第24話 惚気話と取材

「そういえば、こうやって梨沙と一緒になにかするのって久しぶりじゃない?」

「…そう?金曜日に一緒に配信したよね?」


隣を歩く梨沙に尋ねると、梨沙は少し首を傾げてからそう答えた。


「あ、確かに…。なら私の土日が濃すぎただけかな…?」


土曜日はコンビニでイナ先輩とエンカウントして、マイカちゃんを襲ってた強姦魔蹴飛ばしてそのままカラオケコラボ…。

日曜日は警察で感謝状もらってメグ先輩とユウカ先輩のこと聞かされて、その後ミタマちゃんと夜中までPABGコラボして…。


「うわっ、私が一日でこなしてるイベント多すぎ…。あ、梨沙は週末ナニシてたの?」

「んんん???確かに彼氏と一緒に遊んでたけど、なんか変なところがカタカナになってる気がするよ??」

「…?カタカナ?ごめん、ちょっとナニ言ってるかわかんない」

「ぐぅ…この違和感はなんだ…」


…?梨沙はどうしてしまったのだろうか。

カタカナ…?何か変な電波でも受信しているのだろうか。


なんてことを考えていると、梨沙が非常に気持ち悪い顔でニヤニヤしながら昨日彼氏としたことなどを語りだした。


…。実は、こうなると梨沙は止まらない。彼氏との待ち合わせからデート終わりのことまで事細かに説明しやがる。

いや、心理学の勉強で学んだことの実験に利用した私も悪いんだけどさ。ここまでラブラブになるとは思わなかったんだもん。


「…それでね、裕也がね…」


ちなみに裕也ってのが梨沙の彼氏の名前。望月裕也。超イケメンだよ。まあ、私は興味ないんだけどね。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「それでね、『もうこんな時間か…。最後にお別れのキスしてもいい?』って裕也が言うのよ!!!」

「ウンソウダネ」

「そして二人は熱い熱いキスを交わし、この日のデートは終了…あ、ここだよ、インタビューの場所」

「きっちり語り尽くしやがったよコイツ…」

「あ、日曜日編は帰りに話すね」

「もう勘弁してください!!」


行き帰りで延々と惚気話を聞かされるこっちの身にもなってみろぉ!

…まあ、梨沙のことだからこっちの気持ち察した上で敢えてやってる線が濃厚なんだけどさぁ…。


「ていうかここって…」


風通しのいいテラス席、店内から漏れてくる煌びやかな照明の光、そして明らかに上流階級と分かる客層…。

そう。私達の目の前にあるのは、加瀬さんに連れて行ってもらって強盗に遭遇したあの高級カフェだったのだ。




「いらっしゃいませ。二名様ですか?」

「あ、いえ。連れがもう来てると思います」

「承知しました。それではごゆっくりどうぞ」


相変わらずオシャレの権化みたいな店内とめちゃくちゃ可愛い制服の店員さん。

この前の件を引きずることもなく、通常営業を再開できているようだ。

客の出入りやらを見る限り、客足が遠のいたということもなさそう。というか、前回も今日も同じく平日なのにむしろお客さんが増えてるような…?


「あ、山本さん!こちらです!」

「はいはーい!」


店内の奥の方の席から、梨沙を呼ぶ声が聞こえてきた。声の方向を見ると、立ち上がって手を頭上で振っている男性が。


私達は、梨沙を呼んだ人の方に向かう。しかし…


なんかこう、すっごい見られてる気がするんだよ。お客さんもそうなんだけど、ほとんどの店員さんが仕事の手を止めてこっちを凝視してるんだよね。


「えっと…隣の方はもしかして…」

「あ、深山早紀といいます。梨沙が有る事無い事吹き込むらしいのでツッコミ兼付き添いで来ました」

「あれ?そんなこと言ったっけ?」

「言ったね。私があたふたしてる姿を見て嘲笑したいんでしょ?」

「そこまでは言ってないけどね!?」


私と梨沙のいつもの掛け合いを見た目の前の男性は軽く笑ってから、


「山本さんには電話でお伝えしましたがわたくし、『Eighteen』の雑誌記者をやってるあずま陽太と申します。いや〜、まさかご本人に来ていただけるとは…」

「『Eighteen』!?」


『Eighteen』とは、年頃の女子なら知らない人はいないであろう大人気雑誌だ。

でも、おかしい…。私は読んだことないけど、あれって確か流行ってるファッションとかオシャレなお店なんかを紹介してる雑誌だったはず…。


「あ、梨沙でいいですよ。苗字で呼ばれるのあんま慣れてないんででででっでで」

「梨沙!!18Eighteenの取材だって知ってたの!?」


隣で薄い愛想笑いを浮かべる梨沙の肩を掴んで激しく揺さぶる。

どう考えても人選ミスでしょ。私なんかをあのファッション雑誌に起用するとか…。この東とかいう人は何を考えてるんだ…?


「み、深山さん!落ち着いてください!落ち着いてこちらを御覧ください」

「む…?」


そう言って東さんが差し出してきたのは数枚のプリント。


そのうちいくつかはシイートのスクショ、最後の一枚はネットニュースの一部だった。


「えーっと…なになに…?」


『XXXX  警察で表彰されてた早紀って人めっちゃ可愛い!ファッションだけでもマネしよーっと!』


『XXXXX  黒のパーカーめっちゃ可愛い!対比で顔が白く見えるしオススメ!』


『XXXXX  なんか、最近町中で黒いパーカー着てる女子よく見かけるようになったな…。例の早紀効果ってやつか?』


『黒のパーカーが都内で人気沸騰中!?都内各店舗で売り切れ続出!!』


…。…ブラックジョークが過ぎるぜ。黒のパーカーだけにな。


「早紀、今とてつもなくしょうもないこと考えてたでしょ」

「気のせい」

「ぜったi」

「気のせい」

「はい」


…で。


「ご覧の通り、例の件で早紀さんの着ていたような黒いパーカーに爆発的な人気が出まして…。今回は、そのことについて少しと、後で場所を変えて少し撮影させていただけたらと…」

「ちょっと待って下さい」

「はい?」


一応、理解はした。なんでかは知らんが、私が昨日着てたパーカーに人気が出たんだろう。なんでかは知らんが。今回はそのインタビュー。だが、それなら…


「なんで梨沙にオファーを?おかしいですよね?」


私のファッションに用があるなら、始めから私に連絡してくればいい。なんでわざわざ梨沙に?

私がそう尋ねると、東さんは「鋭いですね」と軽く笑ってから、


「その…あまり大きな声では言えないんですけどね。上から…というかアッチ方面から圧力がかかってまして…。『深山早紀にインタビューのオファーをしてみろ。会社がどうなっても知らんぞ』と…」


ああ、署長ミラライブのしゃちょうか。ていうかもう完全にヤのつく職業の人の脅し方じゃん。顔もあんなんだし。


そう考えた瞬間、昔梨沙にいたずらで背中に氷を大量に突っ込まれたときと同じくらいの寒気がした。おばあちゃんが言ってたけどこういうときには『くわばらくわばら』って言ってたらいいらしい。くわばらー。


「それで、早紀さんと梨沙さんが非常に仲良しだという情報を入手しまして…」

「なるほど。餌にまんまと引っかかってしまったと」

「餌言うなし」


隣で梨沙がしょんぼりしている。抱き寄せて撫でる。笑った。可愛い。


「…とはいえ、実際会ってみたら梨沙さんもかなりの美人だったのでね。もしよろしければお二人とも撮影してよろしいですか?」

「もちろんっ!!」


梨沙がテーブルに『バンッ!!』と手をついて即答する。


「あ、でも」

「なんでしょう?」

「その代わりと言っちゃなんですが、ここのケーキ奢ってもらっていいですか?前来た時は結局食べられなかったんで味めっちゃ気になるんですけど…」

「あ、もちろんいいですよ。どうせ経費で落ちるので私も高いケーキ食べる予定でしたし」


おい、お前もかい。


ていうか経費って言葉便利だね!?



あ、チーズケーキめっちゃ美味しかったとだけ言っておきます。ごちそうさまでした。

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