先輩に焼肉を奢らされるだけの会
ことの始まりはユウカ先輩から届いた一件のDMだ。
『なぁなぁ、いつ空いてる?焼肉行こうや』
あまりにも唐突なお誘いである。
そういえば今日の配信でやることも特に決めていないし、シイッターで告知してるわけでもないのでアリかもしれない。
それに、最近は友達とも焼肉は行ってないから久し振りに食べたい気持ちもある。
『めっちゃ行きたいです!ちょうど今日暇なんですけどユウカ先輩はどうですか?』
『ほな決まりやな、6時ぐらいにここ集合で』
即返信が来たユウカ先輩からのメッセージに添付されていた画像に示されているのはとある焼肉屋。私は行ったことがないのだが、既に店を決めてあったということは常連だったりするのだろうか。
『了解です』
そう返し、予定の時間までに課題や返信などのやらなければならないことをさくっと終わらせてPCをシャットダウン。
今から準備したらちょうどいい時間だろう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ここ……かな?」
ちょっとおめかしして着替えて家を出た私。ちゃんと予定通り集合時間の10分前に到着した。いかにもといった看板に、漂ってくる焼肉の匂い。これだけでもうお腹がすいてくる。
ちなみに今日のファッションは珍しく白を基調にしたものだったりする。ファッションのことはよく分からんので結局モノトーンのシンプルなものにはなっているが。
「おっ、早紀ちゃん早いなぁ!ちゃんと時間守れるタイプで安心したでぇ」
「優香先輩は遅刻してますけどね」
スマホの時計を見てみると現在時刻は18:05。まぁ、私は別に気にしないからいいのだが。
「いやぁごめんごめん、連れの子が迷子になってしもて」
「連れ?」
「やほ、早紀ちゃん久し振り~!」
「わっ、結菜先輩!?お久しぶりです!!」
手を振りながら近づいてきたのはミラライブ随一の苦労人こと宇天イナ先輩。本名を安藤結菜さんだ。何気に以前たまたまコンビニで会って以来だ。
私からも駆け寄ってハグ。美人とのハグは健康に良いものだ。
「それにしても早紀ちゃん、今日は特段と可愛いねぇ」
「それな?普段見てるの黒いのばっかやから白いの新鮮やわぁ」
「ちょ、恥ずかしいですよ……って、ちょっと!ナチュラルに胸を触るんじゃない!!!変なことしてないで早く店入りますよ!!」
往来でなんてことをするんだこの人たちは。
なんなら普通に通行人がこっち見てたぞ。
……なんか似たようなことが高校生の頃にもあったような気がするなぁ。
ふざける先輩たちに嘆息しながら焼肉屋に入る。
店内は結構落ち着いた雰囲気で、優香先輩には似つかわしくないお上品な雰囲気を感じる。
「早紀ちゃん今なんか失礼なこと考えとらんかった?」
「気のせいですよ」
「これ以上ないくらい顔に出てるよ」
てへっ、と笑いながら案内された席に向かう。というかユウカ先輩が予約してくれていたのは個室のようだ。Vである以上、身バレの危険を避けるためにこういう飲食店では個室のあるところを使うことが多いらしい。
まぁ、私含めミラライブ三期生は時々実写配信をしてるしなんなら私なんてVと顔とリアルの顔で大差ないし、何より癖の強い喋り方の優香先輩の声が大きいし。
なんなら時々大学なんかでひそひそと私の話をしている人がいたりする。流石に恥ずかしい。そしてそんな私と時々連んでいる桃花ちゃんも一部の友達にバレているらしい。まぁあの子も私と同じで配信上とリアルであまり性格や喋り方に大差がないから仕方ないと言えば仕方ないのだが。
閑話休題。
「お先にお飲み物からお伺いします」
「ほなウチはレモンサワーで」
「私は生で」
「じゃあ私もレモンサワーで」
それぞれ注文を聞いた店員さんはさっさと個室から出て行った。
その後の料理の注文などはタッチパネルから出来るらしい。便利な時代になったものだ。
「そういえば、なんでこのメンツなんですか?どうせなら恵先輩とか、お酒好きの舞香ちゃんとかは誘ったらよかったのに」
「誘お思てんけどな、恵ちゃんは今日は配信の予定あるらしいしあの肝臓連れてきたら会計えぐいことになるでな。ほら、ここ飲み放題と違うから」
「そうそう。あんまり人数が多いと早紀ちゃんのお財布の負担も心配だしね」
「ま、それは確かに……ん?」
さらっと笑顔でそう言う結菜先輩だが、聞き捨てならないことが聞こえた。流石に聞き逃さんぞ。
「もしかして私が奢ることになってます?」
「え?だって前ウチにマ〇カで負けた時に焼肉奢ってくれるって約束したやん」
「あ」
「流石に全員分だと可哀想だからこの人数に抑えた私の優しさに震えるがいい!あ、私特上ハラミ食べたい」
「ええな。ほなウチはシャトーブリアンいっとこかな」
「人の金だと思って!!!!!!!」
おかしいと思ったんだよ!!ユウカ先輩が唐突に焼肉に誘ってくるなんて!!!
いやまぁ、過去の貯金とかミラライブで稼いだお金とか結構あるから別に奢りになってもそこまで痛くはないんだけどさ。
ていうか奢る約束してたの完全に忘れてた。見え見えの罠じゃんこれ。
「二人して全く……。はぁ、もうどうせなら私も高いの食べるか……」
目の前で二人が美味しそうなお肉を食べてるのを見ながら節約する気になんてなれるわけがない。もう今日は財布がすっからかんになること覚悟でお腹いっぱい食べることを決意するのだった。
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