まさかの遭遇
これは大学でのとある日の出来事。
大学2年生になって新しく取ることになったとある授業での一幕だ。
この授業は少人数で行うもので、呈示された問題についてそれぞれが資料を集めて討論する……といったディスカッションをメインとするものである。
今回はその第一回の授業。
「……ということで、まずはそれぞれの自己紹介から始めましょう」
生徒同士で話す機会が多い授業が故に、まずは自己紹介からと先生が促す。みんながそれぞれ淡々と終わらせていく中で、気になる子が一人。
「私の名前は黒田
そんな自己紹介をしていたのは、いわゆる地雷系の服に身を包んだ可愛い少女。ただ特段浮いているというわけではなく、あくまで大学にいても不自然ではない感じ……な気がする。多分。
あ、次私の番か。
「深山早紀です。私も話すことは結構好きなのでこの授業は結構楽しみだったりします、これからよろしくお願いします~」
そんな感じでそれぞれの生徒の自己紹介が終わり、この授業で次回から行うことの説明や次回に向けての資料の配布と説明なんかだけを行って授業自体は早めに終了した。
そしてその授業後。
「ねぇねぇ深山さん、この後時間ある?」
もうこの後は帰るだけな私がそそくさと教室を出ようとしたときにそんな風に話しかけてきたのは言わずもがな桃花ちゃん。
「今日はこれで授業終わりだから全然大丈夫だけどどうしたの?」
「やった!ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」
「あー……もしよかったらどっかのお店で話さない?」
「いいねいいね、私この近くのいいお店知ってるんだ、そこでいい?」
もちろん、と返事をして二人並んで一緒に歩きだす。そのお店に着くまでは授業の話や単位の話、改めて互いの自己紹介などといった他愛のない話をしていた。
私と同じように結構多趣味らしく、一緒に色々話しながら歩いているうちに結構打ち解けることができた。
「着いた着いた、ここだよ~」
着いたのは、一見素朴な喫茶店といった風貌のお店。お客さんも結構な歳の人が多く、正直桃花ちゃんの雰囲気とはかけ離れた印象のお店だ。
「へぇ、もっとコンカフェとかホスクラとか案内されるかと思ってたから意外~」
「友達とシイッターに上げるための写真を撮るためだったらそういうお店にも行くんだけど、落ち着きたい時なんかはこういう店の方が好きなんだぁ」
そう言いながら桃花ちゃんがお店の扉を開けて中に入る。
木製の扉に取り付けられたベルからカランコロンと軽快な音が鳴り響く。
「お、桃花ちゃんいらっしゃい。今日はお友達も一緒かい?」
「そうなんです!今日できた友達ですんごい気が合うんですよ!」
「へぇ。今度は大事にするんだよ」
そんなマスターの言葉にはどこか含みがあるような感じがした。まるで今までにも桃花ちゃんが友達を連れてきたことがあるような……。
「マスターの言うことは気にしないで早紀ちゃん。ここのスイーツはどれも絶品だよ」
手ごろな席に座った桃花ちゃんがメニューを見せてくる。
THE・老舗の喫茶店みたいな感じのラインナップだ。しかもめちゃくちゃ安いこんな店に来ることはあまりないので結構興味が湧いてくる。
「じゃあ私コーヒーゼリーパフェもらおうかな」
「OK。マスター!コーヒーゼリーパフェとチョコパフェ一つずつくださーい」
「はいよ」
桃花ちゃんが手を挙げて大きな声でマスターに注文する。
そして私の方に向き直ったため本題に入る。
「……さて、話ってのは……」
「先輩……ですよね?」
「だよねぇ。私も思ってた。初配信でしか声聞いたことなかったから確証はなかったんだけど……名前と服装と喋り方でなんとなく……いくらなんでもそのまますぎるもん。身バレとかしてない?」
「実はあの見た目は私が希望したもので。なんなら大学の友達には私がミラライブ受かったこと言っちゃってますしね」
「えぇ……それってどうなの……」
そう。この黒田桃花ちゃんは今回入ってきた四期生の白井モモカちゃんその人なのである。私やマイカちゃん、ユウカ先輩みたいに本名そのままというわけではないが『桃花』の読み方を「とうか」から「ももか」に変えただけ。もう隠す気が微塵も感じられない。ライバーのプライバシーどこだよ。ちなみに苗字に関してはもう気にしないことにする。名は体を表すなんて言うけど気にしたら負けだと思うことにする。
「ていうか先輩だってもうほとんど学校中の人が知ってるんじゃないですか?」
「桃花ちゃん、その先輩ってのやめて。なんなら桃花ちゃんの方が年上なんだし。あと普通にタメ口でいいよ」
「じゃあ……早紀ちゃん?」
「うん。ていうか聞き捨てならないのは私がVやってることが学校中で知られてるってとこなんだけど」
「そりゃそうでしょ。わざと合わせてるのかってぐらいVと同じ服装だし声も唯一無二だし、しかも結構な頻度でバズってるし……この前の誕生日配信の切り抜きなんて……」
「その話はやめて。本当にやめて。見るの怖くて未だに見たことないんだから……」
そう。あの日の配信から数日経つが、自分の切り抜きを見るのが怖くてMeeTube自体開くのを躊躇っているくらいだ。何が悲しくて自分が酔っぱらって絡み酒してるところを見なきゃならんのか。
「普段の配信からめちゃくちゃ可愛いんだけどあれってもしかして演技じゃなくて素なの?」
「そりゃそうだよ……。可愛い演技してる自分なんて想像しただけで羞恥で死んじゃうもん」
「はぇ~……流石は早紀ちゃんだね」
「そういう桃花ちゃんはどうなの?初配信の切り忘れのイメージがすごいんだけど」
私がそう言うと、ずっとニコニコ笑顔だった桃花ちゃんの表情にスッと影が差した。それと同時にお母さんに睨まれた時と同等の寒気が。
「その話はやめよう?あれ以来リスナーさんにめちゃくちゃいじられるんだから……」
「アッハイ」
「もうほんとに最悪……この先どんなキャラでやっていったらいいのか分からないよ……」
確かに「こういうキャラでやっていこう」と決めていたキャラとは違う本性が露呈しまった上にそれが普段から表に出さないような、いや出せないようなものだと今後どういう路線でやっていったらいいのか悩むのも頷けるというものだ。
「……あら?サキちゃん?」
頭を抱える桃花ちゃんに私もどうアドバイスしたものかと考えていると、不意に他のお客さんから声をかけられた。
聞き覚えのある声に驚いてそちらを見やると、そこにいたのはお人形さんのような可愛らしい顔の女の人。
以前会った時はほとんど暗がりの中だったためか改めて見ると雰囲気がかなり違う。まるで天使のようだ……というのは普段よく見る彼女が天使の装いをしているためであろうか。
「……え、恵先輩!?」
そう、ミラライブ一期生の天使メグこと城ケ崎恵がそこに立っていた。
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