因縁に決着を 1
「……今日も相変わらず『素人質問』のオンパレードだったねサキちゃん……」
「だってみんなのプレゼン適当なの丸わかりだったんだもん」
「それにしてもだよ……あの子最後の方涙目になってたよ……」
「それが嫌なら真面目に課題を……ってあれ?恵先輩?」
桃花ちゃんと今日の授業の話をしながら下校していると、少し先を恵先輩が歩いているのを発見した。いつもの恵先輩らしくなく、どこか陰鬱な雰囲気を纏っている。
「おーい、恵せんぱーい!」
私が手を振りながら声をかけると、少ししてからこちらに気付いたらしい恵先輩が振り返ってこちらに手を振り返してくる。しかしすぐに何もなかったかのように行ってしまった。
「先輩、何か様子が変じゃない?」
「そうだね、心配だしちょっと声かけてみようか」
恵先輩の様子に違和感を覚えた私たちは、恵先輩に声をかけてみることにした。
「あら……早紀ちゃんと桃花ちゃん、
「いえ……恵先輩の様子がおかしかったもので……お節介だったら申し訳ないんですけど、何か悩み事でも……?」
私がそう言うと、恵先輩がハッとしたような表情を浮かべる。
恵先輩が感情をここまで顔に出すのは珍しい。やはり何かあったらしい。
「っ……。そうですね、早紀ちゃんには話しておいてもいいかもしれません。でも桃花ちゃんを私の個人的な問題に巻き込みたくはありません。それだけは譲れません」
どこか覚悟を決めたような表情の恵先輩。私には話してもよくて、桃花ちゃんが部外者ということは家族関係の問題だろうか。
「……わかりました。でも恵先輩、早紀ちゃんに襲われそうになったらすぐに連絡くださいね?」
「襲わねぇよ!?」
「むしろ私が襲いたいくらいですけどね?」
「「え??」」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「さて、私の悩みの種なのですが……」
場所は変わって以前恵先輩と会った喫茶店に。
彼女の話をまとめるとこうだ。
実は彼女の父親が半月ほど前に心筋梗塞で急死した。
あまりにも急な死に、彼が代表を務める会社はまさに蜂の巣をつついたような大騒ぎ。
優秀な社員たちが問題をあらかた片付け終わった段階で、どうしようもない問題の解決に着手することに。それは……
「なるほど、後継者問題ですか……」
「ええ、その通り。父は生前、遺書を残していなかったんですの。まぁ、心筋梗塞で倒れてそのまま運び込まれた病院で意識を取り戻さないままに亡くなりましたから仕方ないのですけれど」
「と、なると……」
問題なのは、空いた社長の席に誰が座るか。
遺書がないのなら普通に考えれば一人娘である恵のもの。だが……。
「正直、社内の重役の方々の中には私のことをあまり良く思ってない方が多いんですの」
「まぁ、そうでしょうね……」
以前に社長を思いっきり札束で殴って絶縁を叩きつけた恵。
そんな人間が、社長が亡くなった途端に舞い戻ってきて会社を継ぐなんて納得できるわけもない。
もしそこで完全に戸籍の上でも縁を切っていればこんな面倒な問題に巻き込まれることもなかったのだが、今こうやって苦難しているということはもうお察しの通りである。
「誰かに譲ってしまう……というのは無理なんですか?」
「私もできればそうしたいわ。あんな父の会社を継いで経営するなんて嫌ですもの。今ですらそういった面倒ごとのせいで全然配信する時間を取れていないわけですし」
ただ、と置いて恵先輩は更に続ける。
「そのポストに就けるような人間が、誰も信用できませんの。ちょっと調べてみただけで出るわ出るわ、横領とか癒着とか色々。そんな人に会社を任せてしまっては一般社員の皆様がどうなるか心配で仕方ありません」
なるほど、どうやら恵先輩のお父さんの会社、かなーり真っ黒らしい。それが今まで露見していなかったのもすごいが、ちょっと調べただけで見つけ出す恵先輩もやはり化け物だ。
「とはいえ、彼らのことを今告発してはそれこそ会社は終わりですわ。その上彼らがまるで裏で手を組んでいるかのように私を追放しようとしてまして……。正直色々な精神的な嫌がらせ等もされているのですが、社員の皆様のためにもここで引くわけにもいかず……といった具合なのです」
「なるほど、大体の状況は理解しました。もう時間も遅いですし、私も一旦帰って色々考えてみますね」
「ありがとう。でも、あくまで私の家の問題だからあまり気にしないでね」
「はい」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
とは言ったものの、流石にあんな話を聞いておいて気にしないなんてことができるわけがない。
家に帰ってから、とりあえず城ケ崎貿易について色々調べてみた。
社長が亡くなったというニュースから、企業の概要などまで。
どうやら恵先輩の父はかなりの手腕だったらしく、海外の企業との交渉なども社長自ら行っていたらしい。その彼が亡くなったとなると、そういった企業との関係も難しくなってくるし、それこそ恵先輩くらいの優秀な人でないと経営が傾いてもおかしくない。
とはいえ恵先輩としては会社を継ぐのは嫌、とはいえ重役たちは信用ならない。
ということは誰か他の優秀な人間を社長に……。
でも社外から連れてくるのは現実的じゃないし、社内は腐ってる……これは案外難しい問題だぞ……。
「よっ、何難しい顔してるんだ?」
「お父さん」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます