ぱっぱぁ
前回の事件から数日が経過したとある日の帰路でのことだ。
「今日の授業では何したの?」
「えっと、『自分の興味あるカルチャーに関する討論』って感じのコンテンツの授業が面白かった!」
「あー、あれ人気なんだけどよく取れたね」
「先生が、わたしなら大歓迎だって。可愛いって便利だよね」
「後半言わなきゃただの美少女なのに。てかうちの先生何やってんだよ……」
ちなみに留学しに来ているとはいえ、文化交流といった側面が強いらしくクリスは取らなければいけない授業は特にないらしく、故に日本人の学生と議論ができる授業や趣味に関連する授業を多く採っているらしい。
うらやましい。
「日本語はどう?爆弾発言したりしてない?」
「たぶん?わたしのボキャブラリーって結構変らしいけどみんな優しく教えてくれるよ、これが偽善ってやつ?」
「うん、もうちょっと日本語を勉強した方がいいかも」
そんな雑談をしながらの下校。梨沙とタイミングが合わない日は基本的に1人だったためこうして誰かと話しながら帰る機会は久しぶりだ。楽しい。
……え?梨沙以外に友達がいないのかって?やだなぁ、みんな帰る方向が違うだけだよ。うん。うん。
「サキ、陰キャぼっち?」
「急に何!?」
「顔に書いてあった、『友達いなくて寂しかったからクリスが一緒で嬉しい』って」
「そこまで正確に読み取れる!?」
日本に来て一週間やそこらでここまで日本語を習得していたり自分の可愛さを自覚していたり人の心を読めたりと、この子の将来は末恐ろしいな。
「あ、お母さんに買い物頼まれたから私スーパー寄って帰るね。クリスは先に行ってていいよ」
「え!!わたしもいきたい!日本のスーパー初めて!」
「言うて向こうとあんまり変わらないけどね」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「おお~、日本食材いっぱい」
「そりゃ日本のスーパーだからね」
「わっ!お魚コーナーだ!くさっ!!」
「あんま大きい声で言わないでね」
お母さんから頼まれたのはいくつかの魚の刺身と海苔と卵。多分今日の晩御飯は手巻き寿司とかの予定なんだろうな。
「ほら、買う物買ったら帰るんだから行くよ」
「うん!ディナーで食べるものだったら経費で落ちる?」
「相変わらず日本語のレパートリーが謎だよクリスちゃん。てか流石に経費では落ちないでしょ、多分うちのお父さんが怒られるやつだよ」
「サキのパパそういうのバレないようにするの上手だよ?」
「過去一で知りたくなかった情報かもしれない」
ほんとにうちの父親はイギリスまで行って何をしてるんだ全く。
これは流石に後でお母さんと一緒に問い詰めなければいけない案件だろう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ただいま~」
「邪魔すんで~」
「邪魔すんねやったら帰って~」
「あいよ~」
「クリスちゃん新喜劇も履修してたの??」
どこからそんなものを知るのか不思議でしかないが、もうクリスの恐ろしいほどの知識の偏りに関しては気にしても負けだと思い始めていたりする。
「二人ともお帰り。ご飯にする?お風呂にする?それとも……」
「ねぇこれ以上変な文化吹き込むのやめよ!?」
イギリスに帰ってからクリスがそんなことを言い出したら確実にパパさんブチギレだろう。下手したらうちのお父さんの首が危うい。
「てかお腹空いたから早くご飯にしよ」
「はいはい。大体の準備は済んでるから早紀は刺身切っておいて。クリスちゃんには卵焼の作り方教えてあげるから手洗ったら二人ともキッチンに来てね」
「「りょうか~い」」
なんだかんだでお母さんは教えるのが上手い。実は私が色々料理できるのも幼い頃に料理に興味を持った私にお母さんが色々教えてくれたおかげだったりする。
しかも今は手本を見せながら、クリスちゃんが料理に集中しながらでも分かりやすいように簡単な日本語を使ったりちょくちょく英語の表現を混ぜたりして説明している。
「これで時々勇〇郎が出てこなきゃ最高の嫁なんだけどな」
「……お父さんなんでいるの?仕事は?」
「あぁ、テレワークだよ。もう数年イギリスにいたから上からの計らいで家族との時間取れるようにってさ」
「あれ、でも海外赴任の後って日本の方の支社でも色々やらなきゃいけないことあるんじゃ?」
「あったけど終わらせてきたよ。愛しの娘と嫁とできるだけ一緒にいたいからな」
「そういやそんな人だったわ」
そういえば昔からこんな人だ。仕事を誰よりも早く終わらせて定時で帰ってきて家族と一緒に過ごす時間を最も大事にする。会社でどんなトラブルがあっても絶対に残業しないし、かといってそれで誰かに迷惑をかけるわけでもないしごでき。
幼い頃そんな父に憧れて私もマルチタスクで課題をこなすようになったのだ。
「早紀は手伝いはもういいのか?」
「うん、もう終わったからね。後はあの二人のが完成したらOKだよ」
「だったらちょっとこっちに来なさい。久し振りに頭でも撫でさせろ娘よ」
「よかろう、撫でさせてやるぞ父よ」
そう言ってお父さんが座ってるソファの隣へ。ここ数日仕事やクリス関係のことなどでお互い色々忙しかったので何気にこうやってまったりする時間はなかった。
「うわっ、キューティクル最高かよ。ヘアケア完璧じゃん。ヘアオイル何使ってる?」
「同級生の会話かよ」
そうツッコみながらも。何気に頭を撫でられるなんてここ最近ではなかったことなので少しむず痒い。
「色々頑張ってるらしいな。俺が細かいことをどうこう言うつもりはないが、危ないことだけはするなよ?」
「あっ……うっす、そっすね」
危ないこと……うん、してない。大丈夫。多分ここ最近で一番危なかったのはレイピア持った先輩に殺す気で襲い掛かられたことくらいだ。まぁ可愛いもんだろう。うん。
そんなことを言いながらも。お父さんはずっと私の頭を撫でている。毛流れに沿って、優しく労わるように。それが気持ちよくて、嬉しい。もう成人しているというのに、この人の前ではどうしても子供っぽくなってしまう。ちくしょう。
「わたし知ってる、あれパパ活っていうんでしょ」
「「全部台無しだよこんちくしょう!!!」」
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