因縁に決着を 2

「どうした?そんな若いうちから眉間に皺寄せてたら将来取れなくなっちゃうぞ」


「むぅ~、真面目に考えてるんだからほっぺたムニムニするのやめてよマイファーザー」


「ほう。お父様に相談してもいいんだぞ娘よ」


「お父さんには関係ないことだし~」


「そんなこと言わずに……ってこれ、城ケ崎貿易?なんでお前が?」


「勝手に覗きやがって……って、知ってるの?」


私が見ているノートPCの画面をのぞき込んでくる父。どうやら何か知っているらしい……?


「知ってるも何も、俺の会社の取引相手だしな。今の担当者俺だし。社長さんが急死したとかでてんわやんわでこっちの仕事にもそこそこ影響出てるんだよ」


「まさかの関係者!?」


なんという偶然。

頼りない父とはいえ、大人の意見が聞けるかもしれない。


「ごめん、お父さんちょっと待ってね」


そう言って急いでビスコを開き、メグ先輩にDMを送信。


狐舞サキ:どうやら私の父がメグ先輩の会社と関係あるらしくて、内部のこととか色々聞いてみたいので事情話しても大丈夫でしょうか。口は堅いはずなので他に漏らすとかはないと思いますが……。


天使メグ:分かりました。どうせ行き詰っている問題ですし、サキちゃんにお任せします。サキちゃんのお父様なら信用できますしね。


即返信が返ってきた。

本人が問題ないと言うのであれば相談させてもらおう。


「ねぇお父さん、真面目な相談なんだけど」


「おう。どうした?」


私が真剣な目でそう切り出すと、お父さんもそれに応えて表情を引き締めてくれる。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「……つまり、早紀の友人がその城ケ崎貿易のご令嬢で、後継者問題やらで揉めている、と」


「まぁ、要約するとそんな感じ」


「お前の交友関係どうなってるの??」


驚愕半分、呆れ半分といった表情を浮かべる父。

私だって不思議だよ、っていうかまさかたまたまスカウトされて入った事務所の先輩がそんな大物だって分かるわけないじゃん。


「まぁ、そんな問題が本人とか大学生とかだけで解決できるわけないわな」


「でも他に頼れる人がいなくて一人で抱え込むしかないんだよ。何か方法ない?」


「早紀。早急にその子とお前と俺の三人で会える場をセッティングしろ。俺が何とかしてやる」


「え、ちょ、何急に」


急に立ち上がり、至って真面目といった声色でそう言いながら自室へと向かう父。

唐突な行動に、私も思わず慌てて立ち上がってしまう。


「ちょっと前まで普通の女の子してたのにいきなりそんな問題に巻き込まれた子のメンタルがそんなに長くもつわけないだろ。その話をお前にした時のその子、かなり憔悴してたんじゃないか?」


「それは、そうだけど……」


私が正直にそう答えると、父は呆れたように嘆息する。


「そんな状態で自分でどうにかしようとしていたら悪い大人に食い物にされるに決まってるだろ。それでもなんとか上手く立ち回れるのなんて早紀ぐらいのもんだよ。だから、ダメ元でもいい、その子のために、な?」


それだけ言って階段を登って行ってしまう父。

今までに見たことがないくらい真剣な父に、一人残された私は唖然とするしかなかった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



場所は変わっていつもの喫茶店。

あの後恵先輩に相談してみたところ、二つ返事でOKがもらえたのでその数日後に三人で話すことになったのだ。

お父さんが言う通りに追い詰められすぎて藁をもすがる思いなのか、私のことを信用してくれているのか、あるいはその両方か。


「あ、恵先輩こっちこっち!」


「あ、早紀ちゃん……と、早紀ちゃんのお父様でしょうか?」


「はい。あなたが恵さんですね。ある程度の事情は早紀から聞いております。この度はご愁傷様でした」


そう言って頭を下げる父。いくら私でも流石に分かる。仕事モードの真面目な父だ。


「あ、いえそんなお気になさらず……。それで、お話というのは?」


「……。では早速本題に入りましょう。恵さんのお父様の会社のことです。実は私、御社と取引を行っている会社の者でして」


そこから、父による恵先輩との交渉が始まった。

どうやら父は城ケ崎貿易の重役の方々と面識があるらしく、しかも結構な仲らしい。当然横領なんかの事実は知らなかったわけだが。


色々雑談を交えながら自己紹介や関係性の説明をする父。こんなことを言うのもなんだが、うちの父は人の心を掴むのがめちゃくちゃ上手い。

父と話しているうちに、不安げだった恵先輩の表情がみるみる明るくなっていくのが見て取れる。


「まず、恵さんの一番の目的は会社を彼らに乗っ取られないようにすること、従業員の方々を守ることでしょう」


「はい」


「それではまずこちらをご覧ください」


そう言って父が取り出したのは数枚の資料。


「こちらは御社の業態を簡略的に図式化したものです。そして、こちらが重役の皆さんの資料。そして……」


そこから父は、自身の計画について話し始めた。


従業員を救い、ダメな大人を排除し、恵の立場をも守る計画を。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「……大体は、理解しました。それで問題ないと思います。ですが、それで貴方に何のメリットが?そこまでのリスクを負ってまで私を助ける意味がありますか?」


どうやら父の計画は恵先輩のお気に召したらしく、感嘆したように頷く恵先輩。しかし彼女の言う通りだ。これでは父にメリットがなさすぎる。


「娘の友人の助けになりたい……なんて立派な動機だったらカッコいいんですけどね、残念ながらここからが打算です。まず確認なんですが恵さん、失礼ながらお父様にも会社にも特に思い入れはありませんね?失礼ですが、なんならお父様との関係は芳しくなかったのでは?」


父がそう言うと、まさかといった表情で私を見つめる恵先輩。そのあたりについては父には話していなので慌てて首を横に振る。どうやら、こうやって話している中で恵先輩の反応などを見て父娘の乾いた関係性を看破したらしい。


「仮に全てが上手くいって彼らを排除したら、当然社長の座に座るのは恵さんになるわけで。でも、会社経営なんて経験ないでしょうし、今は他にもやりたいことあるでしょう?」


「そう、ですね……。でも、うちの会社には信用できるような人がいなくて……」


「それは理解しています。なのでここで提案です。恵さんには社長になっていただいて、実際には私が経営コンサルタント兼社長秘書という形で経営するというのはどうでしょう」


「「は??」」


父の爆弾発言に、私も恵先輩も目を白黒させるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る