第22話 初めてのFPSだにゃ!! ③
今回、ちょっと長めです。切りどころ難しかったんや…。
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『#1/50』
【コメント】
:うお、マジか
:やりやがった
:おめでとう!!
:二人ともやべえ!!
:最後のエイムどうなってんだ…
:やっぱすげえな…
:この腕前なのにプロゲーマーじゃなくてVtuberってマジ?
:それな
:PABGのプロでもそれなりにやっていけるんじゃね
文章になると長ったらしいが、ミタマやその画面を見ている視聴者からすれば目の前で起こったのは『いきなり飛び出したサキが一瞬にして敵の位置を捕捉して完璧に弾を撃ち込んだ』のみ。
結果、サキのHPバーはあとほんの数mmを残して留まり、最後の男のHPは全損。
誰の目にも明らかなサキの完全勝利だった。
「…サキちゃんおめでとうにゃ!!初戦場で初優勝にゃ!!」
…嬉しいような悲しいような、そんなごちゃまぜの感情だった。
実はサキには黙っていたが二人が入っていたのはかなりランクの高い部屋で、周りは当然猛者ばかり。しかもミタマがここで初優勝したのは何回目のチャレンジの時だったか。
今ではもうソロではほとんど負けることはないくらいの実力になっているつもりだが、流石に今回が初プレイの初心者が優勝できるとは思っていなかった。
というかキャリーしないとは言ったが、実際は役立たずの初心者を抱えたままどこまでいけるかという自分自身の練習のつもりだった。もしくは、万能で知られるサキに自分の得意分野でいいところを見せたいだけだった。
初配信のときに異常なエイムのよさが露見してたのでそこで勝とうとは思っていなかった。
それでも、定石の立ち回りであったり危険の察知、索敵や戦略など…。教えることは山ほどあると思っていたのだが…
「ねえサキちゃん、なんで最後突っ込んだのにゃ?」
『んー…動かなかったらさっきみたいにグレとARの組み合わせを何回かされるだけで押し切られちゃうかなって。回復してる間にそれされても厄介だし、タイミング的にまだスナイパーのリロードが終わってなかったと思うし、その時間を与えちゃうと頭に一発入れられるだけで終わりだから…。だから、突っ込んで純粋な反射神経の勝負に持ち込んだって感じかな』
「…完璧にゃ。
ある程度の上級者なら『勝ちたい』よりも『負けたくない』という欲の方が強くて、最後のタイマンの場面でリスク覚悟で突っ込むという判断はしにくくなる。どうにかして一旦引いて、相手を捕捉するか体力を回復したい…と思うのが普通。
初心者故の判断なのか、それとも自分のAIMと反射神経に自信があるのか…。恐らく両方。どう考えても最初は操作方法すらわからない初心者だったし、あの動きは流石に演技ではない。そしてあのAIM。一体どんな練習を積めばあんな速度で照準を合わせて寸分の違いもなくHSを決められるのか…」
『ちょ、みーちゃん!心の声漏れてるから!!猫キャラ消し飛んでるから!帰ってきて!』
「え?」
【コメント】
:めっちゃ嫉妬してて草
:あんま気にすんな…
:マイカちゃんも同じようなことされてたから…
:あれはひどかった。
:めっちゃ真面目な考察してて草
:本当はめっちゃ真面目っての露見したww
:そもそもサキちゃんが悪い
:それな
:自重しなさい
『なんで初めてプレイするゲームで自重しなさい言われてるのかな!?っていうかみーちゃん、キル数見てよ…』
「え?」
言われるがまま画面を見るとそこには、
キル数
Mitama_Cat:22キル
Saki_Komai:9キル
『ほら、キル数全然違うじゃん…。しかもね、みーちゃん。みーちゃんが私のためにセーブしてくれてたの分かってるんだよ?だって普段のみーちゃん、30キルは超えてるもんね?』
「にゃ、にゃんでそんなこと知って…」
『配信はタイミング悪くて生では観に行けてないけど、切り抜きとかクリップとかは時々観てるんだよ?その時のみーちゃんすっごいカッコいいし、ずっとすごいなーって思ってたの』
「は、恥ずかしいにゃ…」
『実はね私、ちょっとだけAIMの練習してから来たんだ。もちろん別のゲームだけどね。完全初心者の私が下手なプレイしまくってリスナーさんとか…というよりFPS大好きなみーちゃんに迷惑かけたら申し訳ないって思ってさ。黙っててごめんね?』
「そんなことないにゃ!初心者さんは下手で当たり前なのにゃ!」
『分かってるよ。でもさ、やっぱりかっこよくて大好きなみーちゃんに迷惑かけたくないっていう私の…プライドっていうのかな?一緒にプレイする以上、できるだけみーちゃんの横に並び立ってやりたいって思ったの』
「サキちゃん…」
『しかも、今日はいつも以上に敵の場所とか射線とかに気をつけて立ち回ってくれてたのも知ってるんだよ?私が敵に撃たれないように、私が敵を倒しやすいようにすっごい気を遣ってくれてたよね。そういうみーちゃんの優しいところも私は大好きだよ』
「ふにゃ…」
…反則にゃあ…。こんなにあざと可愛いところを見せられたら目覚めてしまいそうにゃ…。
『ねえみーちゃん、もう一回やろっ!さっきすっごい楽しかったからもっとやりたい!』
「…。…もちろんにゃ!!まだまだ教えることはたくさんあるにゃ!」
『よっ!師匠!よろしくお願いいます!』
「まかせるにゃー!」
この二人が後にデュオでの最多連勝世界記録を更新することなど、このときは誰も知る由もなかった…。
『《山神ミタマ/狐舞サキ》今日はサキちゃんと一緒にPABGやるにゃ!必見にゃ!《ミラライブ三期生/新人V》』
3.6万人が視聴 0分前に配信済み
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
時は少しだけ遡って。
「…は?あいつ、あれでチート使ってないとかマジかよ…」
とある一軒家の一室。
この家は、あるゲームのプロゲーマーの練習用に彼らの所属する企業が買った家。いわばゲームハウスだ。
その家の一室で、自分がやられたシーンのリプレイを何度も見返す一人―――いや、二人の男。透過チートで位置を把握したり、不正エイムアシストなんかを使ってたらリプレイを見れば大体は看破できるのだが…。
「いや〜、俺もまさか一人殺った瞬間に頭抜かれるとは思ってなかったわ」
そう言って、先程の男――仮にAとしておこう――が座っているゲーミングチェアの背もたれに肘をついて横からもたれかかるのはAといつもデュオを組んでプレイしている男――まあ、Bでいいだろう――。
「そういえばお前を殺ったときのAIMの早さもエグかったよな?」
Aが振り向くことなくBに尋ねる。
「ああ。二人の背後取れたから、山ほどキルしまくってるなんとかキャットって方を先に狙ったんだよ。そしたら殺ったと思った次の瞬間にはもう一人がこっち振り向いてSRブッパしてんだもん。流石に恐怖を覚えたね」
Bは手に持った炭酸ジュースを軽く呷りながらケラケラと笑う。
「それで、あいつらはどっかのプロなのか?」
「いーや違うね。誰かがサブ垢作ってはっちゃけてるって可能性も否定はできんけど…俺が見た感じでは少なくとも最後のAIMお化けはプロの立ち回りじゃなかったね〜」
「Mitama_CatとSaki_Komaiか…」
Aがそう言った瞬間、Bの表情が固まった。
「待て、今思い出したんだけどもしかしてそれってコイツのことじゃ…」
そう言ってBが差し出したタブレットに表示されていたのは、あるVtuberのMeeTubeチャンネルだった……
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ふうぅ…焦ったぁ…」
数時間に及ぶ配信を終え、椅子にもたれかかって大きく息をつくのはAIMお化け…ではなく、もちろん早紀だ。
『焦った』というのはもちろん最初の試合のこと。自分なりに精一杯ミタマちゃんと楽しみたいと思ってプレイしただけなのだが、どうやらそれが原因で彼女を傷つけてしまったようだ。
「そりゃあまあ、そうか…」
私のように操作方法すら分からない初心者なら、すぐにやられてミタマちゃんに助けてもらうのが普通なのだろう。
最近コメントなんかでもよく言われるのだが、私はその…なんというか『異常』らしい。前からリアルでもネットでも時々言われていたが、ジョークの類だと思って聞き流していた。ていうか何かする度に異常だって言われる方の身にもなってほしい。
でも、確かに同期の二人と比べてみたらそうかも知れない。マイカちゃんには及ばないものの、カラオケではそれなりに高得点を取っていた覚えがある。
初めてプレイするFPSゲームでいきなり優勝するっていうのも、もしかしたらおかしいことなのかもしれない。
ていうか普通におかしいことだわ。ミタマちゃんが言ってたけどPABGは何年も前から世界中で多くの人にプレイされている超人気タイトルらしい。
PABGのプロゲーマーもいるらしいし、そういう人達はきっと安定して勝てるように日夜練習しているのではないだろうか。
よくよく考えてみたら、初めてプレイする初心者でも簡単に優勝できるようなゲームだったら誰も好き好んで練習なんかしないだろう。
い、いや、私はちょーっと他の人より知識あるだけなんだよ?陰キャしてた時代にちょーっと銃に興味が湧いて何冊か本読んでただけだし心理学的に相手のやりたいことを読んで行動してるだけだし…。
まあ、そんなことミタマちゃんもリスナーさんも知らないもんね。そりゃバケモン言われても仕方ないかも…。
実際私だって、初めてマイカちゃんの歌声聞いたときには冗談抜きで心奪われたし。あの時は純粋にすごいって思ったけど、もし私の取り柄が歌しかなくてそれに絞ってめっちゃ練習してたとしたら…?これだけは誰にも負けないと思ってたような特技だったとしたら…?
…きっと、嫉妬するだろう。しかも、それがマイカちゃんの数ある特技のうちの一つに過ぎないとしたら尚更。
きっと、ミタマちゃんはそんな気持ちだったのかな…。
…だとしたら、とんでもないことをやらかしたのかもしれない。もしかしたらもう二度とコラボなんてしてくれないかも…。
…と、そう思った矢先に目の前のデスクトップPCに一件のビスコ(Biscord)の通知が。
前は加瀬さんの連絡先だけだったが、今ではそれぞれのマネージャーを通じてミラライブのライバー全員の連絡先を登録してある。
ビスコのアプリアイコンをクリックして届いたメールを開くと―――
山神ミタマ:『今日のコラボすっごい楽しかったにゃ!猫ヲタのみんなの反応もよかったし、もしよかったらこれからも定期的にコラボしたいにゃ!!
…あと、最初の試合の後で変な空気にしちゃってごめんなさいにゃ。正直に言うと、あの時ちょっとサキちゃんに嫉妬しちゃったのにゃ。みーは今まで何年もあのゲームをプレイしてて、いっぱい練習を積んできたから初めてプレイするサキちゃんにカッコいいところを見つけられて悔しかったのにゃ。
でも、それは見当違いの嫉妬だったって気付いたのにゃ。サキちゃんだってこれまでの人生で積み重ねてきたものがある。PABGをプレイしたことがなくても、サキちゃんなりに自分の知識を最大限生かした結果だって気付いたのにゃ。サキちゃんはみーのために頑張ってくれてたのに馬鹿なこと考えてたって反省してるにゃ。
だから…これからも、もしサキちゃんがよかったら練習に付き合ってほしいにゃ!サキちゃんのお陰で、ゲームに大切なのは経験だけじゃないって気づけたのにゃ!お互いに自分の得意分野を教えあって一緒に強くなっていきたいと思ってるにゃ!
うにゃ、気持ち全部伝えようとしたらすっごい長文になっちゃったにゃ…。ごめんなさいにゃ☆』
…。好き。
「うおおおおおおお…みーちゃんありがとう…」
…。やばい、涙が出てきた。
だって、だって、こんなにも誰かに嫌われたくないって思ったの初めてだもん…。
私が散々みーちゃんの気持ち考えてないプレイしたせいなのにフォローするどころか自分の方から謝ってくるなんて…。もう、なんていい子なの!!
気付いたら目尻から流れ落ちていた涙を拭い、すぐにみーちゃんへの返信を打つ。
『みーちゃん本当にありがとう!!私もすっごい楽しかった!!!
もちろんこれからも一緒にプレイしたいなっ!
私の方こそごめんね。みーちゃんの気持ち考えてない行動も多かったし、私がみーちゃんの立場だったら多分こんな風にメール送ろうとも思わなかったと思う。
でも、初めてプレイするゲームをあれだけ楽しめたのはみーちゃんのお陰だよ!今日はホントにありがとう!大好きだよ!』
ああ、めちゃくちゃな文章だ…。全然まとまってないし、こんなメールで感謝の気持ちが伝わる気がしない…。でも、今からわざわざ通話するのも迷惑だしなぁ…。
ふとスクリーンの時計を見るともう夜中の3時を回っていた。みーちゃんのこと考えるのもいいけど、明日は月曜日。大学に行かなければいけないのでこれ以上の夜ふかしはダメだろう。(もう既に手遅れな気はするが)
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