第285話 女騎士さん、報告する(その2)

セイジア・タリウスが暮らしている村が襲われた、と報告された途端、夜更けの王宮はどよめきに包まれた。辺境の寒村を襲う泥棒など物好きもいるものだ、と笑いたいところだったが、その人数が100を越える、と聞かされては国政にあずかる人々としては深刻にならざるを得なかった。

「して、被害はどうなっておる?」

動顚のあまり玉座から腰を浮かしかけて国王スコットが叫ぶように問いかける。真っ先に村人を気にかけたあたりに、彼がいかなるときも心から国民を案じていることが証明されているようにも思われたが、セイは礼の姿勢を取ったまま表情を変えずに説明を続ける。

「幸い、村の人たちは全員無事です。ただ、防戦に努める過程で、村中の全ての家屋が焼け落ちてしまい、皆は現在でも野外での生活を余儀なくされています。人死にを出さなかったとはいえ、これでは守り通せたとは到底言えない、とかつて騎士団を率いていた身としてはまことに慚愧に堪えません」

目を閉じて俯いたセイの顔にはまごうことなき悔恨が見え、反省が本心から出たものは明らかだった。

「そんなことはない。余はそなたを誇りに思うぞ、タリウス」

再び深々と座り直しながらアステラ王は女騎士をねぎらう。

「そなたがいなければ、村の者たちは命を長らえることは出来なかったのだ。十分すぎるくらいに頑張ってくれたそなたにいくら感謝してもし足りないというものだ」

高貴な若者が暖かみのある言葉をかけてくれたにもかかわらず、セイの美貌に喜びが見当たらず、それどころか戸惑いすら浮かんでいるのを横に控えたナーガ・リュウケイビッチは訝しく思ったが、本来であれば同じ疑問を抱いているはずのシーザー・レオンハルトとアリエル・フィッツシモンズは恋する女子の顔を伺うどころではなく、互いに青ざめた顔を見合わせていた。

(おい、セイが今言っていたのは、まさか)

(間違いありません)

彼らが誤りと決めつけた「王国北東部から正体不明の集団が侵入している」という情報が事実であるとこのときようやく気づいたのだ。国防を担う王立騎士団のトップとしてあるまじき失態であり、それ以上にセイジア・タリウスが危機に陥っていたのを何も知らずにいた馬鹿さ加減を、嫌と言うほど思い知らされる。

(ったく、こんな無様をやらかして、どの面下げてあいつと会えばいいんだ)

と嘆きながらも、シーザーは後ろ向きにばかりなることなく、

(しかし、そうなると、国境を越えてセイの村を襲った連中というのは一体何なんだ?)

新たに浮かんだ疑問に取り組もうとしていたが、苦悩する青年騎士をよそに王と女騎士の会話はなおも続く。

「それにしてもさすがだ。一人きりで100人以上もの賊を撃退するとは。『金色の戦乙女』の武勇、いまだ健在のようだ」

お褒めにあずかったセイは恐縮する体を見せて、

「おそれながら、わたし一人で守ったわけではありません。頼れる仲間がいればこそ、戦い抜くことが出来たのです」

と言ってから、後ろを振り返って、

「この『蛇姫バジリスク』ことモクジュ諸侯国連邦『龍騎衆』の紅一点ナーガ・リュウケイビッチ嬢がいなければ、ジンバ村を守るのはまず不可能だったかと思います」

褐色の肌の美少女に向かって「ぐっ!」と親指を立てて笑ってみせた。

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