なんだこの変態は

鬱憤を晴らしに来たアリシアと助けに来たサキがイチャついているという謎の状況になっているモモカ宅。

その家主がそれを四つん這いで眺めているというなんとも居たたまれない情景がそこには広がっていた。


「……で、貴様はいつまでそうして妾たちを眺めておるつもりじゃ?」


先ほどまでとは打って変わって、鋭く刺すような視線をモモカに向けるアリシア。

それを受けてビクッと反応しながらも口角が僅かに上がっている。


「そういえば、先輩はモモカちゃんに何したんですか?」


「何と言われてものぅ……ただ踏んで罵った程度なのじゃが……」


それは彼女らの界隈ではに分類されるやつなのではないだろうか。


「いいですかアリシア先輩。こういうタイプの変態は放っておくのが一番効くんですよ」


「サキちゃん!?!?私たち友達じゃなかったっけ!?」


「私の友達である可愛いモモカちゃんかヤ〇ザなモモカちゃんを取り戻すためにド変態なモモカちゃんには帰っていただきたいんだよ」


半分くらいは本心だが、残り半分は『面白そうだからいじってみよう』だったりする。


「サキの言う通りじゃのぅ。ではサキよ、ちと頼みがあるのじゃが」


「なんです?」


モモカを無視することに決めたのか、改めてアリシア先輩が隣に座る私に向き直る。

びっくりするくらい整った顔立ちが目の前にあって、思わずドキッとしてしまう。


「もしよかったらこれから時々妾と一緒に遊んでほしいのじゃ。配信上じゃとあまりこういう面は見せづらいのでな、できればプライベートで……」


「もちろん喜んで、というかこんな可愛い先輩と遊び行けるなんてむしろこちらからお願いしたいくらいですよ」


どんどん声が細くなっていくアリシア先輩。

その苛烈な性格から、あまり一緒に遊ぶような友達がいないことは容易に想像できる。

何気に配信でも昨日のモモカちゃんとのコラボ以外ではほとんどソロでの配信だったりする。

まぁ、ミラライブ内で浮いていて他とあまりコラボしないのは二期生全員の共通点でもあるのだが。


どちらが素なのかは分からないが、少なくとも今私に向けている一面は他の二人と比べて……というか比べるまでもなく愛らしい。

しかも私の『可愛い』に反応してまた顔を赤らめている。

こんな可愛らしい先輩の頼みを断るなんてどうしてできようか。


私の返事を聞いた先輩は、少し恥ずかしそうにしながらも心底嬉しそうな表情を浮かべている。アリシア先輩のこんな面、もしかしたら他の誰も見たことないのではないだろうか。


「よし、では妾は帰るとしよう。小娘よ、サキをここに呼べたその幸運に免じて今日はこのくらいで許してやろう」


そう言って立ち上がったアリシア先輩は、今までにないほど上機嫌のまま部屋を後にした。


ソファで呆然とする私と、アリシア様の出て行った玄関を呆然と見つめる四つん這いのモモカちゃん。非常に気まずい空気が流れている。


「と、とりあえず座ろうかモモカちゃん」


流石に大学の友人兼事務所の後輩が目の前で四つん這いの状態では何か話をしようという気になれるわけがない。


私がそう言うと、モモカちゃんは少し恥ずかしそうにしながらその場に正座する。

何故に床。別に私はアリシア先輩みたいにいじめたりしないのに。


ああ、違うわこれ、まだ目覚めたままなだけだ。


「ありがとうサキちゃん、来てくれなかったら私どうなってたか……」


「でも喜んでたように見えたけど……?」


「だからだよ。あれ以上されてたら私はもう戻れないところに……」


「よし、そこまでにしよう。本当に助けに来てよかったと今思ったよ」


ここらでようやく落ち着いてきたのか、ソファに座り直すモモカちゃん。その表情からはもう狂気は消え去っている……と思いたい。


「じゃ、私ももう帰るね。今度からはもうアリシア先輩を怒らせないようにするんだよ」


「えっ……あ、うん、もちろんだよ」


目が泳いでやがる。


「もしまたこんなことがあったら桃花ちゃんはどうしようもないくらいドMのド変態って大学で言いふらすからね」


「!?そ、それだけはやめて!!?」


「ていうか、私は普段のモモカちゃんとか怒ったときのモモカちゃんが好きだからさ。別に人のへきを否定するつもりはないけどさ、出来れば見えないところで解放してほしいなって感じ」


実際、これからどんどんモモカちゃんのドMが露骨になっていって私にすら求めてくるようになるかもしれないと考えると寒気がする。


「それにね」


そう言って、両手でモモカちゃんの両頬を挟んで顔を近づける。


「私は大事な友達とはこんな風に普通にお話したり遊びに行ったりしたいの。そりゃ私も周りが見えてなくてバカやっちゃうことはあるけどさ、できるだけ普段他の人に見せてるような感じでいこうよ。モモカちゃんも案外そっちの方が楽だったりするんじゃない?」


今のモモカちゃんはヤベェ部分が前面に出てきているが、それはアリシア先輩にいじめられた後の流れだからという部分も大きいに違いない。

実際、配信活動を知っていると思われる友人に大学でこの前のGhostphobia配信のことでツッコまれて対応に困っている様子も見て取れた。


結局アリシア先輩にいじめられている配信している時以外は、いつも通り猫を被っておくくらいの方が本人も過ごしやすい……のだと思いたい。


「サキちゃん……」


もうすっかりいつもの可愛いモモカちゃんである。


「大好き、結婚しよ」


「そうはならんやろ」


顔を左右から挟んでムニッ。

かわいい。

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