100万人突破記念配信 4
「さてさて、次は実は私が一番楽しみにしてるこの人たちです、どうぞ!!」
私がそう言うと四度目の場面暗転。
次のゲストのアリスちゃんとアリシア先輩が私の隣に並ぶ。
……なんか二人とも近くない?
リハーサルの時よりどう考えても距離を詰めて来ていた二人だったが、元々この距離感で私抜きで練習していたのか衝突などのトラブルなしになんとか一曲を終えた。
ちなみに歌った曲は……まぁ、簡単に言うと『この世の中の全ての人間への殺意と悪意を詰め合わせてみました』みたいな感じの曲だ。歌っている最中の二人が笑って……いや、嗤っていたように見えたのはきっと気のせいだろう。気のせいということにしておこう。
「てことでサキちゃん、100万人突破おめでとう!!流石サキちゃんだよ~!!」
「うむ。主の努力の賜物じゃのぅ。サキ、ようやった」
思わずといった感じで満面の笑みで腕に抱きついてくるアリスちゃんと、優しく頭を撫でてくるアリシア先輩。
なんだこの幸せ空間は。
【コメント】
:サキちゃんそこ代われ
:なんかまたアリシア様サキちゃんに優しくなってない?
:二期のうち二人を篭絡してるの普通に化け物
:三人とも可愛すぎる
:スクショタイム
「二人ともありがとう~!ここまでのみんなは私のこと化け物扱いして帰って行くばっかりだったから二人の温かさが骨身に染みるよ……」
「どうするアリシアちゃん。みんな殺っとく?」
「そうじゃのぅ。こんなに麗しいサキを化け物呼ばわりとは……万死に値する」
「値しないよ!?ねぇ二人ともガチっぽい目なの怖いから!!!」
未だ私にくっついている二人の目がどこか遠くを見つめるような、というかハイライトが消えた瞳になっている。こわいこわいこわい。
「ていうかアリシアちゃん、なんかサキちゃんとの距離近くなぁい?傍若無人のツンツンキャラはどこいったの?」
「ふん、妾は好ましからざる有象無象への嫌悪を隠さぬだけじゃ。サキのどこに嫌悪する要素があろうか?」
「ふぅ~ん、じゃあ好きなものには実はデレデレなんだぁ」
アリシア先輩から『ギクッ』という声が聞こえたような気がした。
「だからシイッターの裏垢で可愛い猫ちゃんの動画引用して限界化してたんだぁ」
アリシア先輩の頭の上に『!?』という記号が表示されたような気がした。
「ききききき貴様、何故妾の裏垢を知っておる!?誰にも教えておらぬはずじゃが!?」
分かりやすく度肝を抜かれてあたふたしているアリシア先輩。やっぱこの先輩クソ可愛いなおい。
「この前楽屋でシイッター見てたでしょ?実はその時ちらっとプロフィール見えちゃったんだぁ」
「なるほど、そこからID検索でアカウント特定した、と……。アリスちゃん、後でそのアカウント私にも教えて」
「ダメじゃ!絶対ダメじゃ!もうこの出番が終わり次第すぐに鍵をかけねば……」
「えぇ?じゃあ今ID言うからリスナーさんたちみんなフォローしてあげてね~」
「貴様は悪魔か!?」
【コメント】
:まじかwww
:アカウント知りたすぎる
:こーれ切り抜きです
:こんなアリシア様初めて見たwwww
:アリスちゃんナイスwww
「な~んてね。自分の猫ちゃんと戯れてる可愛い動画とかも上げてたから身バレに繋がっちゃうかもだしね~」
「もうやめてあげて。アリシア先輩のライフはもうゼロよ」
……。うん、実はうちのメンバーで一番怖いのはアリスちゃんかもしれない。絶対に怒らせないようにしよう。
ここまで笑顔であのアリシア先輩をボコボコにできる人なんて他にいないだろう。
明日以降のアリシア先輩の配信での扱いが楽しみだ。絶対にリアタイせねば。
「あとは何だったかなぁ、案外スイーツとかよく食べに行ってるみたいで~」
「……サキ。この悪魔を止めてくれ」
「えぇ~?私はアリシア先輩の可愛いところも大好きだからなぁ~」
「え、なになに、サキちゃんの前では可愛いところ見せてるの?気になる~」
「じゃあ今度三人でスイーツでも食べに行こうよ!そしたら可愛いところいっぱい見せてくれると思うよ?」
「……シテ……コロシテ……」
もはやアリシア先輩は虚ろな目で項垂れている。
こういう部分はあまり配信では見せたくないと言っていたがアリスちゃんが暴露してしまったのでもう手遅れだろう。
「……そ、そういうお主はどうなのじゃ。普段見せておらぬ側面なぞ誰にでもあるじゃろうが。ほれサキ、何か知らぬか?」
「う~ん、実はアリスちゃんってあどけない顔しながら結構強かで、あとめちゃくちゃ人たらしな性格してるってことくらい?」
「誰が自己紹介をしろと言った?」
「それじゃサキちゃんそのままじゃない?私はサキちゃんみたいな節操なしじゃないよ?」
「なんで私が節操なしって前提なの!?くっ……こういうところが強かだって言ってるのに……」
【コメント】
:何言ってんだ
:自己紹介くさ
:んなわけねぇだろ
:ネガキャンやめてもろて
:サキちゃんは節操なしっていうかもう実質ホスト
きょとんとした表情を浮かべるアリスちゃん。
普段の配信ではサイコパスながらもピュアで表裏のないキャラクターを確立しており、あどけない表情の裏で色々策謀を巡らせているなど考えさせもしないレベルだ。きっとリスナーからの信頼も厚いことだろう。叩いたら音が鳴るおもちゃ程度にしか思われていない私とは大違いだ。
しかも仕草の一つ一つが可愛いのがまたずるい。
今だって抱きしめたくなるような可愛い笑顔を少しこてんと傾けてこちらを見つめてきている。
……いやまぁ今は可愛い少女のアバターを被っているからそう感じるのであって、リアルでこの人に見つめられようものならその瞳の奥の狂気が垣間見えて震えること間違いなしなのだが。
「……まぁよい、とにかくじゃ。妾にそういう一面があることは認めよう。もしその可愛らしい妾を見たくば、妾が愛おしいと思えるような存在になれるように、そういったコメントができるようになれ。少なくとも『踏んでください』だの『罵ってください』だの打っているうちは嫌悪以外の感情を向けることは無いと知れ」
本当に心底気持ち悪いと思っていることがひしひしと伝わってくる声色でカメラに向かってそう告げるアリシア様。
罵倒することを楽しんでいる部分もあるにはあるだろうが、その嫌悪もまた本音なのだろう。
……おっと、罵倒されて喜んでいる一人の友達の顔が脳裏に浮かぶけど気のせいということにしておくか。
「まぁでもその気持ちはすっごい分かるなぁ。私の配信でもロリコンさんたちがいっぱい湧いてて時々本気でぞわっとするもん。ロリコンさんたちは本気で死んで?」
その『死んで』の声色だけガチだ。その言葉が自分に向けられたらと思うと本気で戦慄するくらいには。
「アリスちゃんそれ一部界隈ではご褒美になっちゃうからこれからは気持ち悪い人たちのことは無視しようね~」
「きゃっ、変態さんたちこわ~い」
「守ってあげたいこのロリうへへ」
「サキちゃん????」
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