梨沙の誕生日に向けて
「そいじゃみんな、またね~」
いつも通り配信を終えて一息つく。
もうなんだかんだで一年ほど配信活動を行っているため、もうかなり慣れてきた。
ふとスマホを開くと、珍しい人からRINEが来ていた。
裕也:明日ひま?
この一文だけ。
最近あまり話すことがなかったが、彼は梨沙の彼氏である。
『大学終わった後は特に予定ないけどどうしたの?』
裕也:梨沙の誕生日に何か渡そうと思うんだけど何も思いつかなくてさ。プレゼント選び手伝ってくれないかと思ってさ
そういえば梨沙の誕生日がもう数週間後に迫っている。私もそろそろ何か用意しないとだな。
『OK。私も選びたいから明日一緒に買うわ』
明日は確か梨沙と一緒の授業はなかったはず。
いつも通り授業中に課題を終わらせてプレゼントを買いに行くことにしよう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「よっ、久し振り~」
「2か月ぶりぐらい?梨沙とのラブラブ具合は普段から聞いてるよ、ウザいくらいにね」
「なんなら今日は俺目線のを聞かせてやろうか?一昨日梨沙が家に来たときのことなんだけど……」
「ほんとにやめて。もう普段梨沙から聞いてる分だけでお腹いっぱいなんだってば」
待ち合わせ場所の校門で久し振りに会った裕也との会話だ。
髪型は茶髪のゆるふわマッシュ、ぱっちり二重で色白の文句なしのイケメン。ファッションも流行りに乗っていてシンプルながらおしゃれな雰囲気だ。しかもちゃんと175くらいの高身長ときている。
「今俺のことイケメンだと思っただろ」
「うっさい。思ったけど」
「そりゃよかった。とりあえず行こうぜ」
「なんだこいつ」
自覚しているイケメンや美人ほど憎らしいものはない。
こんなところで立ち往生していても仕方ないのでそんなイケメンの隣に並び立って歩き始める。
……え?私みたいに自覚してない美人の方が憎たらしいって?
ははは、私が美人だなんて何の冗談ですか。
「いや、早紀は普通にクソ可愛いだろ」
「なんで心の声が!?」
「顔に全部書いてあるんだよ」
「ていうか彼女持ちが他の女を口説いてんじゃないよ。たらしめ」
「ただの率直な感想だよ失礼な。ていうかお前の方がたらしだって梨沙から聞いてるんだが」
「どこが???そもそも最近男とあんま関わってないし……」
「いや、そうじゃなくて……まぁいいや」
一体私が誰をたらしこんでいるというのだろう。
びっくりするくらい心当たりがないのだが。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「なんか梨沙が欲しがってるものとか思いつく?」
「梨沙ってびっくりするぐらい物欲ないからなぁ……強いて言うなら単位?」
「あげられるなら俺だってあげたいよ」
早紀だってそうだ。V活動の傍らでしっかり成績は確保しているので単位には今かなり余裕がある。それに対して梨沙は最低限の努力で単位を確保することを目的としており、実は結構落としているのだ。
「彼氏として心配だよ」
「親友として心配だよ」
そんな話をしながらデパートの中を二人で色々見ながら回っていく。服、アクセサリー、バッグ、財布などなど。候補となるものはあれど中々『これ!』となるものがない。
なんだかんだで小一時間二人で唸っていた。
「もはや物欲なさすぎる梨沙が悪いような気がしてきた」
「それな、あと何渡してもちゃんと喜んでくれそうなのがまた性質が悪い」
「それな」
もはや何も思いつかなさ過ぎて二人で梨沙を批判し始めていた。
「もういいや、これ以上考えてもしょうがないし私はマカロンでも渡すわ。甘いもんもらって喜ばない女子なんていないだろ」
「じゃあ俺はぬいぐるみでも渡すかなぁ。でっかいぬいぐるみもらって喜ばない女子なんていないだろ」
裕也はともかくとして、女心がさっぱりわからない早紀。自分だってもらって嬉しいプレゼントが特にないのだ。強いて言うならお母さんぐらい強靭な肝臓?
「じゃあそうすっか……。そういや、今更だけど俺と二人で出かけてて大丈夫なのか?その、最近何やってるか梨沙からちょっと聞いてるもんだからさ」
「あぁ、別にアイドルみたいなことやってるわけじゃないし。てか男と買い物来るだけでそんな邪推されるのを恐れてたら私生活がなくなっちゃうよ」
一部のなぜかサキたち配信者をアイドル視している人たちだが、彼らがどうして配信者の私生活を縛ることができようか。意味がわからない。別に彼氏というわけでもないのに。
実際、その翌日の配信で『昨日サキが彼氏とデートしてるところを見た』なんてコメントがわざわざスパチャつきで来ていたが、それに対してのサキの返答はこうだ。
「何してたってのはまだ言えないけどあれはサリーの彼氏だよ。なんならサリーと彼氏呼んで確認取ってもいいし、そもそも私に彼氏なんてできると思うか??普通にあり得ないでしょ。てか彼氏できたら普通に配信で言うから。なんならめっちゃ惚気るから覚悟しとけよ」
身バレしている以上、裕也と出かける時点でリスナーに見られることなんてもちろん承知の上だった。普段の立ち振る舞いからほとんどのリスナーには信頼されているはずだ。
【コメント】
:そりゃそうだ
:無理無理
:俺だったら絶対彼女にしたくない
:こうやって見てるぐらいがちょうどいい
:サキちゃんが彼女なんて劣等感で死ねる
:サキちゃんに彼氏なんてできたら槍が降るぞ
なんてコメントばかりだったのは普通に癪だが。
いや、私だってできれば彼氏ほしいけどね??
そりゃあんなイチャイチャを普段から間近で見せられてたらほしくもなるけどね!?!?
つ、作ろうと思えば作れるんだからね!?
でも今は配信の方が大事だから無理。ってことにしとく。
ちなみにプレゼントはそれぞれ買って、梨沙に渡したら普通にめちゃくちゃ喜んでもらえた。これで梨沙もついに20歳、やっと一緒にお酒が飲めるねやったね。
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