初めての晩酌配信

『《宇天イナ/金宝ユウカ/狐舞サキ》サキちゃんにお酒を飲ませまくろう《ミラライブ一期生/ミラライブ三期生》』


「タイトル終わってないですか?」


「リスナーが求めているものを提供するのがエンターテイナーというものだよサキちゃん」


「そのために後輩にアルハラするのは先輩としてはダメでは???」



どうしてこうなった。


というのもことの発端は数時間前に遡るのだが。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「ふぅ~、食った食った~」


「ご馳走様、早紀ちゃん」


「え、えげつな……」


最後のは伝票を見た私の言葉である。


遠慮なく高いものを食べるユウカ先輩。

どうせならと吹っ切れて同じように好きに食べる私。

そしてそんな私を見て最初は遠慮がちだったイナ先輩も。


その結果が手元にあるこの伝票である。

もう気にしたら負けと考え、さっさとアプリで決済を済ませてしまう。


「ほんとに大丈夫だった?なんなら私も出すよ?」


「ああ、この前の誕生日のとか普段のとかで結構稼げたんで大丈夫です。ちょっと数字にびっくりしただけで……」


「てかこの後どないする?」


「うーん、せっかく集まったんだし配信もしたいよね」


「あ、確かに!でも機材とか持ってきてないから一回帰らなきゃだ……」


「大丈夫大丈夫、私の家この近くだからもし二人がよかったら来ない?」


「おー、結菜の家やったら割と広いし何でもあるし決定でええんちゃう?」


「でもご家族とか大丈夫なんですか?」


「ああ、私は一人暮らしだからね~。ユウカも一人暮らしだけどちょっとここから遠いし私の家でいい?」


そんなこんなでノリでオフコラボが決定したため、さっさとお店を出て結菜先輩の家に向かう。ていうか家近いって言ってたのに道に迷うって、もしかしてこの人方向音痴なのだろうか。


「あ、どうせなら晩酌配信にしよっか。近くにスーパーあるしお酒とおつまみでも買っていく?」


「おお、ええやん。ていうかウチ、サキちゃんの手料理食べてみたいんよなぁ。この前のバレンタイン配信で作ってたケーキもらったけど、店のやつかと思うぐらい美味かったんよ。どうせお菓子だけやなくて料理もできるんやろ~?」


「材料さえあれば割となんでも作れますけど、何がいいですか?」


以前のバレンタイン配信で作ったケーキと同じものを作ってミラライブのメンバー全員に配った、なんてこともそう言えばあった。直接受け取りに来れるメンバーには直接、予定が合わないメンバーにはマネージャーさんやちょうど用事のある人に届けに行ってもらったのだった。


ケーキの時は梨沙にも渡すということで気合を入れて作ったわけだが、別に特段料理が得意というわけではない。まぁ、それでもレシピと材料さえあれば大抵のものは作れると思う。


「うーん……じゃあ私の方でメニューは決めますね。二人ともまだお腹には入りますか?」


「全然余裕だよ~」


「早紀ちゃんの料理やったらいくらでも食べれる気がするわ」


「わかりました。じゃあお二人はお酒選ぶのお願いしてもいいですか?間違ってもアホみたいに度数高いのとかはやめてくださいね???ね???」


流石に結菜先輩がいるからそんな暴挙には出ないとは思うが、一応圧をかけておく。

優香先輩がドキッとしているように見えたのは気のせいだろう。


一旦二人と別れた私はかごの中にどんどん食材を入れていく。どうせならある程度手の込んだ料理なんかを披露してみたい。それで尚且つお酒に合うようなもの……。


「うーん……」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「お待たせしました~」


そう言ってスーパーを出る。二人はもう会計を終えたようで、店の外で私を待ってくれていた。

二人がそれぞれ持っているレジ袋には外から見るだけで結構な量のお酒が。この二人ももしかして酒豪なのかな?


「結構遅かったな?もしかして迷った?」


「いやいや、どうせなら頑張って美味しいもの作りたいなぁって思ってスパイスとか探してたらちょっと時間かかっちゃいまして」


「予想以上に本格的な料理を作ってくれそうで期待が止まらん。さぁ行こう急いで行こう!!」


そう言って私たちの背中を押す結菜先輩に案内されるがままに結菜先輩の自宅に向かうのだった。



……てな感じで冒頭に戻るのである。


「それでサキちゃん、何を作ってくれるんだい?」


「ふふ~ん、それは出来てからのお楽しみってやつですよ!てなわけでキッチンお借りしますね~」


そう言った私はマイクから離れてイナ先輩の家のキッチンに向かう。調理器具や調味料なんかも揃っていて、普段からしっかり料理をしているのが見て取れる。こりゃ猶更ハンパな料理は出せないな。


「予想はしてたけど、やっぱサキちゃんの手際鮮やかやなぁ。あとエプロン姿のサキちゃん良すぎる。嫁にほしい」


「うん、包丁捌きもそうだけど、なんでそんなにマルチタスクができるのか分からないよ。みんなに伝わるように言うとね、多分今フライパンで何かのソースを三種類作りながら俎板まないたで野菜を切ってるんだけど物凄い速度なんだよねぇ……。もしかしてサキちゃんの本職ってシェフ?」


【コメント】

:サキちゃんの手料理だって!?

:まぁサキちゃんだし

:むしろ足で包丁握ってないことに驚き

:手刀で具材切るもんだと思ってた

:サキちゃんなら手から赤外線出して加熱してそう


「サキちゃん普段の配信で何やってんの?リスナーからのイメージが完全にバケモンなんやけど」


「特に何もしてませんよ!!なんなら料理の披露自体はバレンタイン以来ですよ!?」


「なんか手から赤外線を出すとか手刀で具材を切るとか言われてるんだけど、サキちゃんそんなこともできるの?」


「私のこと何だと思ってます!?見てましたよね!?ちゃんと包丁使ってますよ!!」


そう言いながらも手は動かしている。

とりあえず簡単なものが一品完成したので二人のところに持っていく。


「はい、鯛のカルパッチョです!自作のソースを二種類用意したのでお好みの方でどうぞ!」


とりあえず他のが完成するまで何もないのもどうかと思い、サクッと作れるカルパッチョだけ先に。


「うっわ美味そ!?ちょ、これ写真撮って配信に載せよ」


「なんでこの短時間で他の料理の片手間で!?」


興奮した様子で写真を撮ったユウカ先輩が画面に映した画像には、花のように並べられた鯛の刺身がレタスの上に乗っているカルパッチョ。その上には軽い味付けが施された千切りの玉ねぎとパプリカの和え物。

ちなみにソースはバジルをベースにした西洋風のものと青じそをベースにした和風のもの二種類だ。結構こってりとした焼肉を食べた後なので、かなりさっぱりめの味付けにしてある。


「これ普通にレストランで出てくるレベルのものじゃない?」


「このソース最高に合うわ。さっぱりするし酒にも合うしで最高や」


どうやら気に入ってくれたようだ。美味しいものを作ろうと頑張りはしたが、ここまで自分の作ったものを絶賛されると照れてしまう。


そんな風に笑みをこぼしながらも手は動かし続ける。

私だってなくなる前に食べたいし。


割と集中して調理しているためあまり喋れてはいないが、先輩二人がずっと喋ってくれているので配信の間は繋がっているようだ。流石はミラライブの大先輩たち。ご飯を食べて酒を飲みながらでも軽快なトークは私まで笑ってしまいそうになる。


ミートソースとクリームソースが完成したので、耐熱容器に具材を放り込んでレンジに入れる。何気にオーブン機能まで付いている優れものだ。流石はイナ先輩。


そして加熱を待っている間にもう一品。こっちは少し難しいだけで時間はそこまでかからないのですぐに完成する。


「は~い、できましたよ~」


「おぉ~、今度は何作ってくれたん?」


「ふふん、結構上手くできたのでもしよかったら動画でどうぞ」


そう言って私が運ぶ皿の上に乗っているのは、デミグラスソースの真ん中に佇むハンバーグ、そしてその上のきれいなラグビーボール形のオムレツ。


「ま、まさか……」


「じゃあいきますよ~?」


やり方なんかは知っているが、何気に作るのは初めての


私が包丁でオムレツを切り裂くと、その中からはトロトロの卵液があふれ出してくる。


「サキ特製、デミオムハンバーグで~す」


「「誰もここまでガチのを作れとは言ってないんだけど(やけど)!?!?」」


ちなみにハンバーグは冷凍の大きなものに一工夫加えただけのものだったりするが、ソースとオムレツはちゃんと自作だ。流石にタネを作って捏ねて焼くとなると時間がかかりすぎる。


【コメント】

;ねぇお腹空くって

:飯テロやめい

:やっぱ料理できないわけがないんだよな

:いいなぁ


「うっっっまぁ……何これこんなん店でも食べたことないって……」


「もうサキちゃん私の専属料理人になって」


「私も味見してみようかな」


ハンバーグを一口食べてみる。デミグラスハンバーグが美味しいのは当然だが、卵が絡むことによってよりまろやかな味わいになっている。自分で作っておいて何だが、これは店で出せるレベルの出来だ。


「しかもちゃんと酒に合うように濃い目の味付けになってるしな。やばい、サキちゃんの料理食べてたら普段の食生活に戻れへんかもしれん」


「そこまで!?」



……と、そのままお酒を飲みながら色々話していたらレンジが止まったので入れておいたものを取り出しに向かう。


「はい、三品目はラザニアで~す!レシピ調べてみたら案外時間かからないっぽかったので作ってみちゃいましたぁ」


そう言って、ミトンで耐熱容器をつかんで二人の元に持っていく。チーズも適度にとろとろに溶けていていい匂いがしている。


「「だからなんでそんなに手の込んだものを!?!?」」


別にそこまでの手間じゃないんだけどなぁ。

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