70.リリスとのお茶会
ハルはただいま現在お城の一室におり、なぜかリリスと2人きりでお茶を飲んでいた。
リリスは慣れたように、お茶を飲むが、ハルはティーカップすら、まともに触れなかった。
それもそのはず、ハルは極度に緊張しており、心の中ではめちゃくちゃ焦っていた。
(いやいやいやいやいやおかしいでしょうよ! 何? ルシファーが本借りただけでそんな嬉しくなるほどのこと!? というか、私また何かしました!?)
……話は数分前に遡る。
図書館から出てきたルシファーはハルが読んできた1冊の本を借りた。あの読書嫌いのルシファーが図書館に行っただけでも騒ぐには格好のネタだったのに、更に本を借りたとあったので、城内は大騒ぎ。
当然、リリスの耳にも入り、「どいつじゃ!?」「ハル様です!」「納得!」
ということで哀れハルは昼食をとろうと図書館から出たところをリリスの従者に捕らえられ、ここにいるわけだが。
(いやなんで、そういう理由で!? というかあの子の読書嫌いってどれくらいだったの!? というかここでしくじったら確実に私殺される!)
未だブルブル震えるハルを見たのかリリスは一旦カップをソーサーに置き、ハルの方を見た。
「ハルちゃん」
「ハイ!?」
「そんなに気をつけなくてもいいぞ、別にとって食ったりはせん」
「はぁ……」
「今回呼んだのは他でもない我が娘ルシファーに読書の面白さを知ってもらったことと昨日のことについてじゃ……。ホントお主には何度も救われておる……」
いきなり神妙な趣で言われたことにハルは驚き、口が開いたままになった。リリスはまだ続ける。
「恐らく案内のものに聞いてると思うがルシファーはわらわが生んだこの中で幼く唯一の娘。それ故わらわも家臣も息子も皆彼女を甘やかしすぎてしまっての」
「はい」
「で、家臣の一人がこれではいかんと彼女の矯正教育を施し、なんとかここまではこれた。これは勉学でも同じじゃ。しかし、どうしても好かんかったのが読書じゃった……」
「そんなことが……」
「驚くかもしれんが、わらわはけっこうな本好きでの。だからこそ、娘であるルシファーにも本を好んで欲しかった。しかし、わがまま故に気づいたときには出遅れだったがの……」
「何度でも礼を言う。この件といい、国交の件といいハルちゃんありがとう」
「いえ、別にそれほどでも……」
「何、謙遜するものでもなかろう」
「私としては読書できればそれでいいので」
「ほほ、相変わらず面白い娘じゃ。ほれ、焼き菓子も茶もある。遠慮せずに食え」
「はい」
そう言って、ハルがクッキーを早速摘まもうとした瞬間だった。
扉がノックされ、衛兵の1人が入ってきたのだ。
「リリス陛下。王都の門番からただいま天使国の一団が入国されたとのことです」
「誠か」
「はい。ですので、申し訳ありませんがそろそろ支度を……」
「うむ……ハルちゃんの話を聞きたかったのに……残念じゃ……」
そう言って名残惜しむように衛兵に連れられて部屋から出て行ったリリス。しかし、別の衛兵がハルに向かって言った。
「あ、ハル様も支度をお願いいたします」
「え? 私も?」
「はい。何せ一番の立役者ということでございますので」
「分かったわ……」
「侍女や私たちが案内いたしますのでこちらへ」
「はい」
ハルもつられるようにまた部屋の外へと出たのだった。
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