第1話 スカウトは突然に

「あー!暇だー!!」


ここは都内でもそこそこ有名な大学の講義室の一つ。

今は今日の講義が全部終わって、明後日の講義までの課題が教授から提示されたところだ。


「いや早紀…この量のレポートだよ?明後日の講義までに終わるかどうかってとこじゃない?」


机に突っ伏して伸びをする私にそう話しかけるのは山本梨沙。高校一年生の頃に仲良くなって、お互い大学一年生になった今でも私の親友。


「だってさぁー…こんなんWordでカタカターってやってプリントして提出すだけじゃんか…」

「だから普通はそれが時間かかるんだってば」

「じゃあ私が梨沙の分もやってあげようか?どうせ私ゃ暇だし梨沙は彼氏とイチャコラする時間最近取れてないんじゃないの?」

「…。…悪魔の囁きやめろぉ!自分で全部終わらせてから彼氏とイチャコラしますぅー!」

「惚気けおって…。全然構ってもらえないから彼氏さん浮気してたりして…」

「早紀は親友である私に不正させたいのかな!?」


二人で少し笑ったあとで、私はスマホを取り出してカレンダーの予定をチェックするついでにシイッターを開いて適当にシイートする。


『ああああああああ!!!!やっと講義終わった!暇じゃ!誰か構ってええええ!!』


「うわぁ…何そのシイート…そして何そのいいねの数…」


梨沙が言う通り、私がシイートした途端にどんどんいいねが増え、数十秒後には100いいねを突破していた。


『お疲れー!』

『モツカレー』

『よし、構ってあげよう』

『構ってあげるから住所教えt(殴』


などのリプライもたくさん。


「うわ…ねえ早紀、またフォロワー増えた?」

「ん?まあ。今で…56587人だってさ」


『SAKI @Saki_37564 フォロー 12358 フォロワー 56587』


「…エグっ…どうやったらそんなにフォロワー増えるん…」

「うーん…適当にネタシイ投げたり時々講義中の梨沙の寝顔上げたりとか?」

「!?嘘だよね!?そんなの上げてないよね!?」

「ていうかあんたそもそも講義中に寝ることないでしょうが」

「…ないっけ?」

「もっと自分と親友を信じろよ…。ていうかどんどん古い方の通知が消えてっちゃうのよね…リプ返さなきゃ…」


…なーんて会話をしている間にもどんどん通知は増え続け、数時間前のリプの通知がどんどん消えていっていた。


「…返さなくてもいいんじゃないの?ていうかそんなにフォロワーいるのに通知見てるのあんたぐらいのもんじゃない?」

「一応私のシイートが好きでリプくれてるわけだしね…見るぐらいはしなきゃ…」

「ふーん…ん?ていうかミラライブの公式垢からリプ来てんじゃん?なんこれ?」


梨沙が指差したのは、『ミラライブ公式』というアカウントからの


『DMを送りたいのでフォローしていただけませんか』


というリプ。梨沙曰く、今最もアツい事務所のアカウントらしいが…。どうやら私にDMを送りたいようだが、私がフォローしている人しかDMを送れない設定にしているためフォローを求めてきているようだ。


「あー…最近よく来るのよね…。どうせめんどくさいだけだしずっと無視してるのよ」


他のフォロワーさんからも、『フォローしてあげて』『なんかのグッズが当選したんだったらもったいないよ?』『そろそろ担当の人が可哀想』などと返信が来ていたり。


「えいっ」

「あっ!勝手にもう…」


梨沙が勝手にフォローボタンを押した直後、DMの通知が一件届いた。


「…早すぎない?」

「いや、こういうのって大体自動送信だから」


DMの欄を見てみると、確かにミラライブ公式からのDMが。


「でもさあ、怪しくない?どうせなんとかに当選しましたとかいう詐欺じゃない?」

「まあまあ、とりま見てみなよ〜」

「あっ、また勝手に…」


梨沙が勝手に開いたDMの画面には、『Vtuberへのスカウトについて』の文字。


「Vtuber?あぁ…時々梨沙が言ってるやつか…」

「そうそう!私が熱く語ってても早紀全然聞いてくれないけどめっちゃ可愛いし面白いのよ!!」

「で、それのスカウト?」


Vtuberとは、数年前からネット上での人気を席巻している配信者の一種。


作者『こんなの読みに来てる時点でみんなある程度はその辺の知識あるでしょ?ということで用語説明なんかは割愛!要望があればどっかにまとめます!あ、アプリの名前とかゲームの名前とかは著作権引っかかるの防止にちょっと変えるけど分かるよね?分かって?っていうか分かってくれないと泣くんで頑張って推理してください』


「…あれ?今何かメタいことが聞こえたような…」

「早紀どうしたー?変な電波受信しないでよ?ていうかこれ、ほら」


もう一度画面を見ると、『詳しい話は担当の方からしますのでこちらの番号に電話を…』とのこと。


「はい、かけたよ」


そう言って梨沙は自分のスマホを私に渡してくる。


「はやっ!?ていうか詐欺の可能性まだ捨てきれてないよね!?」

「いや、どう見てもミラライブの公式垢だしこれ。ほら」

「むぅ…もしもし…」

『詐欺じゃありませんよ!』

「ひっ!?」


電話に出ると、いきなり女性の声で怒鳴られた。

理不尽じゃない?


『あ、すみません…私、ミラライブでマネージャーをやってます、加瀬といいます』


流石に電話口でいきなり怒鳴るのは失礼だと思ったのか、加瀬と名乗った女性は少し申し訳無さそうな声で自己紹介。


「あ、深山早紀です…」

『存じ上げております。それでですね、こちらの用件といたしましては、サキさんに我が社のVtuberになっていただけないかと思いまして…』

「急ですね!?初対面…ていうかまだ対面すらしてないのにそんな話します!?」

『やはり見込んだ通りの方です…。この後時間ありますね?とりあえずお迎えに上がりますので外に出て待っててください』


ブツッ


…え?


「それで、何だって?」


呆然とする私に梨沙がワクワクしたような表情を浮かべて尋ねてきた。


「今からここに来るから外出て待ってろってさ」

「…え?大学教えたの?」

「言ってないよ?」

「シイッターから割り出された?」

「いや、その辺の管理はちゃんとしてるから身バレなんてあり得ないよ」


SNSをやっている以上、身バレ親バレを防ぐのは当然のこと。当然私もリアルの早紀とつながるようなことは女子大生であることぐらいしかネットでは言ってないはず。


「と、とりあえず校門行っていい?」


私がおずおずとそう訊くと、梨沙はコクコクと首を縦に振るのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る