晩酌?配信

「これだけの料理が30分やそこらで出てくるのがほんとに信じられないんだけど」


「先輩に食べていただくものなのでね、頑張らせていただきましたよ!」


「サキちゃんお疲れやで!!ほら飲め飲め!!」


そう言ってユウカ先輩が差し出しているのは9だ。

まぁ、前ウウカ先輩にもらったのは十数%だったし、これくらいならゆっくり飲めば大丈夫だろう。


「じゃあいただきまーす!!ゴクッゴクッ……ぷはぁ!!なんかこれ、すっごい身体に沁みる感じがしますね!


日頃の配信や課題などによる疲れからだろうか、飲んだそばから身体に吸収されていく感じがする。

ハンバーグを一口食べて、お酒で流し込む。

最高に美味しい。幸せすぎる。


「美味しそうにご飯食べてお酒飲んでるサキちゃん可愛すぎる抱きしめたい」


「それな?ていうか可愛いといえば、前の配信でイナと話してた時のサキちゃんほんまにヤバくなかった??」


「あれはユウカがダメな飲ませ方したからでしょ!?全く……ユウカは最高の同期だよ」


「イナ、お主もワルよのう……」


何故かニヤニヤしている先輩たち。

なにか不穏な気配を感じる。


それはそれとしてお酒が美味しい。

もう缶が一本空になってしまった。


「そういやサキちゃん、お店ではあんま飲んでなかったのはなんでなん?セーブしてた?」


「えー?だって、お店で酔っぱらって先輩らに迷惑かけられへんやん?じゃけぇあんま飲みすぎたらあかんかなぁ?って思ってぇ」


「サキちゃんサキちゃんユウカの関西弁に引っ張られるどころか広島あたりまで行っちゃってるよ」


「早速ええ感じに出来上がってきたなぁ。案外お酒弱いんかな?うわ、いつの間にか一本開けとるやん」


「もう目が虚ろになってきてるよ……流石にペース早すぎるんじゃないかって心配なんだけど……」


「もう!イナ先輩優しいんだからぁ!!もう一本もらっていいれすか?」


「おうおう飲め飲め!」


そう言ってもう一本同じお酒を差し出してくるユウカ先輩。

だがそれはイナ先輩によって制止される。


「ユウカ、これ以上は本当にまずいって。サキちゃん帰れなくなっちゃうよ」


「イナ先輩は優しいにゃぁ……ぅん……」


「膝!!自分から膝枕されに来るサキちゃんだって!?!?ユウカ!!写真!!写真撮って!!」


【コメント】

:サキちゃんしっかり酔っぱらってて草

:先輩と一緒だと気が抜けるんかな

:可愛すぎるんだがおい

:その写真くれ(血涙)

:FA待ってます

:優しい先輩像一瞬でどっか行ってて草なの


「てか、帰るつもりないし……今日はイナママの家に泊まるつもりだもーんっ」


【コメント】

サキママ@ASMR系VTuber:そんなに酔っぱらってたら帰ってくる方が危ないからそのまま泊まっていきなさい。あとうちの娘のだらしない顔キボンヌ


「サキちゃんのママおもろいなぁ!?また今度話してみたいわぁ」


ユウカ先輩が大笑いしながらそんなことを言う。この前のミラライブの麻雀大会でお母さんの怖さはみんなが知ったはずなのに……。


「お、サキちゃん酔い覚めてきた?まだ配信中だからねー??」


「んゅ……ねむい……おやしゅみ……」


やはり疲れが溜まっていたようだ。

先輩たちの温かい空気感の安心感もあってか、彼女たちの声から次第に意識が遠ざかっていく――――――――。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「え、ほんまに寝てもうた?」


「まぁ、サキちゃん大学生と配信者の二足のわらじやってるみたいだし仕方ないよ、むしろよくこんな時間まで付き合ってくれたって感じじゃない?」


二人がPCの時計を見てみるともうすぐ日付が変わろうかというところ。

イナの膝の上で静かに寝息を立てているサキは、配信のある日でも基本的にはこの時間にはもう枠を閉じてベッドに入っているくらいの時間だ。


「しかも私たちに喜んでもらおうってすっごい頑張って料理作ってくれてさ、ほんとに偉いよこの子は」


そう言いながら膝の上のサキのほっぺをムニムニする。それに反応してかサキは少し嫌がるように、でも気持ちよさそうに口角を上げる。


「こんなに無防備で可愛いもんなぁ……。イタズラしよ思た自分がアホらしなってくるわ」


「ユウカの良心に訴えかけるなんてよっぽどだねぇ」


「なんやそれ、まるでウチが思いやりのカケラもないみたいな言い方やん」


「あるの?」


「優しくした方がおもろいって思った時にはある」


「それは『ない』って言うんだよ」


そんな風にのんびりと雑談しながらも、イナの膝の上のサキを気遣う二人。そしてそれは、配信画面上に映っているユウカとイナの姿からも、二人の声色からもリスナーに伝わっていた。


そんなまったりした空気の中、この日の雑談配信は幕を閉じるのであった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「……ん……あれ……?」


「お、ようやくお目覚めか」


「おはよう、サキちゃん」


目を覚ますと、目の前に見えたのは視界いっぱいのイナ先輩の顔。控えめに言って最高の目覚めだ。

記憶はおぼろげだが、どうやら酔っぱらってイナ先輩の膝の上で寝てしまったようだ。


……と、そこまで考えてやっと脳が仕事を始める。


「あ、うわっ!?し、失礼しました!!配信中に先輩の膝の上で寝るなんてそんな失礼を!ど、どうか、なんでもするので許し……」


状況を理解して飛び起き、慌てて頭を下げる私の言葉を聞いて、一瞬困惑していた先輩たちの目が輝きだす。


あ。


言葉選び間違えた。


「ほう」


「なんでもするとな」


二人がにじり寄ってくる。


「あ、その、言葉の綾で……」


「じゃあ、色々してもらおっか」「色々させてもらおか」


「ひ、ちょま、う、うわあああああああああああああああ!?!?!?!」



その後数時間にわたって先輩二人に色々されたのだが、流石に配信でも言えないようなことばかりだったので割愛しようと思う。

ただ一つ言えることは、もう二度とこの二人の前では酔い潰れないということだ。


……あ、飲みはするよ?美味しいし。

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