第21話 初めてのFPSだにゃ!! ②

それからしばらくして。

みーとサキちゃんは、恐らく敵が通るであろう橋の両脇でそれぞれSRを持って待機していた。


そして…


ブロロロロ…


「これはダチアの音だにゃ」


『なるほど…じゃあ…えっと、速度は約90km/h!あの建物の裏から出てくるまで恐らくあと7秒!』


「大体その通りにゃ!でも、マジでなんでそれが分かるにゃ!?」


『来るよ!』


「わかってるにゃ!」


直後、建物の裏から一台の黄色いダチアが現れる。ミタマがさっき探索中に見つけたスナイパーライフルのスコープで覗くと、運転席と助手席に大きな銃を背負った男が見える。


二人を乗せたダチアが、ダメージを受ける電磁パルスから逃れるために全速力で橋へと向かう。その時速は100km/hを超え、サキとミタマが両脇に潜む橋を通り抜け―――ることはできなかった。


パパァン!と二発のほぼ重なった銃声が響き、運転手を失った黄色いダチアは数十メートル先で少しスリップして木にぶつかって停まる。


PABGというゲームの仕様上、敵の遺体と遺品箱は被弾したその場に転がる上にクロスボウの矢でなければどこに被弾したかもわからない。しかし、もちろんキルログにある通り…


《Saki_KomaiがKar98kヘッドショットでXXXXXXを倒しました》


《Mitama_CatがM24ヘッドショットでXXXXXXを倒しました》


『やったねミタマちゃん!作戦通りだよ!』


「お、おう…そうにゃね…」


【コメント】

:…

:えぐいって

:バケモンやん

:キルログェ…

:走ってる車の中の人に弾当てるとか多分プロでも難しいんよ?

:しかも普通はAR連射とかするのに二人ともSRで一発やしなぁ…

:もう、この二人で世界大会出れば?


「みーは練習の賜物だからおかしいのはサキちゃんだけにゃ…。勘違いしないでほしいにゃ…」


『わ、私だってさっきからいっぱいスナイパー練習してるし!』


「全世界のAIM難民に今すぐ土下座して謝ってほしいにゃ」


『なんでかな!?』


「ていうかサキちゃん、なんでその武器構成なんにゃ?」


『なんでって?』


「Kar98kとSKS…どっちも遠距離にゃ。近距離で戦うことになったらどうするにゃ?」


『近距離…?ああ!さっき気付いたんだけどね、Karって頭に当てれば一発で倒せるんだよ!あ、でもなんかごっついヘルメットつけてる人はKarでもSKSでも頭に二発だから!』


「答えになってないにゃよ!?」


【コメント】

:当てる前提の話か…ww

:どう考えても初心者の思考じゃなくて草

:実際、まだ一度も外してないんだけど

:この前のクソゲーの話が現実味帯びてきてて草

:確かに

:確かに半分嘘だと思って聞いてたけど…

:確かに事実だったのか…


『あ、敵』


「ん?どこにゃ?」


パァン!


《Saki_KomaiがKar98kヘッドショットでXXXXXXを倒しました(280m)》


「に、280m!?そんなの、みーでも外すときあるにゃんよ!?」


『えー…だって動いてなかったし…弾速は確か800m/sぐらいでしょ?目測で大体の距離はわかるし、距離と重力加速度と弾速から考えたらどれぐらい落ちるかなんて簡単な計算じゃない?』


「ツッコミどころが多すぎてどこからツッコんだらいいかわからないんにゃけど!?」


【コメント】

:#簡単な計算とは

:確かに簡単やな(白目)

:ゲーム中に物理の授業を始めるVがいると聞いて

:PABGやってる最中に重力加速度なんて単語が出てくるとは思わなかったんだが?

:みーでも外すときある=ほとんど当たる

:実際これまでの配信で何回も超遠距離スナイプ決めてるからなぁ…


そしてしばらく経過して…


『お!みーちゃん、あと4人だってさ!』


「あとはみー達とワンペアだけにゃ!…ちなみにサキちゃん、敵がどこにいるかは分かるかにゃ?」


『うーん…姿も見えてないし音もしてないから正確な位置は…』


「ふっふっふ…みーはもう大体の位置は見当ついてるにゃんよ?」


『いや、今日が初プレイの初心者相手にそんなにドヤられましてもね…』


「分からないなら教えてやるにゃ!相手は…」


パパパパパ!!


《XXXXXXがM416でMitama_Catを倒しました》


「にゃ!?なんでにゃ!そっちにはいないはず…」


『む、やっぱそっちか』


パァン!


《Saki_KomaiがKar98kヘッドショットでXXXXXXを倒しました》


「『やっぱ』?場所分かってたのかにゃ!?」


『うん、相手からしたらいろんなところにケンカ売りまくってた私達の場所は分かってるはずだからね』


「だから裏取りに来てたはずだにゃ…」


『それで、みーちゃんの腕前を見る限り普通に裏取りするだけじゃバレるって分かってたんじゃないかな』


「…」


『だから裏の裏をかかれた。それで、もう一人の方は恐らく挟み撃ちするため若しくは隙をついて狙撃するために別方向で待ち構えてる可能性が高い』


そう言ってサキちゃんの操作するキャラが唐突に伏せた途端、『パシュッ!』という音と共に一瞬前までその頭があった位置を弾丸が通り抜けていったにゃ!


「!?」


『今の弾道ということは最後の敵の位置は…!』


サキちゃんがそう言って一瞬で振り向き、Kar98kのスコープを覗いてその弾を敵の眉間に打ち込んでドン勝を――――


『い、いない!?』


おかしいにゃ…。最後の敵が狙撃してた位置は流石にみーでも分かるにゃ。今サキちゃんがスコープ越しに見てるちょうどその辺りにいるはずにゃ。


「っ…まさか…!」


『みーちゃん、どうしたの!?』


「サキちゃん!隠れるにゃ!!」


『っ…!』


みーの指示を受けて、サキちゃんはすぐに近くの岩の裏に転がり込んだにゃ。その直後、ほぼ同じ方向から『パパパパパ!!』という連射音と共に幾筋もの銃弾が。


「サキちゃん!多分相手はギリースーツを着てるにゃ!」


『ギリースーツ!?そんなもんがこのゲームにあるって聞いてないんだけど!?』


「そりゃ、みーが言った覚えないんだから聞いてるはずないにゃ!」


『あ、やばいかも』


「にゃ?岩陰から出たら危ないにゃ!」


ドゴォォン!!


サキちゃんが慌てて岩陰から飛び出して近くにあった木の裏に転がり込んだ直後。ほんの数秒前までサキちゃんがいた岩陰で爆発が。


―――どう考えても、サキちゃんがARを避けると分かってたようなタイミングの早さ。


「この敵…間違いなく手練れだにゃ…」


しかも、


『む…ちょっと食らっちゃったか…』


サキちゃんが手榴弾を避けて岩から飛び出すと完全に読み切ってエイムを置いていたようで、躱しきれずに一発食らってしまったみたいだにゃ。


「サキちゃん!救急セット使うにゃ!」


『…いや、使わないよ』


「え?」


『攻撃あるのみ!』


そう言うとサキちゃんは、SKSを構えて木の陰から飛び出したにゃ!


「あ、危ないにゃ!」


まだ敵の正確な位置も分かっていない。このままじゃ一方的に蜂の巣にされるのは必死。どう考えても無謀―――




ミタマの予想通り、サキが飛び出した次の瞬間にはもうギリースーツに隠れた男の銃口は火を吹いていた。本来ならば先程撃ったばかりのSRをリロードしてから一発でHSを決めて沈める予定だったのだが相手が思ったより早く飛び出してきたので仕方なくARで蜂の巣にする作戦に切り替える。


一瞬でレティクルを頭に合わせ、発砲―――


―――する刹那、まるでこちらが引き金トリガーを引くタイミングが完璧に分かっていたかのように相手がいきなりしゃがんだ。


「クソッ…」


こいつ、さっきも俺のSRのタイミング完璧に予想したみたいに避けやがって…。だが、ARなら最初の数発を外したところで問題はない。移動する相手の動きをよく見て発砲を―――



しかし男が改めて照準を合わせたとき、サキもまた既に攻撃に移っていた。


連続で弾丸が発射されるAR、その一発目の銃声が鳴り響く刹那にサキはしゃがんでいる。当然のごとく最初の数発は空を切り、サキの背後の草むらに消えていった。最初の2、3発が当たるかどうかなんて、正直誤差にすぎない。相手が自分の姿を捕捉できていない状態だったし、この男のAIM修正速度も常人の域を超えていた。

――コンマ数秒。こんな短い時間で勝敗が変わる戦闘なんて滅多にない。


だがしかし。今回の相手に対してコンマ数秒の隙というのはあまりに大きすぎた。


最初の銃声を聞いて敵の位置を完全に捕捉したサキ。すかさずSKSの銃口を銃声の方向を向け、すぐさま二回クリックする引き金を引く。まるで視神経で受け取った信号を脳を介さずそのまま手に伝えたかのような…そんなスピードで…。


パパァン!!


ギリースーツの男の眉間に二発、狙い違わず撃ち込まれた弾丸は一瞬にしてその男のHPバーを消し飛ばし―――


いやしかし、男もまたサキに向かって銃弾をばら撒いている。


男の眉間にサキの弾丸が到達する前に、彼の弾丸もまたサキの頭部に命中している。瞬く間にサキとミタマのディスプレイに表示されているHPバーは減ってゆき、数瞬後には消し飛ぶペース。


お互いに逃げの選択肢はない。自分の命と相手の命、どちらが先に尽きるかの勝負。サキの弾丸が目標に到達する前にHPバーが消し飛べば手練れの隠密男の勝利、そうでなければ初心者サキの大金星。


その結果は―――



「は、はは…さすがにゃ…」


ミタマの目の前のスクリーンに表示されている文字はもちろん、


『#1/50』


の文字だった。

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