新システムとは
ある日、私はミラライブの本社に呼び出されていた。
なんでも、先日行われたメグ先輩とのクイズコラボの賞品の準備ができたそうで。
『バズ必至の新システム』とのことだったが、一体どういうことなのか。
受付で「狐舞サキです」と言うとなんの確認もなく「担当が参りますので先に地下二階でお待ち下さい。こちらのエレベーターからどうぞ」とのこと。
話が通っているからなのか、セキュリティが甘いのか…。
エレベーターに乗り込み、「B2F」と書かれたボタンをポチッ。
動き出したエレベーターはすぐに止まった。
開かれたエレベーターの扉から出ると、そこはまるで学校の体育館のような広い空間だった。
というか、バスケのゴールまである。これ完全に学校の体育館だ。
バスケ部に入っていた高校生時代を思い出し、どこか懐かしい気持ちになってきた。
前に使った人が片付け忘れていたのか私のために準備されていたのか、バスケットボールが一つ転がっている。
「加瀬さんもまだだし……ま、ちょっとくらい遊んでても怒られないでしょ」
ボールを拾い上げ、地面に突いてドリブルを。股下を通し、背後を通し、速度を上げたり落としたり。高校時代に磨いたドリブル技術が衰えていないことを確認して次はシュートを。
軽快なドリブルでゴール下に移動し、普通にレイアップシュート。
お手本通りのフォームで打ったシュートは綺麗にリングに吸い込まれる。まあ、一年くらいのブランクでレイアップを入れられなくなる人がインハイに出られるわけもないが。
次に、3Pラインの外側に立ってシュートを放つ。
「ほっ!」
空中に綺麗な弧を描いて飛んだボールは再びリングに吸い込まれるようにして「シュパッ」という気持ちいい音を奏でてノータッチでゴール。
「へえ……お上手ですね」
「おわっ!?」
いつの間にか来ていた加瀬さんに背後から声をかけられ、びっくりして飛び上がる私。
「あ、すみません勝手に……」
「いえ、サキさんのために用意したものですしね」
そう言って加瀬さんもボールを拾い、3Pラインからシュートを。私のシュートと同じ様に綺麗な弧を描き、ど真ん中にイン。
「えぇ……加瀬さんも上手いじゃないですか…」
「見様見真似でやっただけですよ」
そう軽く笑ってから、加瀬さんは虚空から一つのカメラを取り出した。
…ん?
「こちらが今回の……」
「今、どこから……」
「新しく開発した最新マシーンになります!」
「あ、触れない方向なのね」
世の中には知らない方がいいこともある、という誰かさんの言葉を思い出し、そのカメラの出どころに関しては触れない。
「こちらのスイッチをONにして設置すると……」
加瀬さんがカメラについているボタンを押すと、何やらスキャンされるような感じで部屋に光が走った。
「はい、これ見てください」
そう言って加瀬さんが虚空から取り出したのは一枚の手鏡。
「これは……」
鏡に映っていたのは、私じゃなかった。いや、正確に言うと私なのだが…
「このカメラ、生身の人間にアバターを被せることができるのでーす!!」
「普通にえげつない技術じゃないですかそれ!?」
いつの間にか服装も変わっているし、どうやっているのかは知らないが頭を触ると確かにケモミミの触感が。
「え、耳まで再現ってどうやって……」
「ま、それは企業秘密ってことで」
「めっちゃ気になるやつぅ……」
創作物の中での、ゲームの中でケモミミを生やしたりするならなんとなく原理がわからないでもないが、それを現実でも再現となると完全に理解不能だ。
どうやったらこんな本物っぽい質感を…?
触り心地のいい狐耳をいじる。
「へぇ……耳とかを撫でられる小動物ってこんな感覚なんだ……」
しかも、不思議と耳を触られている感覚まであるのだ。爪でカリカリすると身体がフワッとするような快感に包まれる。病みつきになりそうだ。
「えーと、ちなみになんでカメラの形してるのか分かりますか?」
「ほえ?」
自分の狐耳をいじってニヤニヤしながら気の抜けた返事をする。
…。
…え。
「あ、気づきました?今これ配信中です」
「うにゃあああああ!?」
「一応、配信画面では最初からずっとアバター被せてましたし私も映ってないのでご安心を……」
一瞬で顔面が羞恥で真っ赤に染まる私に、加瀬さんが予定通りとでも言わんばかりのニヤニヤを浮かべ、虚空から取り出したパソコンの画面を見せてくる。
【コメント】
:かわええ
:ていうかバスケ上手っ
:シュパって…
:ていうか
:…猫?
:うにゃあって…
:ゴロゴロって擬音が聞こえてくるような…
:狐じゃないのか…
:自分で耳撫でて恍惚の表情て…
:惚れた
:撫でさせて
爆速で流れる色々なコメント。
だが一つだけ言わせてもらおう。
「狐じゃいっ!!!」
ちなみに。
バズった。トレンド入りしたよ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
…やってしまった。
え?何かって?もちろん最後のセリフだよ。
バレたら絶対怒られる。ていうか消される。
でもなぁ!!あの狐が好きなんじゃ!!ホ◯ライブで一番好きなんじゃ!!だから主人公を狐キャラにしたんじゃ!!だから消さないで!(全裸土下座)
そして珍しく連続更新である。褒めろ☆(安定の情緒不安定)
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