第39話 記念凸待ち配信! ⑥

だった…んだけど…


「ねえ、勝つ気あるの?」


「多分だけどサキちゃん強いよ?」


「いや、やったことないんだけど?」


「「はいはいワロスワロス」」


「なんで!?」


いや、マジで一回もやったことない。ていうか辛うじてルールと駒の動きが分かる程度なんだけど…


「ではサリー師匠、お願いします…」


「え?なんでサリー?」


「あれ?ああ、サキには言ってなかったけど私、将棋の関東大会で優勝したことあるから」


「初耳なんだけど!?」


…とまあ、始まりましたよイジメにも等しい将棋が。


将棋なぁ…対人戦はマジでやったことないんだよね。将棋の雑誌だったり詰将棋だったりはちょっと触ったことあるけど…

ていうか関東大会優勝って…勝てるわけ無いじゃんか…



「サキ、王手」


「おぉう!?」


「王手」


「ちょ、ま」


「王手」


「ま…ん?ほい」


「むっ」


「王手」


「なっ…」


「王手〜」


「あっ」


「これで…詰みかな?」


「うおおおおおお!!!なんでやねん!!」



…勝てたよ。



「な…ぜ…」


【コメント】

:最初の方明らか初心者だったのに…

:どんどん…

:最後どうやったんだ?

:プロが初心者のフリするタイプのドッキリかなと

:わかる

:絶対強いと思ったもん


「もう…私が強いんじゃないって…サリーがあそこでミスするから…」


「え、嘘、私ミスなんかした?」


「ほら、角で王手かけた次の手で…」


「あ、あ…あああああああああ!!!!!」


…とまあサリーが発狂したところで将棋は終了。


…と、みーちゃんとマイカちゃんの二人が何やらボソボソと相談している…。


「完全運任せのゲームなんてどうにゃ?」


「ならブラックジャックとかは?」


「うーん…勝てるビジョンが見えないにゃ…」


「なら人数差でどうにかゴリ押せるゲームは…」


「二人とも、今配信中だって分かってる?リスナーさんがめちゃくちゃ困惑してるから内緒話やめよう?」


「サキちゃんとサリーちゃんで尺つなげればいいにゃ」


「段ボールでも返してれば?」


「二人ともなんでそんなに冷たいの!?」



とはいえ二人の言うように梨沙と一緒に段ボールを返すぐらいしかやることも思いつかないのでモニターの前に座り直して段ボールと呼ばれる質問募集サイトに寄せられた質問を確認していく。



『サキちゃんとサリーちゃんの馴れ初めを教えて下さい』



「おー、これまたヘビーな質問来たねぇ」


「どんだけ嫌がってもサリーが絡んでくるから仕方なく付き合ってあげてたらいつの間にか毒されてた。以上」


「事実だけどそんな言い方しなくてもいいじゃんか!?」


【コメント】

:予想外

:てっきりサキちゃんに命救われたからかと

:思ってた

:マイカちゃんと同じパターンかと

:誘拐されたサリーちゃんを助け出したとかだと思ってた


「いつの間にかみんなの中で私がヒーロー扱いされてるんだけど?」


「そりゃあそうでしょ…この短期間で犯罪者を二人も…」


「え、ちょそれ…」


「え?…あっ」


【コメント】

:マイカちゃんの件と…?

:二人?

:え、知らない

:何の話だ…

:あ

:もしかして

:あれだな

:だと思った

:『狐舞サキ=深山早紀』説

:思った

:ていうかもう確定では

:あーあ、サリーちゃんやらかしたな


「よし、サリー。ちょっと表出ようか」


「…ごめん…冗談抜きでヤバいことやらかしたかもしんない」


…うん、サリー…いや、梨沙の言う通り。ていうかそもそも前からちょっと疑われてた時点で私も注意が甘かったんだけどさ…。さっきの梨沙の発言で完全に確信持たれたね…。

いや、そっからフォローすることもできたか?まあどちらにせよもう手遅れだ。もう既にコメント欄では深山早紀と狐舞サキの共通点を探す作業が始まっている。今からどうフォローしたところでもう手遅れだろう。


私達…いや、私はVtuberとして一番やってはいけない失敗とされる『身バレ』をやらかしたのだった。


「えーっと…サキちゃんのお友達のみんな。この件に関しては一切他言無用で。もしシイッターなりなんなりでこの話題が出てるの見つけたらあなたが一生後悔するようなことをサキちゃんがするわよ。バレないかもなんて考えないで。サキちゃんならどっかの企業にハッキングかけてでも見つけ出すわよ。…だからお願い。こっちの方で会社と相談するまでの間はみんなの胸に仕舞っておいて」


私と梨沙が意気消沈してると、急にマイカちゃんがマイクに向かってそんなことを言い出した。


「マイカちゃん…」


【コメント】

:一生後悔することとは…

:了解

:おーけー

:まあ、当然だな

:どっかで漏らしたら死にそうだな

:サキちゃんのことだからマジで消しに来そうだしなw

:だって顎に蹴りやぞ?

:ナイフに蹴りやぞ?


「…うん、そんなひどいことしないよ!?…ちょーっと痛い目に遭うとは思うけど…」


うん、私じゃなくて高畑社長が実行しそうだよね。なんなら加瀬さんに拉致られて警察署の地下室で拷問とかされてそう。…ってな意味で言ったんだけど…


「サキちゃん!?これ以上バイオレンスなイメージ増やさない方がいいんじゃないかな!?」



『《狐舞サキ》収益化&チャンネル登録者数10万人記念凸待ち配信!!《記念配信/ミラライブ三期生》』

6.2万人が視聴 0分前に配信済み



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



…とある企業の一室。そこでは怪しげな雰囲気を漂わせる四人が会議用の大きなテーブルを囲んで座っていた。


「…ついに、ですか」


「まあ、やるとしたらあの子だとは思ってましたけどね」


「ええ、そうですね」


「というより、これも計画のうちだったのでは?」


「まあ、ちょうどいい時期でしょう」


「そんなことより例の計画は?」


「概ね順調です。実行の準備は全て整っています」


「…仕方ない。明日、彼女に打診してみよう」


「了解です。では、私の方から…」


「いや、私が呼び出そう。あそこなら誰かの邪魔が入る可能性は低い」


「…ですね。では、その方向で」


「ああ」


男の短い返事を最後に、四人は会議室を後にした…。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る