料理を……料理を……料理?
『《アリシア・デ・ラスフォード/狐舞サキ》料理……《ミラライブ二期生/ミラライブ三期生》』
「妾もう帰りたい」
「こんなにしおらしいアリシア先輩見るの久しぶりすぎる」
【コメント】
:アリシア様料理できないの??
:意外だな
:どんな料理になるんだか
:楽しみすぎるな
さて、今回はオフコラボだ。ミラライブ本社のキッチンスタジオを借りて、手元を映す用のカメラと3Dを用いての料理配信となっている。
今回はVの姿が見えているのは配信上でのみなので、私の隣には緊張した面持ちの和服美女が立っている。
「さて。今回はアリシア先輩がオムライスを作ると聞いてるんですけど、アリシア先輩に聞いたところあまり料理は得意ではないとのことなので私がサポートする感じですかね?」
「そ、そうじゃの。よろしく頼むぞ」
そう言って卵を割ろうとするアリシア先輩。手が震えている。
「アリシア先輩?まず中のご飯から準備しましょう。確かチキンライスにするんでしたよね?」
「わ、わかった。ではまず鶏肉を……」
【コメント】
:ダメだ、もう心配だ
:もう絶望しかないかもしれない
:サキちゃん頑張ってくれ
:こりゃ波乱しかなさそう
冷蔵庫からパックの鶏肉を取り出すアリシア先輩。何故か怯えたように震えている。ていうかできれば生肉を切るのは最後の方がいいんだけどな。俎板も包丁もいくつか用意されてるしまぁいいか。
「アリシア先輩?」
「サ、サキよ、一生の頼みじゃ。鶏肉だけ任せてもよいか?」
「……なんで?」
「そ、その……実は妾、肉を生で触るのが苦手での?ほら、他はちゃんとやるから頼むのじゃ……」
「アリシア先輩とコラボするたびにこの人の可愛いところが露見するのほんとにヤバい推せる」
普段の言動が高慢で、リアルはこんなに美人で、なのに可愛い動物とか大好きだし生肉触るの苦手だし。なんだこの可愛い人。
本人が苦手と言っているのに無理にやらせるのは忍びない。ていうか多分この人に強制してもやらないだろう。
「じゃあ鶏肉は私がやっておくので先輩は玉ねぎと人参のみじん切りをお願いします」
「うむ、よかろう」
「なんでまだ上から目線で来れるんだろう」
【コメント】
:かわいいかよ
:圧倒的キャラ崩壊
:意外だ
:生肉苦手は同意
:みじん切り心配になってきた
私が慣れた手つきで鶏肉を細かく切っている間に、隣では危なっかしい手つきのアリシア先輩が野菜を切っている。心配だ。心配でしかない。
「な、なんじゃサキ。何故妾をそんなに見つめておる」
「心配だからだよ!!よそ見しないで集中してください!!指切りますよ!?」
よく見ると何故か手元の玉ねぎがどんどんスライスされていく。
……。
「アリシア先輩、みじん切りのやり方知ってますか?」
「ううううるさい!!最終的に勝てばよかろうなのじゃ!!」
「いつから柱の一族所属になったんですか」
鶏肉の準備が終わったので、未だ玉ねぎと格闘しているアリシア先輩を心配しながらも人参の下準備もやっておくことに。鶏肉を切った後の包丁を使うのは気が引けるので一応新しいものを取り出す。
ここに置いてある調理器具、何気にめちゃくちゃ使いやすい。この包丁なんて硬い人参がサクサク切れる。普通に家にほしい。
「よし、終わったぞ」
「はい、じゃあ次は具材をフライパンで炒めていきましょう」
「うむ」
アリシア先輩がフライパンをコンロの上に置いて、火をつける。私は使い慣れているからいいのだが、ガス火でこの人大丈夫だろうか。
そんなことを考えているとアリシア先輩が具材を全部フライパンに投入。そして当然のように火力を強火に!!
【コメント】
:……
:あぁ……
:典型的な料理できない人じゃん
:サキちゃん……がんばって……
「アリシア先輩!?せめて、せめて油入れましょう!!絶対焦げますよ!?」
「そうか?いい音と匂いじゃし、このままで大丈夫じゃろう」
「大丈夫じゃないんですよ!!」
そう言ってサラダ油をフライパンに投入。ついでに中火に。あとついでに塩コショウを入れて味を整える。
「基本的に何かを焼いたり炒めたりする時は油をいれましょう!あと火は基本的に中火!とりあえずで強火にするのは料理初心者が大事故を起こす一番の原因です!!」
「お、おう……」
鬼気迫るといった表情の私に何も言い返せなくなってか、ちゃんと丁寧に炒め始める先輩。本当に危なっかしい。もし配信中に火事でも起こそうものならシイッターのトレンド一位は確定だろう、悪い意味で。そんなバズり方は絶対に嫌だ。
しばらく炒めていると、玉ねぎがいい感じの色になってきた。多分全体的にいい感じに火が通ってきているはずだ。
「じゃあお米とケチャップとバター入れますので焦げ付かないようにしっかり炒め続けてくださいね」
「うむ」
先にケチャップとバターを入れ、ある程度混ざり合ったところで米を加える。
そろそろ手馴れてきたようで、アリシア先輩の手つきにも危なっかしい様子もなくその表情からも緊張の色は薄れている。
そのまましばらく炒め続け、これでなんとかチキンライスは完成。次は最大の難関だ。
「じゃあ次はオムの部分ですね。私が作るのをアリシア先輩が、アリシア先輩が作るのを私が食べる感じでいいですか?」
「よいのか?」
「流石にバターの分量とかはレシピ通りに入れてもらいますし、悲惨なことにはならないように見守りますので」
「そ、そうじゃな……。よければ、先に手本を見せてくれぬか?」
「いいですけど……多分参考にするのは厳しいと思いますよ?」
どうせなら美味しくて綺麗なのを作って食べさせてあげたいし。
ということでまずは卵を割って溶いていく。
「なっ……片手で……」
次にバターをフライパンに入れ、中火で溶かしていく。
「ふ、ふむふむ」
そこに卵液を投入し、フライパンを振りながら卵が固まりきらないように菜箸で混ぜ混ぜ。
「……」
ある程度固まってきたらフライパンの奥に寄せて、持ち手をトントンしてつなぎ目を合わせて形を整えていく。
「……」
「ほいっと」
「流石に上手すぎないか!?」
綺麗な形に仕上がったそれを皿に盛られたチキンライスの上に乗せる。以前イナ先輩たちに作ったものと同じく会心の出来だ。
「しもうた、先にこれだけのものを作られては……」
暗い表情のアリシア先輩。どうやら自分が作るものが見劣りする、とでも考えているのだろう。
「じゃあこれとは別のオシャレなやつの作り方教えてあげますよ」
「ほ、ほんとか!!」
「もちろんですよ!まず同じように卵を用意してバターをフライパンに入れてください」
「うむ、分かったのじゃ」
私の指示通りに卵を溶いていくアリシア先輩。卵を割る時だけ少し危うかったが、問題はなさそうだ。
「手順を説明するので聞いてくださいね。次は卵液をフライパンに入れたら、ちょっと固まるのを待って菜箸で端に寄せていきます。で、次にこうやってフライパンを傾けてまた同じように固まった卵で巻き込んでいくイメージで。こんな風に」
手元のフライパンと菜箸を使ってジェスチャーを交えて伝える。
「う、うむ……やってみる」
そう言って私が伝えた通りにやってみるアリシア先輩。不安そうな手つきではあるが、順調に綺麗にできている。
「じゃあ、出来たものを滑らせてチキンライスの上に乗せてください」
「わ、わかった」
出来上がった卵は、中心から幾層にも広がるヴェールのよう。半熟のそれは光を反射してキラキラと光っている。初めてとは思えないくらい綺麗な出来だ。
「初めてでこんな綺麗に出来るとは……サキのお蔭じゃ」
「いやいやぁ、すごいのは教えた通りにちゃんとできたアリシア先輩ですよ~」
【コメント】
:おぉ、綺麗
:ありがとうサキちゃん
:経験ないだけで練習すれば色々できるようになりそう
:ひとまず安心か
:よかった、本当によかった
「では実食といきましょうか!じゃあケチャップを……」
アリシア先輩が作ってくれたオムライスにケチャップをかけ、一口食べてみる。当たり前だが美味しい。卵の加減もちょうどいい。
「アリシア先輩!めちゃくちゃ美味しい……です……よ……?」
先輩の方を見て絶句する。何故かって?
私が作ったオムライスが真っ赤に染まっているからだ。
「アリシア先輩?」
「うむ、最高に美味しいのじゃ。やはり持つべきものは料理の出来る後輩じゃの」
その真っ赤の正体はケチャップ。卵が見えなくなるほど大量にかけられたケチャップだ。
「……それ、ケチャップ以外の味します?」
「うん?美味しいぞ?」
なんかもういいや。疲れちゃった。
『《アリシア・デ・ラスフォード/狐舞サキ》料理……《ミラライブ二期生/ミラライブ三期生》』
1分前に配信済み
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