やっぱうちの大学かぁ

あくる朝。今日は梨沙と一緒に取っている授業からなのでいつも通り梨沙との待ち合わせ場所に到着。ただ、今日はいつもと違うことが一つあるのだが。


「早紀おまた~!……って、誰よその女」


待ち合わせ場所に着いた梨沙は私の隣の美女に気づいて怪訝そうな表情を浮かべる。


「どうせ昨日の配信見てたでしょ?昨日からうちにホームステイすることになったクリスティーナちゃんだよ」


「ど、どうも、クリスティーナです。よろしくな!」


私の配信にちょくちょく出てきていることは知っていても完全なる初対面。少し緊張したようにおずおずと自己紹介をする。


「なるほど、この子が……。私のことは気軽に梨沙って呼んでね。てかちょっと可愛すぎない?遺伝子の敗北を感じるわぁ」


「この上なく親に失礼だろその発言。てか下らないこと言ってたら電車遅れるからさっさと行くよ」


「そういえば一緒にいるってことはもしかしてクリスティーナちゃんってうちの大学に通うの?」


「そう、かくかくしかじかでね……」


「なるほど、確かに知り合いの娘が通ってる大学の方が自分の娘を預けるには安心できるわな」


「『かくかくしかじか』の情報量、すごい」


一瞬にして自分の境遇について理解する梨沙にクリスが目を見開く。

それに対して梨沙はどや顔だ。


「言葉の情報量、っていうか私は早紀のベストフレンドだからね!大抵のことはお見通しなのさっ!」


「おお~、梨沙すごい。パイセンマジリスペクトっす」


「どこでそんな言葉覚えてくるんだ」


「てかほんとに行くよ!クリスちゃんまだ定期持ってないから切符買わなきゃだし大学着いたら手続きのために行く場所とか教えてあげなきゃだから早めに行かなきゃなんだから」


「サキ、お姉さんみたい。いつもの配信でのノーテンキお花畑とは全然違う」


「それめちゃくちゃ悪口だからね!?!?」


「Really?お花畑みたいに明るくてほわほわしてるみたいな意味だと思ってた」


「合ってるけど悪口なんだよ。あとノーテンキは悪口以外の意味ないだろ」


「えへ」


「分かって使ってたのね!?」


日本語でジョークが言えるレベルに話せるのに言葉選びのせいで非常にもったいないと思いながらも、ツッコんでいたら授業に間に合わなくなるので通学路を急がせるのだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「……で、昨日書いてた書類はここの建物に行って担当の人に渡せばいいから。もし分からないことがあっても先生たちに聞けば大丈夫。みんな割と英語話せるから。もし厳しそうなら私を呼んでくれたらいいよ」


「了解した。ミッションの成功を祈っている」


「それ私たちのセリフだねぇ」


「じゃ、頑張ってねクリスちゃん!」


そう言って一旦別れる私たち。新天地で不安だとは思うが、クリスは存外しっかりしているので大丈夫だろう。後で授業が終わったら様子を見に行くくらいはしようと思うが。


……と思っていたのだが。

別れて5分もしないうちにRINEにクリスからのメッセージが。


Chris:『Help me』


「ごめん梨沙、先行っといて」


「あー、了解。レジュメ回収して大体いつもの辺りに座っとくね」


「ありがと」


何かトラブルでもあったのだろうか。ここで考えていても仕方ないのでクリスが向かったであろう建物に向かって走り出す。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「お、いた……って、えぇ……」


やっと見つけたクリス。実は見た目がめちゃくちゃ分かりやすいので探すのに苦労はしなかったが。

問題があるとすれば、彼女が複数の男子生徒に囲まれていることだ。


「おーい、クリス大丈夫~?」


「サキ!!」


助けに来た私の存在に気付いたクリスはこちらに向かって駆け寄ってきて、そのまま抱き着いてきた。涙目ではあるが特に怯えた様子もないため、そこまで深刻な状況でもなさそうだ。


「で、あんたらはクリスに何しようとしてたの?」


当然ながら敵意を隠すこともなくその男子生徒たちを睨みつける。しかし、私に気づいた彼らは困惑したような表情を浮かべるばかりだ。


「サ……深山の知り合いだったのかよ。てことはその子に日本語教えたのもお前?」


「は……?いや違うけど、もしかして何か失礼なことでも言われた?」


困ったような彼らの表情を見る限りではどうやら害をなそうとしていたわけでもないのでひとまず安心。


「その……クリスちゃん?がスマホ見ながら歩いててさ、気づかなかった俺たちも悪いけどぶつかっちゃったんだよ。そしたらその子パニクっちゃったみたいで、色々罵詈雑言を……」


「いやもううちのクリスが本当にごめんなさい!!」


外国人の美女からの唐突な暴言に困惑して放心する彼らを見て、日本語も出てこなくなってやばいと思って私に救援を求めてきたらしい。

本当によかった。


「俺らは別に、その子が大丈夫ならいいんだけど……あんま他の人にはああいうこと言わないようにだけ言っといてやってくれ」


「それは私も思う。ちゃんと教育しときます」


「じゃあな、お前ら。反省はしているが後悔はしていない」


「それ『ごめんなさい』の類義語だと思ってる??」


「ほんとにごめん。ほらクリス、行くよ」


「いえっさー」


目的地までクリスを連れていき、先生に引き渡してから自分の授業へと戻る。

梨沙の隣でため息をつきながら、クリスが罵詈雑言をネイティブレベルで使えるようになった元凶であろうと思われる先輩に思いを馳せるのであった。


何故メグ先輩のしゃべり方の方に影響されてくれなかったのか、はぁ……。

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