第41話 再来の警察署、そしてVR計画

ネクストデイ。


大学に行くために早起きした私と梨沙。私がいないのに家にいられるのもどうかと思うのでみーちゃんとマイカちゃんも揺さぶり起こす。


うん、マイカちゃんの口から微かにアルコール臭が。萎える。


全員で寝ぼけ眼をこすりながら階下に降りると、リビングではお母さんが全員分の朝ごはんを用意してくれていた。控えめに言ってびっくりしたよ、うん。


全員で食卓を囲んで朝ごはんを食べていると、お母さんが唐突にこんなことを言い出した。


「そういえば、早紀宛てに手紙が届いてたわよ」


そう言って、懐から一枚の紙を取り出す。


「手紙?えーっと…『なるはやで亀月署まで来られたし。大学には二人とも休むって連絡しておいたからモーマンタイ 高畑雄作』…」


…ツッコミどころしかないんだけど。


「け、警察署!?なんで…」


マイカちゃんが顔を青くしている。


あ、そういえばマイカちゃんとみーちゃんは知らないんだね。


「この前私が感謝状受け取ったのがこの亀月署で、この高畑さんって人が警視正でそこの署長なんだけどミラライブの社長も兼任してるらしい。ていうかミラライブのほうが本業で警察署長は副業らしいよ」

「「待って、情報量が多い」」


うん、私もそう思うよ。初めて会ったときツッコミきれなかったんもん。


「とりあえず今日はなるはやで社長に会わなきゃいけないみたいだね…ま、ちょうどいっか。昨日のことどうしたらいいか訊きたかったし」


身バレしたからにはやっぱり社長には話しておかなければならないだろう。大丈夫、元々スカウトしてきたのはあっちなんだから警護の一人や二人つけてくれるさ。

ていうかつけてくれなきゃ殴る。これで『お前らの自己責任だから!どんまい☆』とか言われたら殴る。ていうかミラライブの社長と警察署長兼任してることとか拡散して社会的に殺す。自力でフォロワー5万人以上まで増やした女子大生の拡散力舐めんじゃねえ。


「…なんか早紀が悪い顔してる…」

「む、悪い顔とは失敬な。梨沙を守るために高畑さんを社会的に殺す計画を練ってただけなのに」

「何がどうなったらそれが私を守ることに繋がるのかな!?」


高畑社長がなんの目的があって私を呼び出したのかは知らないが、もしかしたら昨日の件かもしれない。どちらにせよ今日中に加瀬さんか高畑社長に言うつもりだったからちょうどいい。


急ぎめで朝ごはんを食べ終え、梨沙たちを置いて家を飛び出した。もう手遅れだとは思うが現在進行形で拡散されている可能性が高い以上、社長の言う通りなるはやで話を通すのが一番だと思ったのだ。


署までダッシュで数十分。めっちゃ疲れた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「すみません、署長いますか?」


我ながらものすごい質問だと思う。だって、警察署に駆け込んで受付のお姉さんに言う一言目がそれだもん。


「えーと…どのようなご用件で…」


ほら、お姉さん困惑してるよ。ていうかこの人、この前の人と違うし。あの勤務態度だったし、どっかに飛ばされたのかな?


「緊急の案件なので急ぎでお願いします。『サキです』と伝えていただければわかると思います」

「ですが、署長はお忙しいのでせめてご用件だけでも…」

「あーもう!だから、それが用件なんですってば!」

「…。…かしこまりました。少々お待ち下さい」


そう言うと、お姉さんは手元の固定電話のボタンをいくつか押して…


「あ、署長。…え?ええ、サキの名乗る方なら今いらっしゃってますが…え、本当ですか?わ、分かりました…」


そう言ってお姉さんはその受話器をこちらに渡してくる。


「あ、もしもし署長?」

「この前の部屋に来なさい」


ぷつっ。


…おう。


「あ、すみません。ありがとうございました」

「いえいえ、こちらこそ疑って申し訳有りません。まさか本当に署長のお知り合いだとは…」


いやまあうん、そりゃ普通は身分証明証も何も無しにいきなり署長に会わせろって言う人がいたら警戒するわな。この前の人に比べたらあんたは立派な仕事してると思うよ、うん。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「…それで、私がここまで呼び出された理由というのは…あのことですか?」


この前と同じ相談室に入った私は、既に室内で待機していた高畑…社長と加瀬さんに開口一番そう尋ねた。


「いや、まずはお礼を言っておこう。一期生の二人の仲直りを実現させてくれてありがとう。それと、見事だったよ。予想以上だ」

「あ、いえいえ…用意してくれたのは社長ですし実行したのもほとんど加瀬さんですしね。私なんてそんな…」

「…そうか。お礼として10万円用意していたのだがそれならこれはこちら我々の方で処理しておくとし…」

「私のお陰ですよねー!どういたしましてー!」

「はっはっは…ああ、それぐらい素直なほうが我々としては好ましいよ」


うん、お金大事。ていうか10万円て。昨日のスパチャと合わせて30万近い収入が…ぐへへへへ


お金の入った封筒をポケットにしまいつつ、加瀬さんと高畑社長の対面に用意された椅子に腰掛ける。


「さて、次は本題なのだが…」

「あー…はい…」

「もちろん、昨日の配信でのことだ。君の友人の…サリーさん?の発言が原因で、君と狐舞サキが同一人物であると広く知れ渡ってしまった。我々もなんとか食い止めようとしたのだが手遅れだった。だからその…テレビでも報道されているくらいだ」


テレビとな!?それはさすがに予想外だったんだけど!?


驚く私に加瀬さんが差し出してきたスマホに映っていたのはあるネットニュースの記事。


『今話題の人気Vtuber狐舞サキと、強盗撃退美人女子大生深山早紀が同一人物!?』


という見出し。


うん…もうなんとなく色々察したよ。


「『説』とかなんとか言ってますが、ほとんどの人は既に同一人物だと確信を持っているようです」

「…ええ」

「そこで、だ」


何かと思って高畑社長の方を見ると、彼は懐から一枚の紙を取り出した。

そこに書かれていたのは…


「『VR計画』?」

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