第345話 真相(その6)
「まあ、こちらから質問しておいてなんだけど、あなたがセイを嫌う理由はわかっているつもりなのよ?」
リブ・テンヴィーとリボン・アマカリー、2つの名前を持つ美女は形のいい高い鼻をやや上に向けて、
「あなたみたいな頭の良さを鼻にかけたタイプって、どう考えてもセイの好みじゃないからフラれるのもしょうがないものね。でも、だからと言って自分を振った女の子をひどい目に遭わせようとするのは感心しないわ」
「何を言っている! 全然違うわ!」
モテない男の逆恨みだと決めつけられたジムニー・ファンタンゴは血相を変えて反論し、
「誰があんな女を好きになる! よりによってあんな下品で野蛮な女を!」
かっとなってセイを中傷したのに、
「てめえこそ何言ってやがる! セイは最高の女だぜ!」
シーザー・レオンハルトが怒鳴り、
「そうです。レオンハルトさんの言う通りです。失言の撤回と謝罪を要求します」
アリエル・フィッツシモンズも同調する。
「あいつらはおまえのファンクラブの会長と副会長か?」
本当に愛されてるよな、とナーガ・リュウケイビッチがからかい半分呆れ半分といった表情でつぶやいたのに、いやそういうわけではないが、と思いながらもセイは顔を真っ赤にして俯くことしかできない。王立騎士団の団長と副団長のようにはっきりと口に出したわけではないが、室内はセイを誹謗した男を批判する雰囲気に満たされつつあった。元気印のコケティッシュな若い娘は誰の目からも魅力的で悪し様に言われる理由などないはずなのだ。
「この部屋にあなたの味方はいないようだけど?」
女占い師にダメ押しされたのに加え、仕える主君の不興げな表情を伺って、おのれの不利を自覚せざるを得なくなった宰相はこれ以上真意を包み隠すことはできないと観念する。そして、
「わたしは数学を愛している。唯一の神として信仰していると言っていい」
それまでの流れとはまるで関係のない切り出し方に、皆が狐につままれたかのような顔になったが、リブひとりだけは厳しい表情になった。占い師と言う職業柄、相手が真実を語っているのを直感したからなのだろう。
「全てが論理に基づいて進み、余計な夾雑物が混じることなく解かれてゆく。数学こそがまさにわたしの理想なのだ」
人の温かみを持たない冷酷な政治家の顔がかすかに赤らんでいるのは、彼が自らの思想に歓喜し酔いしれているからなのかもしれなかった。
「わたしは数学と政治も同じようにあるべきだと考えている。完全無欠な計画のもとに万民が一糸乱れることなく恒久平和のために奉仕する、そのような社会を目指すためにわたしは今まで生きてきた」
「じゃあ、『平和条約』とかいうのを推し進めたのも、あなたの目標を実現するためなの?」
真剣な面持ちで問いかけたリブに、
「その通りだ。愚か者どもに理解してもらえるとは
来るべき世界の到来を夢見てファンタンゴは声もなく笑ってから、機械仕掛けの人形のようにゆっくりぎこちなく顔の向きを変えて、
「そのためには貴様が邪魔だったのだ、セイジア・タリウス!」
金髪の女騎士に向かって憎しみを込めて叫んだ。
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