とある晩酌にて

「「かんぱ~い!」」


二人向かい合って缶をぶつけ、同時にお酒を喉に流し込む。

何気に久し振りのお酒だ。


「それにしても、メグ先輩がお酒飲むのちょっと意外ですね」


「そうね。よっぽど眠れない時や誰かとご飯食べに行く時に少し飲むくらいだから普段はあまり飲まないわ」


「ちなみに強さのほどは?」


「多分平均くらいだと思うわ。多分そこまで変な酔い方はしないから安心して」


目の前でそう言いながら笑顔で缶ビールを呷るのはメグ先輩だ。

普段のお嬢様然とした雰囲気とは大きく異なり、初めて見るTシャツ短パン姿からはかなり崩れた印象を受ける。それでも細かい所作などからお上品さが伝わってくるのだが。


「それにしても、こんなのでいいんですか?私何か作りますよ?」


「いいのいいの。友達とお酒飲む時なんてこれくらいがちょうどいいのよ」


テーブル……というかちゃぶ台に近い机の上に並んでいるのは缶ビール、レンチンの焼き鳥、おやつカルパス、ポテチ。メグ先輩と飲みに来てこのラインナップのつまみが出てくるとは思わなくて困惑したのを覚えている。

なんなら二人とも座布団の上に胡坐だし。


「確かに、こういうのも気楽でなんか落ち着きますね。初めて食べましたけどこの焼き鳥めちゃくちゃ美味しいです」


「そうでしょう。それ、安くて手軽なのにちゃんと炭火の風味もついてるから実はお気に入りなのよね」


幸せそうな笑顔を浮かべながら焼き鳥をビールで流し込むメグ先輩。


もう一から十まで違和感しかない。


「それで、なんで今日は私を呼んだんですか?」


今更だが、ここはメグ先輩の家。都内のマンションの一室で、広さは以前一瞬だけ訪れたメグ先輩の実家の部屋くらいだろうか。つまり一人暮らしにしては割と広めだ。


流石というか、所々に花や植物なんかが飾ってあってオシャレな雰囲気だしアロマが炊いてあって落ち着く香りも漂っている。

こんな庶民らしい食卓とのギャップがすごい。


「半分はサキちゃんと落ち着いてお食事したかったから。もう半分は私の会社の件について少し報告したかったからよ」


「なるほど。元気そうなのを見るに、結構順調そうな感じですか?」


「そうそう、深山さんがいらっしゃってからあのアホ共に変なちょっかいをかけられることもなくなったからもうストレスのほぼない生活を送れているのよ」


「そ、そうですか……」


ニッコニコでお酒を飲み続けるメグ先輩。気づけばもう三本目だ。

上半身がゆらゆらと揺れ始めている。

かわいい。


「てかメグ先輩大丈夫ですか?ちょっと飲みすぎなんじゃ……」


「ちょっとくらい良いじゃない!!最近色々忙しくて気張ってばっかりだったんだから!!」


「それは本当にお疲れ様ですとしか」


ただでさえ一人暮らしで家事の手間が増えているわけだし、それに加えて父親の葬儀、会社関連のうんたら……まぁ気が休まるわけがない。


「それに、こういう大変な時に限って変なリスナー湧くし!無視できないように赤スパでいらんこと言ってくるの本当に何なの?バカなの死にたいの?」


「た、溜まってますね……」


なるほど、メグ先輩は酔うと怒るタイプか。


「サキちゃんもサキちゃんよ!!」


「ほえ?」


「サキちゃんと一緒に遊んでストレス発散したいのに!!他の人とのコラボの予定いっぱい詰まってるみたいで全然誘えないんだもん!!ひどいよ!!」


「わぁこっちに飛び火きた」


ものすごい勢いでおつまみとお酒を消費するメグ先輩、もうほとんど私の言うことなんて聞いていないらしい。


「ねぇサキちゃん聞いてる~?」


「聞いてますよ……ってうわぁ!?」


いつの間にか私の隣に移動していたメグ先輩が私の腕に抱き着いてくる。

酒臭いかと思いきや、すっごい良い匂いがする。あと、二つの豊満な膨らみが物凄く柔らかくてドキドキしてしまう。


「えへへ、私頑張ってるんだよ?褒めてくれてもいいんじゃない?」


「……そうですね、メグ先輩は偉いです」


メグ先輩に掴まれているのとは反対の手でメグ先輩の頭を優しく撫でる。

サラサラで手入れの行き届いた長髪をゆっくりと撫でていると、幸せそうな笑顔でそのまま寝落ちてしまった。


「えぇ……」


私にもたれかかってすやすやと寝息を立てるメグ先輩、先ほどまでの破天荒な言動からは想像もできないくらい穏やかな寝顔だ。


思えば、これまでの人生でずっと仮面を被って人と接してきたメグ先輩。

お酒が入っていたとはいえ、ここまで本音で人と話すなんてかなり珍しいのではないだろうか。らしくない汚い言葉も吐いてたし。


いや、そもそも部屋に呼んで、普段の振る舞いから受ける印象とはあまりにもかけ離れたラフな姿とおつまみ。これらを見せるだけでもかなり勇気を振り絞ったのではないだろうか。


「……頑張りすぎないでくださいね」


私の腕に抱き着いているメグ先輩の腕を優しく解き、抱き上げて近くにあるベッドに寝かせ……


「……ん、サキちゃん……?」


「あ、メグ先輩起こしちゃいました?まだゆっくり寝てて大丈夫ですよ」


「うん……って、え、お姫様だっ」


「気のせいです。寝なさい」


「サキちゃんが私をベッドに連れこ」


「気のせいです。寝なさい」


なんかほざいてるメグ先輩を雑にベッドに放り込み、枕元に水を置く。

あとは缶ゴミやおつまみの袋なんかをゴミ箱に放り込んだらまたメグ先輩が目を覚ます前にさっさと退散退散。



メグ先輩に手出したとかなんとかって噂が流れたらどう処されるか分かったもんじゃない。危ない危ない。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



後日、メグ先輩が私と宅飲みしたという話を配信でした後、他のメンバーからは『メグ先輩襲ったんか!?襲ったんやな!?』みたいな感じのビスコのDMが大量に届いたし、その後の私の配信ではコメントでメグ先輩に何したのかめちゃくちゃ詰められた。


あの人愛されてるなぁちくしょう!!!!!


……私もちょっとくらい信じてくれてもいいんじゃない?


涙出てきた。

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