とある空きコマでの一幕
「早紀~、ここ授業で何て言ってたっけ」
「それの説明だったら確か第3回のスライドの8枚目とかに載ってたと思うよ」
「それ見てわかんなかったから聞いてるんじゃんか~」
「しょうがないなぁ……」
ここは早紀と理沙が通う大学のとある空き教室。
授業内容に関するレポートが締め切りギリギリで焦っている理沙のために早紀がサポートしてあげているという構図だ。
ちなみに今日の次の授業が終わるくらいの時間が期限に設定されているらしい。
「で、早紀は何してんの?」
「私は来週の配信で使うサムネ画像を作ってるとこ。どうせやることなくて暇だしね」
「一応聞くけど課題は?」
「え?前も言ったけど全部授業中に終わらせてるから今は特にないよ」
「なんか色々調べなきゃいけない授業取ってなかったっけ」
「あぁ、桃花ちゃんと一緒のあれね。めんどくさいから毎回事前知識で適当に固めて出してるよ」
「それが事前知識だけでどうにかなるのが不思議だよ私ゃ……」
パソコンを慣れた手つきで操作する早紀を尻目にそう項垂れる理沙。
こういう時くらいは早紀の脳みそを借りたいと切に願う。
「ちなみになんだけど、今日の授業でやってたレポートの内容って何?」
「えーっと、『地方における習慣的なジェンダー差別問題について』と『町おこしなどで実際に用いられたアート作品に関するレポート』だったかな」
ちなみにこの二つのレポート、画面に二つとも並べてほぼ同時並行で進めるという荒業を熟しており、早紀の執筆の速さには慣れているはずの理沙も隣で見ていて驚愕、居眠りを忘れるほどであった。
「一つ書いてて次の内容で詰まるでしょ?そしたらもう片方を書き始めて、そっちが詰まる頃にはもう片方のアイデアが浮かんでるから再開するんだよ。そしたら案外簡単にできるよ?」
「なるほどなるほど、そうすれば……ってできるかい!?!?」
思わず大声でツッコミを入れる理沙。そんなことをするためには一般人の脳が二つ、もしくは理沙の脳みそが三つ必要だ。
「いらんこと言ってないでさっさとそのレポート終わらせなさいな。それ今日中でしょ?」
「そうだった……。早紀のおかしさにツッコんでたら進まないよ……」
「ツッコみながら書けばいいのでは?」
「だからそれができたら苦労しないんだって!!」
ふと時計を見ると次の講義まではあと30分ほど。今から気合を入れて頑張ってやっと間に合うかどうかといったところだ。
「ほいじゃ、私はシイッターでも見とくから頑張ってな~」
「はいぃ……」
泣きそうな理沙を横目にスマホを開く早紀。先ほどのやり取りの間にサムネイルはもう完成している。
ふと思い立ち、久しぶりにSAKIのアカウントにログイン。
ミラライブに入ってからほとんど触っていないというのに、フォロワーは何故か増え続けている。ついでにあの恥ずかしいボイスも地味に拡散され続けている。
非常に消したい。
『今大親友が隣で泣きながらレポートやってて草生えるわぁ^^』
なんて他愛のないシイートを投げる。
前と同じ……いや、前の数倍の速度で増え続けるいいねとリシイート。やはりというか狐舞サキからこちらのアカウントを知ってフォローしてくれている人も多いのだろう。ま、隠しておくつもりもないから別にいいんだけどね。
ぼーっとTLを眺めていると、ちょくちょくミラライブ関係のシイートや切り抜き動画なんかが流れてくる。MeeTubeでもそういった動画はよく流れてくるため、自分の出ているもの以外は結構普段から見ていたりする。
配信で飲酒した後一週間くらいはMeeTubeを開くたびに非常に居たたまれない気持ちになるのだが。
ただ、サキが入る前と比べて今ミラライブの人気が桁違いなのは嬉しいことだ。全くミラライブに関係ないアカウントであるはずのSAKIアカウントのTLにすらかなりの頻度でミラライブ関係のシイートが流れてくるのだから。
「そーいや早紀、この前のメグさんの配信見た?」
「ミラクエやってたやつでしょ?なんならちょくちょくコメントしてたよ。ていうかあのゲームでの私の扱いほんとにひどくない?作ったの誰だよマジで……」
「結構やってる人多いんだけどさ、いまだにラスボスのサキの討伐報告がないらしいよ」
「ってことはまだクリアした人がいないってことね……。何、私そんなに化け物にされてるの?」
「そりゃまぁ。なんだったかな。えーっと、『毎ターンランダムで変化する1属性以外全て吸収、アイテム使用不可、全属性全体魔法使用、バフデバフ解除スキル持ち、判断力最高値、しかも耐性貫通の魅了スキルも使用、1ターン二回行動』だってさ。しかもどうせ第二形態とかあるって言われてる」
「それ聞くだけでももう勝たせる気のない化け物だってことがよくわかるよ。この製作者に私のイメージについて一度問い詰める必要があるね」
「でもプレイしてる人たちも、苦しんではいるけど『この強さで納得』とかむしろ『たまたまサキにダメージ入れられた!!』って喜んでたりとか、納得してるみたいだよ」
「私が化け物なのはみんなの共通認識だったのね!?」
今まで結構色々なゲームをプレイしてきたが、ここまでヤケクソみたいな強さのボスは聞いたことがない……気がする。
クソ難易度で有名なメ〇テンシリーズのステ〇-ブンや〇修羅、公〇影あたりの理不尽難易度の裏ボスたちの方がまだ可愛いレベルな気がする。
「でも妙にクオリティ高いみたいだし、今度私もやってみようかな。自分で自分を倒しに行くってのもおかしな話だけどね……。てか梨沙、レポートは終わったの?」
そう言うと、今さっきまでのんびり雑談していた梨沙の動きがぴたっと止まる。それだけでもうお察しだ。
ちなみに次の授業まであと5分もない。
「早紀さんや……」
「何奢ってくれる?」
「……焼肉」
「よかろう、後で書くべきことをまとめて送ってやる。文章にするのは自分でやりなさい」
「やっぱ持つべきものは魔王クラスの親友だよほんとに」
「友達の課題の手伝いする魔王とかもう文面が強すぎるよ」
ちなみにこの後梨沙はしっかり課題を間に合わせて、一緒に焼肉を食べに行った。
やっぱ人の金で食べる肉ほど美味しいものはないね。
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