第5話 打ち合わせ

一応お母さんを部屋から追い出した後で段ボールの中身を取り出してセットアップを始める。

全部一度出してみたところ、段ボールの中には加瀬さんからの手紙が入っていた。


『早紀さんへ。

色々大変だしよくわからないとは思うので、初期設定とか諸々はこちらでやっておきました。また、Vtuber用のシイッターアカウント、MeeTubeアカウントとBiscordアカウントも作ってあるのでそちらへのログインが可能かも確かめておいてください。可能でしたら、Biscordに登録してある私のアドレスに確認のメールを送ってください。

シイッターID:Saki_Vtuber_ パスワード:********** 

P.S.現在使っているシイッターアカウントとVtuberとしてのアカウントが同一人物だとバレるのは構いませんが、アカウントが混合して普段のアカウントで配信予定なんかをシイートしないように注意してください。    加瀬』


「あなたが神か」


その手紙を読んだ私は、部屋にあった延長コードに適当にコンセントのプラグを挿しまくってPCを起動してみる。


無事に起動が終わったので、まずは手紙に書かれていたパスワードを使ってシイッターにログインする。

無事にログインでき、自分のプロフィール欄を見てみたがアイコンやヘッダーなんかはまだ設定されておらず、


ミラライブVtuber三期生③ @Saki_Vtuber_


フォロー 1 フォロワー 672


のみ。


この672人のフォロワーは、きっとミラライブのファンで『ミラライブ』とでも検索にかけたら出てきたのでフォローした、といったところだろう。だってこのアカウントまだ何もシイートしてないしね。

ちなみにこの唯一フォローしているのはミラライブの公式アカウント。


MeeTubeの方も無事に開くことができたので、Biscordアプリを開いてそこに唯一登録されている『加瀬』さんに連絡を入れる。


『シイッター、MeeTubeともにログインできました!』


と一言メッセージを入れると、さすがと言うかなんというかすぐに返信が来た。


加瀬:『それはよかったです。それでは早速Vtuberをやるにあたってのアバターの外見や設定について考えていきたいのですが、お時間大丈夫ですか?』


『とりあえず夕飯までは大丈夫です』


加瀬:『わかりました。では、できるだけ進めておいて残ったら後は早紀さんの夕飯の後にしましょうか』


『了解です。では、最初は何を?』


加瀬:『とりあえずは設定ですね。現在ミラライブには、姫キャラ、天使キャラ、猫キャラなどがいますが…』


『うわ、結構難しそうですね…』


加瀬:『そうですね。やはりインパクトを持たせて視聴者の興味を引くという目的なのでそういった方向性で行くならかなり大変になってきますね』


『ではできれば普通の人間かそれに近いもので。何か追加するにしても例えば…ケモミミついてるとか小さい羽根生えてるとかそれくらいでお願いします』


加瀬:『では、細かいデザインはこちらに一任ということでよろしいですか?』


『はい。そういうのはよくわかりませんので私からは最終チェックと微調整のお願いぐらいにしておきます』


加瀬:『助かります。それでは設定なのですが、何か希望とかありますか?』


『では、病気の親友を助けるためのお金を稼ぐためにVtuberを始めた健気で友達想いの女の子って設定で』


加瀬:『完全にスパチャせがみにいってるじゃないですか。当然NGです』


『何故バレた!?うーん…それじゃあ友達欲しさにVtuber始めた寂しがり屋の女の子ってのはどうですか?』


加瀬:『なるほど。それならいいかもしれませんね。これ以上ふざけたこと言ったらプロフに『守銭奴』とだけ書いてやろうかと思ってました』


『結構重いダブリーかかってたんですね!?』


加瀬:『まあ、それはそれで話題性ありそうだしいいかと思ったんですが…』


『社会的に死にそうなんですが。あ、そういえばシイッターのSAKIアカウントと同一人物ってバレるのって大丈夫なんですか?』


加瀬:『もともとのアカウントがあっちですし、隠し通すのも難しいでしょう。明言しないにしても、バレてもいいやぐらいの感覚で大丈夫ですよ!こちらの都合で前のアカウント休止や削除なんてことになったら申し訳なさすぎますしね』


『お気遣いホントにありがとうございます。あとは…』


加瀬:『あと決めるのはVtuberとしての名前ぐらいですかね。オーディションに来た人なら自分で用意してることもあるのですが、如何せんこちらからのスカウトですので。もし早紀さんがよければ名前はそのままで苗字だけそれっぽい感じに変えるってのもアリですよ。実家暮らしですと家族に名前呼ばれて名前バレすることもあるので個人的にもそちらのほうがおすすめですね』


『なるほど…。仮にお母さんに本名呼ばれたのがマイクに入っちゃったとしても活動に理解ある親ってことで済みますしね』


加瀬:『本当に理解が早くて助かります。では明日の初配信までにアバターと名前、あとはなるはやでアイコン用の画像とヘッダーも用意しておきますね』


『はい、ありがとうございます』


「早紀ー!ご飯だから降りてきなさい!」

「はいはーい!」


ちょうどある程度打ち合わせが終わったタイミングでお母さんが階段下から私を呼ぶ声が。


今日の晩御飯はお母さんお手製のハンバーグ…。いつも美味しいから非常に楽しみだ。


なんて浮かれた気分で部屋を出たので、加瀬さんの最後のメッセージの中のというおっそろしいワードに気づかなかったのだ…。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



結局その日は加瀬さんから追加で連絡が来ることはなかった。いくら異様に仕事が早い加瀬さんでもさすがに今日中に終わらせるというのは無理があったようだ。

ていうかそもそも絵を描いたりってのはマネージャーさんの仕事じゃないだろうから誰か他の人に頼んでるんだろうな…。

なんて考えていたら梨沙から一件のRINEが。


Sally:『どう?順調かい?』


Sallyというのは梨沙がゲームなんかでもよく使う名前だ。確か英語で『出撃』とかいう意味があるのだが…うん、英語苦手族の梨沙は多分知らないので響きで使ってるのだろう。ということで三年ぐらい黙ってあげてるので未だに梨沙は出撃なのだ(?)


『順調よー!さっき打ち合わせして、設定とか色々決めたとこ!』


Sally:『早いね…。二人とも仕事の速さ尋常じゃないもんね…』


『私はそうでもないよ?加瀬さんが異常なんだよ…』


Sally:『むう…まあ、そゆことにしとく。そーいやレポート終わったの?私は全く終わる気配がなくて現実逃避なうなんだよね』


『あー、まだやってない。ていうか私は現実逃避のダシに使われてるのか…。よし、今からやってPDFをそちらに送って差し上げよう』


Sally『だから自分の力でやるってば!ていうかそんなことよりやらなきゃいけないことあるんじゃないの?』


『ほえ?決めなきゃいけないことは大体終わったと思うけど…』


Sally『そうじゃなくて、先輩ライバーの予習だよ。突発的にコラボになることだってあるし、そん時に相手の性格とかよく知らなくて逆鱗に触れて干されたりしたら目も当てられないよ?』


『あー…そーいや先輩とかもいるのか…』


Sally『えっ今まで自分一人だと思ってたの?なんなら多分同期も何人かいるよ?』


『あー…めんどくさいなぁ…。うぅ…よし、気合入れて暗記頑張るゾイ!』


Sally『暗記て笑 多分だけどいくつか配信見たりとかネットでプロフィールちょっと見るぐらいでいいのよ?』


Sally『…あれ?早紀?』


結局その後、梨沙のメッセージに既読がつくことはなかった。


「…まさか、ね…」


なんとなく嫌な予感がしつつも、いくら大事な親友とはいえ早紀のことだけ考えてるわけにもいかないので梨沙は期限が迫る課題を終わらせるべくキーボードを叩く指を動かすのだった…。

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