64.ようこそ魔界へ

 ハルの衝撃の話から1週間後、魔界からの馬車がやって来て住民達は興奮していた。 

 それは馬車というより電車みたいな形をしており色は紫や黒が主だったが、怖さを感じる様な気配は無く、寧ろどこか落ち着く感じだ。

 ハルは(悪魔ってこうやって人を惑わすのか~)と感心しながらその馬車に乗り込んだ。



 全員が乗り込んだことを確認してから御者は馬を走らせた。御者の姿は電車の運転手みたいな格好をしており、ハルは思わず吹き出さずにはいられなかった。その様子を見たショコラとルチアとミスティは首をかしげてハルを不思議そうに見たがハルは「なんでもないわよ」とすぐに誤魔化した。



 「いや~、しかし魔界ってどんなとこだろうね」

 「悪魔がうようよいるんだろ」

 「そりゃそうだろ……」

 「魂とられませんかね……」

 「ボクとしてはそのまま魔界に居座ってほし……ミスティ、その目止めて」

 「オマエが悪いわ」

 そんな風にだべりながら4人は魔界行きの馬車の窓から風景を見ていた。

 だんだんと紫の空が濃くなるにつれ、魔界に近づいてきたと思い、全員期待半分不安も半分で見る。

 そうしていると馬車が止まり、巨大な門が見えた。

 

 「この先が魔界か……」 

 「にしてもすごい壮大な景色ですね……」  

 「ひゃー……圧倒されるわ」

 各々感想言っていると門が開き、馬車は魔界の中に入っていった。


 

 ハルは魔界の景色を見て驚いた。そこにはハルが想像していた魔界とはちがった景色が広がっていた。

 

  

 ハルは魔界もファンタジーな世界と同じく中世的な世界を想像していたが、目の前にあるのは高層ビルやコンクリートで出来た建物にピカピカ光るネオンサイン。アスファルトで舗装されたような道路に点滅する信号。

 つまり、ハルが前生きていた世界と同じ様な景色が広がっていたのだ。

 もっとも、その世界を知らない他の住民達は目を輝かせて興奮していた。


 

 「すっごい、綺麗……」

 「文字が光ってるわ!」

 「夜なのに明るいな……」

 「…………」

 「ハルどうした? 顔色が悪いぞ?」

 「な、なんでもないよ!? すっごく綺麗だね!」

 他の住民とちがう反応をするハルをいぶかしんだショコラだったが、すぐに次の景色に目を奪われ、後は何も聞いてこなかった。

 

 

 魔界の雰囲気だが、景色は暗いがかなり明るい。馬車の中でも聞こえるくらいに悪魔達がわーわーと騒ぎ、楽しそうに食事をしていた。中にはいくらか天使も混じっており、悪魔達と愉快に談笑していた。

 ハルは運転手みたいな御者に聞いた。



 「これは天界との和平締結のお祭りですか?」

 「はい。何でも3000年ほど喧嘩していた二国の和平がようやく締結されたとのことでいや、嬉しい限りですよ。戦いが減るのはまぁ損ですが」

 「へぇー、だから盛り上がってるのね」

 「はい。それにもうじきルシファー王女殿下の誕生日でもあるのでそれもあるのでしょう」

 「誕生日?」

 「ええ、悪魔達は楽しいことが好きですからね」

 「へぇ……(悪魔達における楽しいって人を貶めたり、騙したりとかだと思ったけど案外ああゆうことも好きなのね……人間と変わらないわねぇ)」

 ハルはそう思いながら再び席に着き、その様子を楽しそうに微笑んで見た。



 「皆様、目的地に着きました」

 「ありがとうございます」

 「お、本当かお疲れ様」

 お城の前の門に着くと馬車は止まり、彼女達はそこで降りた。門番がいたが、御者がとあるものを見せると快く開け、待っていたのは角が生えた以外は特に変哲も無い老執事だった。

 執事は恭しく頭を下げ、丁寧にハル達に挨拶した。


 「お待ちしておりましたハル様とそのご友人様。広間でリリス女王陛下及びルシファー王女殿下がお待ちでございます。ご案内いたします」

 「あ、ありがとうございます」

 その老執事に案内され、ハル達は大広間に着いた。そこにはリリスはもちろん、その娘であるルシファーも玉座に座っていた。



 「よく来た、ハルちゃん! と、その一行! 今日から1週間ほど魔界はお祭りをするからの、ゆっくりしてほしいぞ」

 「リリス陛下、ありがとうございます」 

 「何、リリスさんでよい。お主はわらわが認める力の持ち主じゃからな! それに娘、ルシファーも気に入っているからの」

 「人間、アタシの誕生日には付き合って貰うからね!」

 「これ、ルシファー、ちゃんと名前で呼ばぬか! しかし、今日は遅いから歓迎会もろともは明日以降じゃ、部屋を用意したからゆっくり休め、しばらくの間は自由につこうてええぞ」

 「はい……!」

 そしてハル達はリリスの従者につられて、各々の部屋に向かったのだ。

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