まったりお絵描き雑談っス

『《狐舞サキ/泉水スピカ》サキ先輩とまったりお絵描き雑談!《ミラライブ三期生/ミラライブ四期生》』


「あー、あー、聞こえておられますか?ミラライブ四期生、泉水スピカっス!今日はまったり雑談枠ということで、この方にお越しいただきましたぁ!」


「どもー!ミラライブ三期生の狐舞サキでーす」


「はーい!ということで、サキ先輩に来ていただきました~!!何気に先輩とのコラボは初めてなので緊張してます……!」


「よかったよ、スピカちゃんがくるみちゃんみたいに初コラボ相手にモンスターを選ばない常識人で……」


「いやぁ……流石にアレと相対したらソッコーで通話抜ける自信しかないっスね……」


「みんな聞いた?これが普通の感性なんだよ私今感動してるよ」


四期生のデビューから一か月近くが経過したが、他の二人とは違って今までスピカちゃんは他の人とのコラボは一切行っていなかった。


その理由を訊いてみると、「まだあまり素性を知らない新人とのコラボで先輩たちに気を遣わせるかもしれないと思うと心苦しいので、ある程度ソロ配信で自分のことを知ってもらってからがいい」とのこと。

なんだこの子めちゃくちゃいい子。君ほんとにミラライブ?常識人すぎない?


【コメント】

:正直初コラボ相手がサキちゃんだと未知数すぎる

:コミュ障すぎてコラボできなかっただけ定期

:まぁかなり正解寄りの人選

:ナチュラルに先輩をアレ呼ばわりしてるの草

:扱い方心得てるなぁ


「さてさて、お絵描き雑談というわけで二人で一枚の紙に書いていくわけなんですが」


「そういえばサキ先輩、液タブなんて持ってたんスか?あんまり絵描いてるようなイメージないんスけど」


「ああ、スピカちゃんとこのコラボやるって決まった次の日にマネちゃんから送られてきたの。もうあの人の行動に関しては気にしたら負けだと思うことにしてるんだ」


半ば現実逃避しながらそうこぼす。

ほしい、やりたい、面白そう、そう思っただけで家に届くのだからまぁ普通に考えて恐怖でしかない。今使っている新衣装だって私が「これいいな」とイメージしていたその通りだったし。


「そ、そっスか……ところで先輩は絵得意っスか?結構なんでもできるイメージなんスけど……」


「うーん、正直あんまり描く機会ないからなぁ……。あんま得意とは言えないかな。なんならちゃんとお絵描きするのなんて中学生の時以来かも?」


「あー、とか言いながらあたしより上手いパターンのやつだこれ、見たことある」


「ひどい言われようだなぁ……」


【コメント】

:い つ も の

:思い起こされるカラオケやらFPSやら

:なんだ、いつものか

:今回は何をして泣かせるのか

:苦手→得意 普通→プロ級


「なんかコメント欄に私の味方が一人もいない気がする」


ま、まぁこれはスピカちゃんの人徳ということにしておこう。私悪くない。


ちなみにそんな雑談をしながらも二人の手はどんどん進んでいく。

特に何を描くと決めているわけではなく落書きしながら雑談する目的なので、私は適当にデフォルメしたミラライブメンバーの絵を。

それに反してスピカちゃんは流石というか、細かく線を重ねて可愛らしい一期生のイラストを描いている。ていうかめちゃくちゃ上手い。そういえば初配信の自己紹介でも得意って書かれてたな。


「スピカちゃんって普段から絵描いてたりするの?」


「元々ミラライブに入る前はイラストレーターやってましたし、なんならこの自分の身体も実は自分で描いて自分でLive2Dで動かせるようにしてるんスよ」


「え、何それ初耳なんだけどすごすぎない!?」


「最初に会社の方からもらった身体が陽すぎて自分の性格にどうしても合わない気がして、自分で描いたイラストを提案して変更してもらったんスよ。マネージャーさんもびっくりしてました」


そう言いながら得意げに笑うスピカちゃん。

サラっと言っているが、普通にとんでもないことだ。

ていうかクソ陰キャなんじゃなかったっけ。


「あんまコミュニケーション得意じゃないんじゃなかったっけ?よくそんなこと言えたね」


「陰キャはそうっスけど、全く喋れないタイプのコミュ障じゃなくて、喋れはするけど後で一人反省会しまくる方なんスよ。だから勢いで色々言った後で後悔しまくって胃潰瘍になりかけましたアハハ」


「全然笑いごとじゃないけどね!?」


とはいえ私も元クソ陰キャ。反省会以前にそもそも人とのコミュニケーション自体を拒むタイプだったが、それでもスピカちゃんの気持ちは結構わかる。


【コメント】

:なんか刺さるな

:スピカちゃん……(泣)

:すんごい共感できるなぁ

:痛い痛い痛い


なんて言ってる間にスピカちゃんの絵は完成に近づき、今はメグ先輩の眼を塗っている最中のようだ。

サッと描いているように見えて、瞳孔、虹彩、反射光などが緻密に描かれているのが素人目に見てもよくわかる。


初配信の時にはPONでコミュ障のいじられ枠という印象だったが、案外すごい子なのかもしれない。

何より危ない香りが全くしない。これ一番大事。ほんとに。


そんなことを考えながら3頭身くらいにデフォルメしたアリシア先輩に踏まれるくるみちゃんを描く。本人には言えないが、イメージにぴったりだ。

他にもお化けを脅しつけるアリス先輩とモモカちゃん、金に目がくらんでメグ先輩に粛清されるユウカ先輩などのイラストを並べている。


「プフッ……サキ先輩のその絵可愛くて好きです」


「いやぁ、スピカちゃんのイラストの方がすごいよ!流石はイラストレーターやってただけのことはあるね」


早くも完成したスピカちゃんのイラストは、3人仲良くピースしている一期生の姿を描いたもの。めちゃくちゃ細かい描きこみというほどではないにしろ、その構図、表情、色彩などから彼女の技術がひしひしと伝わってくる。

ていうかその周りでわちゃわちゃしている私のイラストが邪魔に思えてくるほどだ。


「いやぁ、それにしてもラフとか線画とか、見てるだけでもイラスト描く参考になった気がするよ。もしよかったらまたお絵描き雑談誘ってよ!」


「あっ…………参考になったっスか……じゃあもう二度とサキ先輩は誘えないっスね……」


「ななななんで!?!?」


「だって!!そんなこと言ってるサキ先輩なんて絶対次の機会があったらプロ並みの技術身に着けてくるに決まってますもん!!!惨めな思いするのは嫌っスよ!!」


「ええええ!?流石に無理だって……いくらなんでもスピカちゃん以上なんて無理にきまってるじゃん!!ていうかまた上手な絵の描き方とか教えてほしいし!!」


しかし残念ながらコメント欄を見ても「スピカちゃん英断」「それでいい」などのコメントが並んでおり、みんなスピカちゃんの味方のようだ。

ていうか最近の私のリスナー、ほんとに私がなんでもできる化け物か何かだと思っている節がある気がする。そんなことないのに。多分。


「まぁ、お絵描きはともかくとしてこんなに話しやすくてまともな先輩ってあんまいないんで、もしよかったらまた別の形でコラボしましょう。別の形で」


「あくまで別のコラボを強調するのね!?ていうかサラっと他の先輩方ディスるのすごいね……」


【コメント】

アリシア・デ・ラスフォード🔧:今度妾ともコラボしような

夢冥アリス🔧:コラボのお誘い楽しみにしてるね

田所鈴子🔧:これは調教のしがいがある


あぁもう、噂なんてするからミラライブの変人筆頭の人たちがコメント欄に現れた。

その後はまぁまさか配信を見ていると思っていなかったのかスピカちゃんが急に焦って先輩たちにフォローを入れるわ私が試しにちゃんとした手順を踏んで絵を描こうとしたら全力で止められるわで、めちゃくちゃながらも楽しい配信となったのだった。


『《狐舞サキ/泉水スピカ》サキ先輩とまったりお絵描き雑談!《ミラライブ三期生/ミラライブ四期生》』

0分前に配信済み



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



配信後、試しに本気でイラストを描いてみた。

スピカちゃんが一期生のを描いていたのと同じように、私たち三期生の集合イラストを。


スピカちゃんがやってたような手順で描いて、普段シイッターで流れてくるようなイラストも参考にしつつ。

気づいたら2時間近く経過していた。久し振りに一人で黙々と作業をすると案外楽しくて時間を忘れてしまう。

そして完成したイラストを改めて見て……。


「……うん。これは上げるのやめとこ」


そっと保存だけして電源を落とし、明日の授業に向けて眠りに落ちるのだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



アトガキ


あまりに下手すぎて上げられないと思ったのか、それともあまりに上手すぎてスピカが唖然とするような出来だったのか。

もしくはその両方かもしれませんね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る