ミラライブを攻略せよ 3

『ふぅ……くるみちゃん、大丈夫っスか?』


『うん、スピカちゃんありがとう。それに、メグ先輩も助けてくれてありがとうであります』


建物の外にスピカが臨時で作った休憩スペースで休むくるみ。二人の介抱の甲斐あってか、どうやら普通に動けるくらいまで回復したようだ。


『先輩、お願いがあるのでありますが……』


『ん?何かしら?』


『本官をサキ先輩討伐に連れて行ってほしいのであります!』


『それはいいけど……きっととても危険なものになりますわよ?』


『もちろん分かっているのであります。その上で、一人の警察官として、一人のミラライブメンバーとして、サキ先輩の悪行を見逃すわけにはいかないのであります!』


『そういうことなら私は構いませんが、くれぐれも怪我をしないように気をつけてくださいね?』


妙に聞き覚えのあるファンファーレと共に、くるみが仲間に加わる。

どうやらスピカとは違って一緒に戦闘してくれるタイプのようだ。


『あたしも色々バックアップするので、安心して攻略していってほしいっス。それにくるみちゃんは攻撃に特化してるんで、戦闘でかなり役に立つと思うっスよ』


くるみの戦闘スタイルは、主に銃を用いて戦う物理アタッカー。攻撃力と素早さは高いのだが、その代わりにHPは少し少なめに設定されている。


実際、レベルを上げて防御魔法を習得してから攻略に挑んだから楽勝だったものの、もし習得前に挑んでいたらかなりの苦戦を強いられていたことだろう。


『ではくるみちゃん、よろしくお願いしますわね。一緒にミラライブを取り戻しましょう!』


『はいであります!!』



そう意気込むと再びミラライブ本社に歩みを進める二人。入口にあるPCを操作してボス部屋の前までワープし、その奥にある階段から二階へと向かう。


『二階にいるのはマイカ先輩っスね。引き続き気を付けて頑張ってくださいっス!』


二階も一階とあまり雰囲気は変わらないが、何種類か見たことのないリスナーが湧いている。

そしてその中に一際異彩を放つ者が。


『あ、メグ先輩!あれ!あれ倒してください!』


ゲーム内のメグがスピカの指示を受けて自動でその敵をフォーカスし、戦闘に入る。


「え、やだやだやだやだやだ」


メグが拒否反応を示したのも無理はない、何せその敵とはユウカのファンである『金蔓』、その見た目は地面から生える金色のミミズだ。


実を言うとメグ、色々完璧ではあるがお嬢様育ち故か、虫だけは無理なのである。虫と名の付くものは総じて無理なのである。

その理由として以前の配信でメグはこう述べている。


『知っておりますか。奴らには貴方たち人間と違って衛生観念というものがございませんの。つまり皆さんが死んでも触れたくないようなものを躊躇なく触れて、その上で我々の生活圏に土足……いや靴すら履かずに侵入してくるんですわよ?よく考えてごらんなさい。私なんてもう存在を頭の中に浮かべただけで生理的嫌悪感で気が狂いそうになりますわ』


そんな虫が目の前に二匹。そんな状況で虫嫌いのメグが取る行動は一つ。

逃げ一択である。

しかし……


『しかし まわりこまれてしまった !』


「な、なんで逃げられませんの!?」


そのまま敵のターンに。

金蔓の頭部と思しき部位がガパッと開き、メグに嚙みついてくる。しかしダメージは極小。

レア敵扱い故か、攻撃力が最低値に設定されているらしい。


しかしその攻撃はリアルのメグには効果抜群だ。


「……。……きっも」


【コメント】

:ここが見たかった

:期待通りの反応で助かる

:ねぇ声www

:聞いたことないド低音で草


次のメグのターン、ノータイムでコマンド選択。当然のように必殺技の大天使の粛清を。

もちろん金蔓たちは消し炭になり、戦闘が終了。

どうやら再生数を多めに貰えるタイプの敵らしく、メグとくるみ二人のレベルが一気に三つ上がる。


それぞれに適当にポイントを割り振ると、くるみが新たなスキルを習得。


『ファイアバレット(敵一体に力依存の炎属性ダメージを与える特技)』


『アイシクルバレット(敵一体に力依存の氷属性ダメージを与える特技)』


の二つ。

どうやらくるみは力依存の属性攻撃を覚えるアタッカーのようだ。


「ふむ……力を伸ばせばいいのならTPがなくなっても攻撃で火力出せますし、くるみちゃんって結構扱いやすいのかしら?」


なんて、変な切り抜き方をされたらまずいことになりそうな発言を。


他には特に苦労することもなく二階も順調に進んでいくメグ。

途中でアイテムや装備品を回収していき、レベルも着々と上がってゆく。

金蔓だけは画面に映った瞬間に全力で逃げだしていたが。


……と、道中で雑魚狩りをしてレベルを上げつつ二階のボス部屋に到着する。


『わかってると思うっスけど、マイカ先輩は氷魔法の使い手っス。かなりの火力なんで十分気を付けてください』


もちろんそれは分かっている。そのためにメグは道中で炎ダメージを与えるアイテムをたくさん回収して温存してきた。それに同接ゲージもMAX。準備万端と言えるだろう。


「それでは……行きましょうか」


一度息をついて扉を開ける。


『さ……寒……』


ゲーム内のメグが思わずこぼすのも無理はない。

なんせ部屋の中は吹雪が吹き荒れ、まるで冷凍庫の中のような気温だったからだ。


『……誰……』


その中心で佇む青い髪の少女。言わずもがなマイカである。


『マイカちゃ……』


『お酒……』


『え?』


『ねぇなんで……?お酒が凍って飲めないの……。お酒お酒お酒酒酒酒酒酒……あぁ……あなた、お酒ちょうだい?』


戦闘開始。


「ゲーム製作者さんのマイカちゃんのイメージを問いただす必要がありそうですわね」


二階のボス、雪降マイカ戦である。


ちなみに彼女の様相は、右手に魔法の杖、左手に一升瓶を持っているというもの。


「とりあえず……魔法防御を上げられる魔法はないので一旦くるみちゃんの攻撃力を増やしますわ」


そう言って、くるみに『天使の軍歌』を使用。一時的にくるみの攻撃力が上昇する。


その攻撃力が上がった状態でのファイアバレットがマイカに直撃。

WEAK!の表示と共にかなりのダメージが入る。


……しかし。


続くマイカのターン。


『酒……を……』


そう言いながら手に持った一升瓶でくるみに殴りかかるマイカ。


『くるみは倒れた!』


「えええ!?嘘でしょう!?いくら基礎HPが低いとはいえワンパンって……」


問題なのは彼女の攻撃が氷属性を纏っているということ。

つまり防御力を上げても防ぐことができないのだ。


このままではメグ一人では回復に回ってばかりで倒せる未来が見えない。


まさに万事休す。

しかし。


「……ん?お酒?」


とあることに気付いたメグ。

アイテム欄を開き、TP回復アイテムであるお酒を取り出す。

すると、なんと敵であるはずのマイカに対して使えるではないか。


これしかない、そう思って酒をマイカに与えるメグ。


『ほら、マイカちゃん。これがほしいんでしょう?』


『お酒!!お酒だ!!』


メグが手渡した一升瓶を開け、ラッパ飲みで一瞬で空にするマイカ。

気づくといつの間にか室内の冷気は収まっていた。


『あれ……メグ先輩?どうしたんですかこんなところで』


『どうって……あなたがサキちゃんに操られているって聞いて助けに来たのだけれど……』


『あー……お酒が切れちゃって体内の魔力が抑えきれなくなって、気づいたらこの部屋に閉じ込められてたって感じですね』


『なるほど、サキちゃんの手にも余ると判断されたのね』


「くるみちゃんもそうですけれど、このゲームのキャラクターたちって私たちの個性の誇張が激しすぎません???」


一応納得したメグたちは、くるみの時と同じように一度マイカを建物の外に連れ出すことにした。


「さて、とりあえず今日のところはこのあたりで終わっておきましょうか。もう時間も遅いですし、あの害虫のせいで私のSAN値も削られてしまいましたしね」


時計を見てみると、もうそろそろ日付が変わろうという時間。レベル上げや探索などで案外多くの時間を使ってしまっていたらしい。


【コメント】

:おつメグ

:マイカちゃんのキャラほんとに終わってる

:ほんとはあんな子じゃ……あんな子じゃ……なんでもないです

:解釈一致の倒し方

:よく攻略方法に気付いたなぁ……


「このゲームはまた近々配信で続きをやっていこうと思っておりますので楽しみにしていてくださいな。それでは皆さんおつメグでした!」



『《天使メグ》謎のゲームがリリースされたらしいですわ《ミラライブ一期生》』

1分前に配信済み


To be continued...

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