第31話 女騎士さん、村の問題を知る(中編)

「よそもの」の話をしてくれ、とセイジア・タリウスに言われてハニガンは大いに狼狽した。村にやってきた彼女を排斥していた事実を追及されると思ったからだ。

「いえ、その節は本当に、セイジア様に数々のご無礼を働いたことを心から申し訳なく」

「そういうことじゃないんだ」

セイは笑って青年をなだめる。

「すまない、言葉足らずで慌てさせてしまったようだ。わたしが言いたいのは、この村にはわたし以外にも『よそもの』がいるだろう、ということだ」

それから、彼女は遠くへと目を移しながら、

「そして、その『よそもの』は村の北側にいる、というのがわたしの見込みだが、違うか?」

青年の目が大きく見張られた後で、すっ、と細まり、警戒心があらわになる。

「誰かから、そういったお話をお聞きになったのですか?」

「聞いたと言えば聞いたことになるのかな。ガダマーと村長、きみの言ったことから、そのように考えたのだが」

ハニガンはまたもや大いに狼狽した。

「馬鹿な。ぼくはあなたにそんなことは一度だって」

「まあ、落ち着いてくれ。わたしが勝手に推理しただけだから、きみのせいじゃない」

慌てる若者をなだめる女騎士、という構図ができあがってしまったのに、こみあげる笑いを噛み殺しながら、セイは説明を始める。

「まず、『よそもの』の存在にはわたしは最初から気づいていたんだ。わたしがきみたちと最初に会ったときのことは覚えていると思うが」

「ええ、それは」

村の集会場にやってきた女騎士を村人たちが無理矢理追い返した直後に、樹から落ちたマルコ少年を彼女が助けたのを思い返して、なんという波乱万丈な幕開けだ、とハニガンは今更ながらに思わざるを得ない。

「そのときにガダマーが言ってたんだ。『この村にこれ以上よそものが入ってきてたまるか』ってな。だから、わたし以外にもよそからやってきた人間がいるのは、そのとき既にわかってたんだ」

ガダマーは髭を延ばし放題にしたダルマのような体型をした男だ。もともとセイを追い出そうとする一派のリーダー格だった彼は、今でも彼女に対してそっけない態度を取り続けていたが、「それなりに考え方が一貫しているのは見上げたものだ」と金髪の騎士はさほど悪いように考えてはいなかった。態度をコロコロ変えられるよりはその方がマシだ、というのが彼女の捉え方だった。

「よくそんなことを覚えてますね」

騒然した場であったにもかかわらず、細かい言動を記憶していた女騎士に村長は素直に感心する。

「わたしは繊細な人間なんだ」

リブ・テンヴィーが聞いたら大笑いしそうなことを言い放ってから、セイは話を続ける。

「だから、『よそもの』のことはずっと気になっていたのだが、村を歩き回ってもそれらしき人物は見当たらないのでおかしい、と思ってたのさ。そんなときにまだ行っていなかった北の方へ向かおうとしたら、村長、きみに止められたから、ははあ、そういうことか、って思ったわけだ」

「どういうわけです?」

ふっ、とセイはかすかに笑ってから、

「わたしに行かれたら困る、ときみの顔にはっきりと書かれていた。つまり、事情をよく知らない人間がやってきて揉め事が起きるのをきみは恐れている、と想像がついた。で、その揉め事とは何か、と言えば『よそもの』がらみだろう、とこれまた想像がつく。わたしも騎士だった頃に戦場でその手のトラブルは何度も経験しているのでな。まあ、単純な推理だ」

なんというお方だ、とハニガンは感心を通り越して呆れてしまう。わずかな手がかりから真相にたどりつくとは。身体能力だけでなく頭脳の働きも優れているとは。つくづくとんでもない人がやってきたものだ、と改めて痛感させられていた。

「恐れ入りました。あなたに隠し事はできませんね」

「わたしに秘密主義は通用しない、と覚えておくといい。きみが部下だったら営倉にぶちこんでいるところだ」

いくらか本気の混じった冗談を飛ばしてから、

「そういうわけだから、わたしを『よそもの』のところまで連れて行ってくれ。その件で困っているんじゃないのか?」

確かにその通りだった。実はセイがやってきたとき、集会場ではまさに「よそもの」の扱いについて話し合われていたところだったのだ。それ以前もそれ以降も何度も議論を重ねてきたが、結論には至っていなかった。

(この人ならなんとかしてくれるかもしれない)

村長として難題に苦悶していた青年の中で「金色の戦乙女」に解決を委ねたい、という気持ちが大きくなっていく。

「では、わたしの後についてきてくれませんか?」

そして、自然に頭を下げて願い事をしていた。

「ああ、案内を頼む」

ようやく「よそもの」の正体がわかる、とセイの胸は期待で膨らんでいた。







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