第16話 馴れ初め ② そしてまさかの招待状
その日から、梨沙は毎日私に話しかけてくるようになった。
最初に話しかけてきたときのように勉強について質問されることもしばしばあったが、ほとんどは話す意味すら感じないような他愛のない内容だった。
最初の方こそめんどくさいと思ってた私だが、次第に梨沙と話すのが楽しくなっていった。
また、それは普段の態度にも現れていたようで。
「深山さん!」
「早紀ちゃん!」
「深山ー!」
とまあ、いつしかクラスのほとんどの人が私に対して好意的に話しかけてくれるようなった。
梨沙曰く、
「陰キャしてても私が目をつけるほどの美少女なのにそれが明るく元気になっちゃったらそりゃ人気も出ますよ」
とのこと。正直何を言ってるかわからない。
まあ、梨沙は私なんかが敵わないほどの美少女だし……って言ったら後ろから胸を揉みしだかれた。理不尽すぎる。
ちなみにその光景を見た男子生徒数人が鼻血を出して保健室に行ってた。えげつなく恥ずかしかった。
半年もする頃には私と梨沙は口に出さなくてもお互いの気持ちが伝わるぐらいの仲になっていた。私の性格も、誰も半年前の私を思い出せないほど(この上なく影が薄かったというのもあるが)明るくなり、多分今の私と遜色ないほどだった。
これも全て梨沙のお陰。
それからすぐに、クラスで一番と称されるイケメンに告白された。断る理由も特にないのでとりあえずOK。
よくある話だとこいつを梨沙が狙ってて、そのせいで友情が決裂……さあ、友情と愛、どっちを取る!?ってな展開がテンプレだがそんなこともなく。
すっかり仲良くなったクラスメイトに祝福されながら、告白されたその日は手をつないで一緒に下校した。
梨沙は『今日は用事があるから一人で帰るね!ごめん!』と気を遣ってくれた。自分で言うのもなんだが、私の親友マジ最高。
……次の日、彼にフラれた。
なんで?私何かしたっけ?え?あなたから告白してきたのよね?
……正直、絶望した。初めての彼氏だからすっごく嬉しくて、昨日の夜に3分ぐらいかけて一ヶ月分のデートプラン練ったっていうのに……。
ずっとぼーっとしてる私を見かねたのか、梨沙が彼の股間を思いっきり蹴り上げてくれた。正直ちょっとスカッとした。
後で梨沙から聞いた話だけど、
彼『なんかこう……隣歩いてるだけで罪悪感がすごいんだよ……。そんときは楽しかったけどさ、後になってよくよく考えてみたらあの十数分で俺が一番楽しめるように話す内容とか仕草とか全部考えられてたんだって気付いたんだ。なんかこう……敵わねえ。彼氏としてあいつに何かしてやれる気がしねえんだ。もっと身の丈にあった彼女作るよ……』
とのこと。なんじゃそりゃ。
私の考え方としては、『恋人になった以上自分の幸せよりパートナーの幸せ優先』なのだ。当然のことだと思ってたんだけどな。相手を喜ばせるために自分にかかるストレスより、それによって生じる相手の幸福感の方が大きくなるようにすればいい。お互いにそうすれば幸せスパイラルが完成して永久に幸せが増幅し続けると思うんだけど…
「そんなことができるのは早紀だけだよ!!」
とは梨沙の言だ。
実際、私と梨沙の関係ってずっとそんな感じだから恋人同士でも同じようにすればいいだけの話だと思うのだが……やはり恋愛というのは難しいようだ。
それから少し人間の心理というものに興味が湧いて心理学を勉強してみた。
まあ、勉強って言っても普段の学業もあるので本やら論文やらに目を通すぐらいだけど。(なぜかそれを見た梨沙が絶句してたけど)
結局それ以降私にいい出会いはなかったが、梨沙に告白してきた男子を使って色々実験をした。
結果は上々で、二人はハートが全身からにじみ出るほどラブラブカップルになった。そしてそのラブラブは二年くらい経って別々の大学に進学した今でも健在だ。
……まあ、思ってた以上にラブラブになりすぎてわたしがちょっと梨沙に放置される時期があったのは悲しいけど。
……べ、別に梨沙以外に友達がいないわけじゃないもん!他のクラスメイトの子たちも仲良くしてくれてたし、部活のみんなとも楽しくやってたもんっ!今だってマイカちゃんとかイナ先輩とも友達になれたもんっ!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
……とまあ、最後の方は完全に考えが脱線してしまってはいたがとにかく私と梨沙の馴れ初めはこんな感じ。
今の深山早紀としての私も、SAKIとしての私も、狐舞サキとしての私も、全て梨沙が私を変えてくれたからこそ在るのだ。そうでなければ私は今まで通り誰とも話さず、大学でも無為な日々を過ごし、卒業したらしたで適当な職業について職場と家の振り子生活を送っていたと思う。
そう考えてみると身震いしてしまうが、現実の私は梨沙と……そして、Vとしての活動のお陰で充実した日々を送れている。
生憎将来の夢なんかはまだ見つかってはいないが、このまま配信者とやらになってもいいし(お母さんは確実に反対するけど)、最近何故かいろいろな人にカワボと言われるので声優とかの職業に就いてもいいかもしれない。
まあ、そんな未来のことは後回しだ!とりあえず今が楽しければそれでよい!!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
次の日。
私は家のポストに投函されていた一通の手紙を見て戦慄していた。
そこに書かれていたのは、
『拝啓 深山早紀殿
先日、都内のカフェに於きまして貴殿が制圧、亀月署の警察官に引き渡した犯人が指名手配犯であることが判明いたしました。
よって、本警察署に於きまして貴殿に対し金一封をお贈りすると共に感謝状を贈呈させて頂きたく存じます。本日午前11時、本人証明のできる物を持って亀月署にお越しください。もし予定などによりお越しいただくことが不可能なようでありましたら、お手数ですが下記の電話番号までお電話下さい。
(090)-XXX-XXXX
敬具
亀月署署長 高畑雄作』
…。
「……は?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます