なんだこの可愛い生物は
今回の事件の始まりはとある一件の救援要請だった。
白井モモカ:サキちゃん助けて!!アリシア様g
これだけでもう察しである。
昨日の配信でアリシア先輩の逆鱗をまるで空条承太〇かという勢いで殴ったのだ。大方我慢しきれなかったアリシア先輩が家にでも押しかけてきたのではないだろうか。
なんて思いながら放置することに決めてスマホを置くと、今後はモモカちゃんから電話がかかってきた。
仕方ないので電話に出る。
「はいはい、どうしたのモモカちゃん」
『サキちゃん!!私まだ死にたくなグエッ』
恐らくモモカちゃんであろう潰されたカエルのような声が聞こえた直後に聞こえたのは別の人物の声だ。
『おお、サキか。久しいのう。それにしても先輩相手に『サキちゃん』とは。この小娘といつの間に親睦を深めたのじゃ?』
「あー、実はモモカちゃんは私と同じ大学に通っててそこで知り合ったんですよ……」
『ほう、なるほどのぅ。ところでお主も来ぬか?この小娘、妾が踏んでおるというのに何故か気色の悪い笑みを浮かべておって少し不気味なのじゃ』
ああ、そういえばモモカちゃんはドMだったな。
にしてもアリシア先輩なんてリスナーのほとんどがドMだろうしそういう変態には慣れてると思ってたんだけどモモカちゃんはレベルが違うらしい。
普通に怖いよ、そんな側面を知ってる相手と来週もまた一緒に授業受けるの。
「わかりました。今モモカちゃんの家ですか?普通にモモカちゃんが心配なので向かいますね……」
『おお、そうか。出来れば鞭や手錠あたりを持ってきてもらえると助かるのぅ』
「持ってませんよそんなもの!!!!」
大きな声でツッコミを入れて通話を切る。
モモカちゃんの家は行ったことはないが以前本人に住所を聞いているので知っている。
モモカちゃんが更にドMに目覚めて取り返しのつかないことになる前に救出することにしよう。
……手錠とか鞭とか、加瀬さんや高畑さんにお願いしたら用意してくれそうだな……。
なんて思考が脳裏を過ったが、また察して用意されても困るだけなので出来るだけ考えないようにしよう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ピンポーン
都内のアパートの一室のインターホンを鳴らす。
恐らくは一人暮らし用のアパートだ。
まぁ、実家暮らしなわけないか。急に押しかけてきた人に娘が踏まれてたら普通に通報案件だ。
部屋の中から返事がないのでドアノブを捻ってみる。
回る。
ゆっくりと扉を開けて中を覗いてみると、廊下の先の部屋から素足だけがこちらを覗いている。
え、何この状況。
「あ、あの~。サキです~」
まさか本当に殺されてしまったのではないかと少しビビりながら部屋の中に声をかける。
「おお、やっと来たか。ほれ、入れ入れ」
「なんで家主でもない人が招き入れるんですかね?」
もう半ば反射的にツッコミを入れながら靴を脱いで部屋に入る。
「よく来たな。やはりいつ見てもお主は麗しいのぅ」
そこで待ち構えていたのは、何故か今までにないほど上機嫌のアリシア先輩。
黒と赤を基調とした和風の装いに、いつか見た美しいストレートの黒髪がマッチしていてお上品なご令嬢という印象を受ける。やはりというか、久し振りに見ると改めて美しい人だなと思う。
優雅に足を組んで座る彼女は紅茶を啜っており、その座っている場所が四つん這いの人間の上でなければ一枚の絵になるような雰囲気である。
「えーっと……とりあえずソファの上に座りません?」
もうツッコミどころしかなくて頭がバグりそうになる私だが、とりあえず
「そうじゃな。ちょうど妾もこの椅子は座り心地が悪いと思っていた頃じゃ。どうじゃ、お主も飲むか?」
「あっ……ありがとうございます頂きます」
笑顔で自分の持っているティーカップを示すアリシア先輩。
アリシア先輩の傍らに置いてあるポットから紅茶をもう一つのカップに注ごうとするのだが……。
「よいよい、お主は座っておれ。妾が淹れてやろうぞ」
「え」
不気味なものを感じながらもアリシア先輩が淹れてくれた紅茶を受け取ってソファに座る。
するとアリシア先輩が私の隣に座ってきた。普通に距離が違い。
あ、この人いい匂いがする~。
「そういえばサキよ、前に言っておったことを覚えておるか?その……妾が優しいとか……か、可愛いとか……」
そう言いながら顔を真っ赤にして少し俯くアリシア先輩。
え、何この人めちゃくちゃ可愛い。
ていうかそういえば彼女の発言には心当たりがある。
「前っていうと……街で会った時ですよね?もちろん覚えてますよ。だってあの時のアリシア先輩すっごいカッコよかったしめちゃくちゃ美人だなって思いましたもん!」
もちろん全部本心である。
周囲の通行人全員が怯えて逃げる中で、私を助けるために暴漢を蹴り伏せたアリシア先輩。私がサキであると気づいていなかったのに助けようとしてくれたし、あの時も普通に惚れてもおかしくない美しさであった。
「そ、そうか……それでな、今日はこの小娘の件とはまた別でお主に会いたくてな」
普段の堂々とした雰囲気からは想像もできないくらいしおらしいアリシア先輩。
どうしたと言うのだろう。
「ほら、妾の普段の立ち振る舞いを見て『可愛い』などと思う輩は少ないのでな、その、ちとときめいてしもうて……」
ますます声が小さくなっていくアリシア先輩。
彼女の言うような普段の立ち振る舞いを知っているが故に、そのギャップがヤバすぎる。今すぐにでも抱きしめたい。
「な、なにをするのじゃ!?」
「あ、つい……」
気づいたら隣に座るアリシア先輩を抱きしめていた。
慌ててますます困惑するアリシア先輩を腕に抱いて、その感触を堪能する。
「わ、わかったから!!恥ずかしいからもうやめんか!!!」
そう言いながらも全く振りほどこうとしないアリシア先輩。
そんな二人の様子を見て四つん這いのモモカは思うのだった。
「私は何を見せられてるんだ」
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