100万人突破記念配信 3

「てか流石に疲れた!!なんで二曲踊った後であんな激しい動きさせられにゃならんのや???」


そもそもあんな急にメグ先輩が襲い掛かってくるなんて予定になかったし。

流石に体力がもうもたない。


「てかドラ〇エとかの魔王ってこういう気分なんだね。自称勇者がいきなり襲い掛かってくるなんて案外可哀想なのかも?」


【コメント】

:おっそうだな

:生粋の悪役だな

:素の状態であの動きはやばいだろ

:普通に人間やめてる

:反射神経とかの問題じゃなかったぞ


「てか流石にちょっと休憩させて!」


私がそう言った直後に配信上では画面がまた暗転。


そしてその間に座って休憩しようとした私の両隣にユウカ先輩と鈴子先輩が。

ちくせう。私の味方はいないのか。


流石に休憩させてほしいなんて私の淡い期待は一瞬で裏切られ、さっさと明転して曲が流れ始める。

しかもこの二人はどうやらダンス経験者らしく、しかも二人とも結構体力があるタイプらしいので一緒に踊る予定のダンスも結構激しめのものとなっている。

ユウカ先輩はお金のためならなんでもするというスタンス上、鈴子先輩は一応歌のお姉さん枠ということで。

もう忘れてたよ、鈴子先輩が歌のお姉さんとかいう実質没設定。


とはいえまともな曲を歌わせたら普通に上手いのがまた腹立たしい。何気に時々やっている歌枠では、『歌っている最中はただの歌のお姉さん』なんて言われていたりする。まぁ、歌の合間のトークではただの田所お姉さんなのだが。


そういえば今更ながら、ここまでの二組を含め楽曲以外はリハーサルなどでも一切何も決めておらず、というか私が何も聞かされておらず、ゲストの一存に決めることになっている。ここまでもカオスそのものであったが、この二人となるともう心配しかない。ただただ心配でしかない。


「ほい、サキちゃんお疲れさん。とりま座り」


「おいお前ら、サキちゃんが頬を紅潮させて荒い息で熱っぽい視線をお前らに向けてるんだぞ、遠慮なく(ピーッ」


「熱っぽい視線は向けてねぇよ捏造すんな万年発情期」


【コメント】

:ふぅ

:えrrrrrrr

:ナイスだ運営

:こんな疲れてる顔してんのにダンスキレッキレなのやっぱこわい

:休んでもろて

:このメンバーだとこれからもっと疲れるような……


「こんな疲れててもちゃんとツッコミ入れるの流石やなぁ。大丈夫?おっぱい揉んでいい?」


「そこは『おっぱい揉む?』でしょ……って言いながら既に揉んでるし……」


「ちょっと!私ですらまだ揉んだことないのよ!?サキちゃ」


「鈴子先輩、指一本でも私に触れたら折りますからね」


「この扱いの差は何!?」


半ば反射的にツッコミを入れ続ける私だが、くっついてくるユウカ先輩を払い除けるだけの気力はない。

まぁ、鈴子先輩が同じようにセクハラしようとしてきたら気力を振り絞って拒絶するが。


「はぁ……だからこの二人の番がただただ不安でしかなかったんですよ……」


「サキちゃんも大変やなぁ。お疲れさんやで」


「疲れさせてる本人が言うことですか??」


可愛い女の子の皮を被った関西人のセクハラおじさんユウカ先輩ただの変態ただの変態。できることならこの二人は最初に消化しておきたかったというのが正直なところだ。


いやまぁユウカ先輩はいいんだよ、話してて面白いしノリも楽しいし。

ただ問題なのはふざける人がいるとそっちに流されて大暴れすること、そして一緒に来てるのがもうとしか形容できないモンスターだということ。


「ていうか、そういえば私サキちゃんにオフコラボ拒否られ続けてきたからオフで一緒に配信すること自体初なんだよね」


「むしろ先輩とのオフコラボOKしてる人いるんですか?」


「いると思ってるの?」


「愚問でしたね」


ちなみにリハーサルの時に鈴子先輩と何度か会ったが、配信上とは全然違う印象だったというのが正直な感想だ。まぁこのあたりの話はまた今度するとしよう。


「サキちゃんそろそろ疲れとれてきた?」


「あ、そうですねありがとうございます」


私の胸を触っていたはずのユウカ先輩は、いつの間にか肩もみにシフトしてくれていた。しかもかなり上手で、気持ち良すぎて思わずリラックスしてしまっていたくらいだ。

普段ふざけているくせにこういう細かいところで優しいところを見せてくるからこの先輩大好きなんだよ。


「前のお酒の件は一生忘れませんけどね」


「急に何!?別に優しくしてオトそうとしたとかやないで!?」


この前覚悟を決めて誕生日配信の切り抜きを見てみたのだ。

その場でユウカ先輩を殺しに行こうか本気で逡巡したくらいにはおぞましい内容で、半分くらいの段階でブラウザバックしたけど。


「そういやサキちゃん、なんで今回のライブは収録した音声とか使わんかったん?ウチらみたいに一曲ずつとかやったらええけど全部ってなると大変やない?」


「実は、私そもそもライブってそういうものだと思ってたんですよ」


「んなわけあるかいな」


「で、セトリもらってから練習して踊りながら歌えるようになってからスタジオ行ったらスタッフさんが私に合わせてプランを変更しちゃって……」


「え、てことはウチらがこうやって大変な思いしてるんはサキちゃんの勘違いが原因ってことかいな」


「えへ」


「可愛くしたら許されると思っとったらあかんで。許すけど」


「許すんかい」


なんてまったり喋っていると変態変態が耐えきれないと言わんばかりに口をはさんでくる。


「普通にスルーしてたけど、この短期間でダンスと歌全部覚えてきたってことだよね……?100万人突破してからどれぐらい経ってたっけ……?」


「二週間とちょっとくらいだったかな?まぁ大体二日に一曲って考えたらそこまででもなくないですか?」


ちなみにセトリと振付が加瀬さんから送られてきたのがちょうど二週間前。その二日後からもう他のメンバーとの合わせの予定が入っていた。

ちなみに他のメンバーには予め予定が伝えられており、ちょっと早い段階からダンスの練習はしていたらしい。

え?私?言い忘れてたんだって。ふざけるな。


「鈴ちゃん、こういう時はな。『ああ、いつものサキちゃんやな』でええんやで」


「今回ばかりは結構大変だったんですからね!?」


「普通は『大変』だけで済まへんねんで」


そんな感じでまったりと雑談しながらこの二人との時間は過ぎていった。

ふざけていたのは最初だけで、案外常識的な二人との時間は間違いなくここまでのグループの中で、いやこの後控えているグループを含めても一番落ち着いた時間であったと言えるだろう。

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