…過労。

ある日のことだ。



「つまりね、なんで私が初めてのゲームでもそこそこできるかと言うと…」



いつものように配信をしていた。段ボールに寄せられた質問に返したり、思いついた話題で適当に雑談したり…。まあ、普段どおりの配信だ。



「私は昔…。――――――――」



【コメント】

:ん?

:どした?

:マイクの不具合?

:聞こえんなった

:大丈夫?



「え―――――」



ドグシャアッッ!!



【コメント】

:え

:は

:何の音

:大丈夫?

:え、倒れた?

:サキちゃんママー!!

:やばくね

:なんも聞こえん

:動かんし



数秒して、自分の頬がキーボードに当たっていることに気がついた。


おかしい。


身体に力が入らない。声も出ない。


配信中なのに。早く起き上がって次の話を―――。


薄れゆく意識の中、お母さんが階段を駆け上がる音が聞こえた。



ああ、もう。


恥ずかしいから配信見ないでっていつも言ってるのに…。



心の中でそうツッコんだのを最後に、私の意識は深い闇の中に落ちていった―――。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「―――ん…あ、知らない天井だ」

「ボケとる場合か」


目を覚ました私の視界に飛び込んできたのは、見覚えのない白い天井。ベッドに寝かせられているらしい私の左右には天井と同じく真っ白のカーテンがかかっている。


「…で?何か弁明は?」

「弁明…?梨沙、何を言って…」


首を傾けることもなく、恐らく私が寝ているベッドの横に座っているであろう僅かに震えてはいるが聞き慣れた声の主に対して素直な疑問をぶつける。

しかし、その言葉はいきなり私の胸ぐらを掴んできた親友の言葉によって遮られることとなる。


「だから!私に何の相談もなく疲労溜めて配信中に倒れて病院に搬送されて!!前に『親友なんだからちゃんと相談して私にもちゃんと迷惑かけて』って言った私に対する弁明はないのかって言ってるの!!!お医者さん言ってたよ!?溜まってる疲労が尋常じゃないし睡眠時間も足りてない、倒れただけで済んだのが奇跡なぐらいだって!!」


途方も無い怒りと悲しみがごちゃまぜになったような梨沙の表情。至近距離で怒鳴っている、涙でぐちゃぐちゃになった親友の顔に目眩がするほどの罪悪感を覚えた。


「…。…ごめ」

「ごめんが聞きたいわけじゃないんだよ!!なんで、私に相談してくれなかったのか!なんで全部一人で抱え込んで自分を犠牲にしたのかを訊いてるの!せめて何か、納得できる理由を教えてよっ……」

「…」


それだけ言うと、梨沙は泣き顔を隠すように私の胸に顔をうずめてしまった。


正直言って、何も言葉が出てこなかった。

疲労がかなり溜まっていたのは事実だし、睡眠時間が足りないのも自覚していた。思考が鈍り、ミスも増えていた…ような気がする。


心のどこかで、いつかこうなることはわかっていたような気がする。ただ、まだ大丈夫と高をくくり続けてきただけで―――。


「…ほんとに、ごめんとしか言えないよ…。まだ大丈夫、まだいけるって思ってた…」

「…私は、早紀にとっての何なの…?もっと私を頼るって言ってくれたあの言葉は嘘だったの…?私は、早紀にこんなふうになってほしくて高畑さん達に協力したわけじゃないのに…」

「梨沙…」


…なるほど。元々ミラライブと私を引き合わせたのは梨沙だ。それが原因で私が過労で倒れたものだから、その罪悪感を感じて…。


「もう、いいよ…。無理しないで…。早紀がそんなに無理して頑張らなくても誰も責めないよ…」

「うーん…そんなに無理してるわけでもないんだけど…」

「…。じゃあ倒れた日のタイムスケジュール言ってみて」

「5時に起きて昨日の動画の反応とか切り抜きとかのチェック、学校行って5時に帰宅して6時に課題終了、ご飯食べてお風呂入って9時から2時ぐらいまで配信…」

「配信長すぎるんだよっ!!」

「ふべっ!?」


梨沙の質問に正直に答えただけなのに鳩尾に頭突きくらった。理不尽が過ぎる。


「一応私病人なんじゃないの…?」

「病気なのは早紀の脳みそだからお腹は大丈夫」

「そういう意味じゃねえっ!!」


「すみません、病室ではもう少しお静かに…」

「あ、すみません…」


ギャーギャー騒いでいる私と梨沙の声を聞きつけて駆けつけてきた看護師のお姉さんに注意されてしまった。


…。


なんかデジャブが。


いや、流石に病院に強盗は…


「おい早紀テメェ…」

「あっ…」


看護師のお姉さんの後ろから聞こえる声で全てを察した。


というより、範馬勇次◯をゆうに超える密度の殺気(当社比)で。

それはマジで周りの空気が歪むほど。


あ、看護師のお姉さんがビビって倒れた。

梨沙が介抱してる…んじゃないな、私とお母さんを結ぶ直線上にいたくないだけだ、殺気の余波だけで軽く死ねるから。


「さて…。お説教の時間だ…」

「うおぉぉぉ!?お説教なら殺気いらないよね!?指ポキポキもいらないよね!?病人相手にお説教カッコ物理なんてことはしないよね?!」



…この後めちゃくちゃ説教された。


コワカッタ。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



はい、久しぶりの配信以外のお話です。

お母さんが範馬◯次郎なのはもう固定です()


早紀と梨沙がお互いのことを大事に思ってる感じでてぇてぇしていただければ嬉しいです。しかし百合展開は決して来ぬ、だって梨沙には彼氏がいるもの。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る