バンッ……バンッ……バチィン……バチィン……


「ふんっ!」


「はっ!」


和やかな雰囲気だと思っていたラリーがいつの間にか破壊的な着弾音を奏で始めている。


もう二人ともこちらを見ることもなく、残像すら残しそうな勢いのピンポン玉と相手の動きだけを凝視している。


「見て、クリス。あの人たちを本当の化け物って言うんだよ。私なんてまだまだだって分かるでしょ」


卓球台を挟んで私と同じように呆然とするクリスにそう話しかける。


「でも、化け物二人から生まれたサキは将来きっとあんな感じに……」


「ならないよ……。少なくとも自分の子供の目の前であんなに闘志むき出しで卓球する親にはなりたくないよ……」


ここが世界大会の決勝か?と疑いたくなるような高速ラリーを繰り広げる両親の表情は鬼気迫るを超えて最早ほぼ真顔。しかし両者の目の奥には殺意に近い闘志がメラメラを燃え上がっているのが見て取れる。


なんか気づいたらあまりのラリーの音のえげつなさにギャラリー集まってきてるし。


いつまで続くんだろう……。そう考えていると、突然お母さんの放ったスマッシュが変な跳ね方をした。


まさか普通の打ち方に見せかけて回転を?いや、あの速度のスマッシュが曲がるってどんな回転……


そう思ったのもつかの間、一瞬目を見開いたお父さんがピンポン玉をする。

弾はシュルルルル……としばらく回転した後にお父さんの手に収まる。


「やめだやめ。俺らがガチでやりあったら玉がいくつあっても足りないよ」


そう言って卓球台にラケットを置くお父さんの手に握られているピンポン玉を見ると、その表面が大きく凹んでいる。どうやら最後のイレギュラーバウンドは、ピンポン玉が二人の凄まじい威力のスマッシュの応酬に耐え切れず変形したために起こったものらしい。


……お母さん馬鹿力すぎない?


「……はぁ……。もうちょっとで勝てたのに……」


「はぁ?互角だったろ?なんなら俺の方が優勢だったが?おぉん?」


「あぁ?寝言は寝てから言えやゴラ」


今度は卓球台を挟んでメンチを切り合う二人。

ラリーを見に来たギャラリーは魂を抜かれたような顔をしている。


「相変わらず仲いいなぁあの二人」


「ねぇどこが!?わたしにはケンカに見えるけどサキにはどう見えてるの!?」


つづく。

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