第18話 女主人、老人の暴言にキレる
昼の混雑が終わり、「くまさん亭」の店内の空気は静かになっていた。
「セシル、ちょっと来ておくれ」
「はーい」
テーブルを拭いていたセシル・ジンバはノーザ・ベアラーに呼ばれて厨房へと向かった。
「なんですか、おかみさん」
「ちょっと味見をしてほしいんだ。今から温め直すからさ」
女主人は持っていた鍋の蓋を取ると、少女に中味を見るよう促した。
「これは」
「この前あんたが作ったのと同じシチューだ。どうにも気になったから自分で作ってみたんだけどね」
そこへオーマとコムとチコが裏口から戻ってきた。揃って用を足してきたらしい。
「ちょうどよかった。あんたたちにも食べてもらうよ」
10分後。かまどで温め直したシチューを店員たちは厨房で立ったまま食べていた。
「すごい」
三つ編みの少女は思わずつぶやいた。自分が作ってみせたのと味がそっくりだったからだ。といっても、ノーザに作り方を教えたり、レシピを見せたわけではない。彼女はこの前のまかないづくりでシチューが作られるのを一度目にしただけなのだ。
「何もすごくはない」
オーマがぼそっと呟く。
「料理人なら完成品を見れば、材料や作り方のおおよその見当はつくものだ。まして、おかみさんは優秀だからな。これくらいできて当たり前だ」
「よしてくれ。あんまりおだてるもんじゃないよ」
褒められても心外そうな顔をするノーザ・ベアラーに対して、セシルの中のセイジア・タリウスは改めて敬意を抱く。
(やはりおかみさんはすごい人だ。わたしも見習いたい)
そう思いながらもう一度シチューを口にしたとき、「あれ?」とセイは感じた。何かがおかしい。しかし、その原因を明確に指摘できない。
「あのですね。おかみさんのシチュー、とてもおいしいんですけどね」
そこまで言うとコムは黙ってしまった。何かを言いづらそうにしている大柄な料理人を見て女主人がにやにや笑う。
「言いたいことがあるなら遠慮せずに言っておくれよ。あんたが何を言いたいのか、こっちにはわかってるんだ」
「はあ。じゃあ、言わせていただきますがね。おかみさんのシチュー、この前のセシルちゃんのものと比べると何かが違う、と言うよりも何かが欠けている気がするんですよね。すみません、生意気言っちゃって」
「まさにそれなんだよ!」
失礼な発言を怒るどころか、逆に同意してきた女主人を店員たちは驚きの目で見た。
「この前のセシルの料理が気になったから、自分でも作ってみることにしたんだけど、出来上がりを食べてみても何かが違う、何かが足りない気がしてならなくてさ」
女主人が鋭い目でバイト女子を見る。
「なあ、セシル」
「はい?」
「今からこのシチューの作り方を言うから、違うところがあったら言っておくれ」
そう言うと、ノーザはシチューの作り方を諳んじ始めた。最初から最後まで少女の製法と同じ、あの黄ばんだ紙に書かれたレシピそのままだった。さっきオーマが言った通り、女主人はシチューの作り方を完全に理解していた。
「はい。全くその通りです」
頷いた少女を見て、女主人は困惑をより深いものとした。
「いやあ、それだと困るんだよ。セシルのやり方と違ったところがあれば、そこさえ直せばいいんだけど、同じ作り方をしてるのに味が違うとなると、どうしたらいいものかわからないねえ」
白いタオルを巻いた頭を掻いてから、女主人はもう一度「くまさん亭」の女子店員を睨んだ。
「ええい。こうなったら、セシル、もう一度シチューを作ってくれないか? 今度は間近で見て、わたしと何が違うのか確認したいんだ」
「今からですか?」
「ああ、しばらくはお客も少ないだろうからね。なあ、頼むよ」
目を丸くする少女に食い下がる女主人をみたチコが、
(目下の人間相手に何をそんなに必死になってるんだ。馬鹿みたいだ)
と心の中で嘲笑うと、
「あれだから、おかみさんは料理が上手なんだ」
とオーマが頷き、
「ですよね。自分が使っている人間に教えを乞うなんて、なかなかできませんよ」
とコムも同意した。2人の料理人が自分とは全く異なる感想を持っているのに見習いは驚く。
「自分の知らない味、作れない料理があるのが許せない、という意地だな。負けず嫌いだから、あの人はここまでやってこれたんだ」
「あればっかりは、おれもかなわないな。ああ、でも、本当にいい女ですよね、おかみさん」
「おい、コム、おまえ、おかみさんを変な眼で見たりしたら、ぶっ殺してやるからな」
「見ませんって。兄貴の大事なおかみさんですもんね」
「馬鹿なことを言うな。あの人は今までもこれからも先代一筋なんだ。おれが入り込む隙なんてあるか」
顔を赤くして叫んだオーマを見たコムは、
(あれ? まさか、兄貴、本気でおかみさんのことを?)
と勘繰ってしまうが、お客が少ない間にいろいろ仕込んだ方がよさそうだ、と思い直して、食材を用意しておくことにした。作業をしている間にも、ノーザがシチューを作っている少女の様子をじっと眺めたり、何か質問しているのがわかった。それから1時間後。
「みなさん、どうぞ」
完成したシチューが注がれた小皿をそれぞれ持って、ノーザたち5人は厨房で集まっていた。そして、一斉に口にした。
「ああ、やっぱりこれだわ」
思わずつぶやきが口から洩れたのに気づいたコムが「しまった」という表情をする。
「いや、コムの言う通りさ。やっぱりわたしとセシルのとでは違う、ってことだ」
そう言って女料理人は寂しく笑った。味で負けるのは悔しいが、それ以上に負けた理由がわからないのが悔しく、自分を許せなかった。そんなノーザを励ますべきか、セイは迷ったが、
(今は何を言ってもおかみさんのためにはならない)
と思い直して黙っていた。真の戦士は敗者への思いやりも持ち合わせているものなのだ。
そのとき、がんがんがん、と店内から音が鳴り響いた。一同が驚いて見てみると、席に座ったじいさんが目の前のテーブルをステッキで殴りつけていた。「くまさん亭」に毎日のようにやってくる裏町に住む老人だ。何かと文句をつけてくるので、常連客でありながら店の評判は良くなかった。
「まったく。いくら待っても誰も来ないとは。この店は本当にダメになったもんだ。もうおしまいだな、まったく」
(いや、黙って待ってないで声をかけてくれればいいじゃないか)
老人を苦手にしているコムは心の中で文句を言ったが、
「セシル、行ってあげな」
ノーザに背中を押された少女が老人に近づく。この店で働きだしてすぐに老人の相手を長時間して以来、彼女が老人の担当になってしまっていた。
「おじいさん、今日も来てくれたんだな」
「おお、セッちゃん。あんた、一体何をしておったんだ。哀れな年寄りを抛っておくとは、ひどい娘だ。このまま孤独死するかと思ったわい」
「それはすまなかった」
老人の相手をする時は、セイは素のままで話すようにしていて、じいさんもそれを喜んでいるようだった。いつもの偏屈そのものといった表情を崩さなかったが、態度から嬉しさを隠し通すことには失敗していた。
(セッちゃん、ってなんだよ)
そして、厨房で3人の男たちは同じ突っ込みを入れていた。
「それで、今日は何を注文するんだ?」
他愛ない会話を続けた後でセイが訊ねると、老人は厨房を指さし、
「あそこからいいにおいがするが、何を作っておったんだ?」
と訊いてきた。
「ああ、シチューを作ってたんだ」
「ほう。そんなものがこの店にあったとは知らなんだ。客であるわしに隠し事をするとは実にけしからんな」
「そうじゃなくて、わたしがまかないを作ってたんだ」
老人の目が大きく見開かれる。
「なんと。セッちゃん、あんたが作ったのか。それはいかん。保護者であるわしが食べてないのはいかん。では、今日はそれを食べることにしよう。すぐに持ってきなさい」
「すまない。あれは売り物じゃないから、出すわけにはいかないんだ」
その途端、老人ががっくりとうなだれた。
「セッちゃん、あんたは本当にひどい娘だ。この老いぼれに食べたいものを食べさせてくれないとは、あんた、わしに早く死ねと思っておるのだな? そうに決まっておる」
へそを曲げてブツブツ言っているじいさんの対応にセイが困っていると、ノーザが皿を持ってきて、静かにテーブルの上に置いた。中には熱々のシチューが入っている。
「もう、本当にしょうのない人だね、あんたは」
苦笑いを浮かべた女主人を見て、老人が笑顔を浮かべる。
「おお、さすがはおかみ。話が分かる」
そう言うと、すぐにシチューをがつがつ食べだした。
いいんですか、とセイが問いかけるようにノーザを見てみると、女主人はもう一度苦笑いを浮かべて頷いた。
かなりの速さで食べ終わった老人が懐から取り出した白いハンカチで口元をぬぐってからノーザ・ベアラーに問いかけてきた。
「おかみ、これはセッちゃんが作ったまかないだと聞いたが」
「ああ、その通りだよ」
「では、店の正式なメニューではない、ということか?」
「そりゃそうだ。まかない、というのは本来お客に出すものじゃないんだ。それに、セシルはまだ一人前とは言えないからね」
「つまり、これを店で出すつもりはない、ということなのだな?」
「まあ、そうなるね」
老人はこれ見よがしに溜息をつくと、
「おかみ、あんた、料理人の風上にも置けない人だな」
「なんだと。てめえ」
怒ったのはそう言われたノーザではなくオーマだった。厨房から飛び出そうとするのを後ろからコムとチコが必死で引き留めている。右手には柳刃包丁が握られているから、必死になるのも当然だった。
「オーマ、下がってな。熱くなるんじゃないよ」
ノーザが手で「待った」をかけると、小柄な料理人はぴたりと動きを止めた。
「じいさん、それはどういう意味なんだい? 事と次第によっては、わたしにも用意があるぞ」
極地の氷を思わせる冷ややかな口調に老人はひそかに震え上がったが、内心の動揺を隠しつつ、偏屈な顔のままで話し始める。
「いや、誤解のないように言っておくと、おかみ、あんたの腕に関してはわしも一目置いておる。一流、いや超一流と言っても」
「ごたくはいいから、何故『風上にも置けない』のか、さっさと言いやがれ、じじい」
女料理人の白いこめかみに青筋がぴくぴく動いているのを見た老人の口から「ぴい」と音が漏れる。
(「ひい」ではなく「ぴい」なのか)
と修羅場でありながら見当違いのことを考えるセイジア・タリウス。歴戦の彼女にはこの状況もお誕生会のようなものでしかなかった。
「うむ。わしにも少し言い過ぎた面があったかもしれん。何か誤解を招く言動があったとすればそれはわしの望むところではないし、このようなことが今後は二度と起こらないよう」
がん、とノーザが無言で丸いテーブルを中央で支えている脚を蹴飛ばし、重たい木製の円卓が皿とステッキを乗せたまま床を滑って壁に激突した。とうとう老人は椅子から転げ落ちる。それを見ていたオーマとコムはそれぞれ別のことを考える。
(おかみさん、おれより全然熱くなってるじゃないですか)
(やだなあ。とうとうこの店から人死にが出るのか)
「おじいさん、おかみさんに謝るんだ」
セイが老人をたしなめる。
「セッちゃん?」
「うちのおかみさんにひどいことを言ったらダメだぞ」
めっ、と人差し指で禿頭をつつかれると、老人は何故か一瞬だけ晴れやかな笑顔になってから、
「本当にすまんかった」
とノーザに向かって土下座した。店内に一陣の風が吹いたかのように思われた。
「いや、あのさあ」
老人に平伏された女主人は困った顔で言った。
「そんなことをしてほしいんじゃないんだよ、じいさん。わたしはただ、何故『風上にも置けない』のかが知りたいんだ。それさえわかればいいんだよ」
「では、言おう」
老人が跪いたままで話し始める。さっきまでの醜態がなかったかのように真面目くさった顔をしている。
「おかみ、料理人にとって一番大事なのは、客に上手い料理を食べさせることだと思うが、この点に異論はあるか?」
「特にないね。わたしもいつもそうでありたいと思ってる」
「それができてないから、わしはあのように言ったのだ」
「なんだと?」
娘ほどの年齢の女性にすごまれてビビり倒す老人だったが、お気に入りの少女もそばにいるのを思い出し、虚勢を張りながらも話を再開する。
「あの料理、セッちゃんのシチューは実にすぐれものだった。こういっては何だが、おかみ、あんたの料理と比べてもまるで遜色のない出来ばえだ。にもかかわらず、それを客に提供することなく、店員の食事だけで終わらせる、というのは料理人としておかしくはないのか、とわしは言いたかったのだ」
そう言われてみると、ノーザにも思うところがあった。少女の作ったシチューは自分にも作れないものであるのは確かなことだったからだ。
「セシルのシチューを、うちの正式なメニューに加えて、お客に出せ、って言うのかい?」
「ああ。その通りだ。あれなら、多くの客の舌を満足させることも出来よう」
そう言うと、老人はニヒルな笑いを浮かべた。ちっとも似合ってはいないが。
「わしもかつては料理人でな。流しの板前をやっていた」
「そうだったのか?」
三つ編みの少女が驚く。
「そうなのだよ、セッちゃん。もう25年前になるかのう、ホーク・ベアラーという男と同じ店で働いたことがあった」
「うちのだんなとあんたが?」
ノーザ・ベアラーは大声を上げる。
「そうだ。料理の腕はそれほどのものではなかったが、とにかく気のいい男で、わしもいろいろと教えたりして、親しくしたものだった。あいつとはそれっきりになってしまったが、わしが引退してこの町に住むようになり、あるとき近所にホークの店があると聞いて、ぜひとも行かねばならぬ、と駆けつけてみたのだが、そのときにはあいつはもうおらんようになっていた。来るのが遅すぎたのだ。悔やんでも悔やみきれんわい」
昼下がりの店内に静寂が下りる。
「だから、せめて、というわけではないのだがな。ホークの店が長く繁盛するように、わしなりにいろいろ気になる点を注意してみたのだが、迷惑だったのなら誠に申し訳なかった。おかみ、許してくれ」
(あのじいさん、本当に料理人で、しかも先代と知り合いだったのも本当なのか)
コムは心の中で驚いていた。ボケ老人のたわごとだとばかり思っていたのだ。そして、ノーザ・ベアラ-の頭の中では、ただひとつの言葉だけが響き続けていた。
「おいしいものは、独り占めにしてはいけないんだ」
みんなで分け合えば、おいしいものはもっとおいしくなる。ホークはいつもそう言っていた。だから、人から作り方を聞かれればいつも出し惜しみすること無く教えていたのだが、もともとは彼の編み出した料理をさも自分が作ったかのように宣伝して名を高めた人間も少なからずいたので、「お人好しにも程がある」とノーザは何度も怒ったのだが、
「ぼくの代わりに、料理を広めてくれたと思えば、それでいいじゃないか」
と熊のような大男は自分の考えを変えようとはしなかった。そんな彼を彼女はもどかしく思いながらも誇らしくも思っていた。
(そうだね。「くまさん亭」は今でもあいつの店なんだ。わたしは預かっているだけなんだ)
この場合、ホーク・ベアラーならどうするか、考えるまでもなかった。まかないとして作られたものだろうが、作った人間が半人前だろうが、事情は関係無しにおいしいものであればたくさんの人に食べてもらおうとしただろう。
「あんたの言うとおりだ、じいさん。確かにわたしは料理人の風上にも置けないことをするところだった」
切れるような涼しげな笑みを浮かべると、女主人はバイトの少女を見つめた。無意識に「気をつけ」の姿勢をとるセイ。
「セシル」
「はいっ」
「あんたのシチューを、うちの店で正式に採用する。わたしには作れないから、あんたに全部任せるしかないんだ。しっかり頼むよ」
そう言われても、女騎士に喜びは無かった。責任が肩にのしかかってくる重みしか感じない。
(果たしてわたしにできるだろうか? だが、「やれ」と言われたならやり通すのが騎士であり、わたし自身の生き方でもあるのだ)
決意した少女は精一杯胸を張って叫んだ。ただし、店が壊れないように少しだけヴォリュームを絞りはした。
「わかりました! このセシル・ジンバ、力の限りやらせていただきます! 決して店の名誉を汚すような真似は致しません!」
オーマとコムが手を叩きながら厨房から出てきた。
「よかったな、セシルちゃん。おれはこうなると思ってたよ。妥当だよ、妥当」
「少し早い気はするが、おれたちも助けるからしっかりやるといい。おまえには力があるのだからな」
「ありがとうございます、コムさん。ありがとうございます、オーマさん」
店内にいる人間は、チコが厨房のゴミ箱をひっくり返し、床にあふれ出た生ゴミを怒りにまかせて踏みつけていたことには気づかなかった。
(ふざけやがって、ふざけやがって。何故あいつばっかりこんないい思いを!)
少女の肩を叩いて励ますノーザを見て、老人は目を潤ませる。
(ホーク、こんなにいい嫁さんがいるなら、おまえの店は安泰だ。わしも安心してあの世に行ける)
「あれ? ところで、あのシチューってどういう名前なんだい?」
コムに聞かれて少女が戸惑う。
「名前、ですか?」
「そうだね。ああやって、壁に貼らないといけないから、名前を聞いておかないと」
女主人が指さした壁にはメニューが貼られている。
(そう言われてもなあ)
セイはすっかり困ってしまう。本当にあのシチューには名前などないのだ。天馬騎士団でもただの「シチュー」としか呼ばれてなかった。
「名前はないんです。ただのシチューなんです」
「じゃあ、『シチュー』とだけ書いておく?」
「いや、いくらなんでもそれは味気ないでしょ」
女主人にコムが反論する。
「ならば、セッちゃんが名前を付けるといい」
「えっ?」
老人の突然の提案に一同は驚く。
「セッちゃんが作ったのだから、セッちゃんが名付けるべきだろう」
「ああ、確かにそうかもねえ」
ノーザが少女を見る。
「じゃあ、セシル、今ここで名前を考えな。あんたが決めた名前なら、わたしらも文句は言わないよ」
オーマとコムも頷くのを見てセイは必死で名前を考えようとする。全く初めての経験で不安しかない。家まで持ち帰ってリブに相談したいところだったが、そうもいかなかった。筋肉質の脳味噌からなんとか絞り出そうとしているところへ、言葉が降りてくるのを感じた。まさにぴったりの名前だ、という気がした。
「わかりました。今、名前が決まりました」
「おっ、なんて名前だい?」
コムに聞かれてから、すこし溜めを作った後でセイジア・タリウスは自信作を発表した。
「『シェフのきまぐれシチュー騎士団風』です!」
店の中なのに風の音が高く響いたのは気のせいだろうか。みんなが黙ってしまったので、女騎士は不安になる。
(あれ? 何かまずかったのだろうか?)
「うーん、いや、セシルがそれでいいなら別にかまわないんだけどね」
「ネーミングセンスまでは努力でもどうしようもないのだな。できることなら、おれが教えてやりたかったが」
「『シェフ』? 『きまぐれ』? 『騎士団』? 疑問しかないのが、逆にすごいかも知れないから、おれはいいと思うぜ、セシルちゃん」
「え? あの、ちょっと。みなさん、言いたいことがあるなら、はっきり言ってください。ねえ、ちょっと」
渋い顔をしている3人を見て少女はしばらくあたふたし続けた。そして、その翌日から「くまさん亭」では新メニュー「シェフのきまぐれシチュー騎士団風」が登場したのであった。
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