63.住民達は決断する
夕食時、ハルは食堂に集まった住民に対していきなりこう言ったのだ。
「突然で悪いけど1週間後に天界と魔界に行くことになったから」
平然と言ってのけたハルに対し、他の住民は今まで聞いたこと無い音量で騒ぎ始めたのだ。
「天界に魔界!?」
「え、ハルさんもうお迎えが……!?」
「そんな、幽霊にならずに消えちゃうなんて!」
「ハル様、亡くなるのですか!?」
「オマエら落ち着け!」
事情をいくらか知っている弟子達やサフィはあまり驚いてはいなかったが、一方で何も知らない者達は唐突な告白に驚き、慌てていた。
そんな感じでカオスになった住民をなだめ、ショコラはハルをどついて説明を求めた。
ハルは少しショコラを睨んで天界と魔界に行くことになった理由を話し始めたのだ。
「……というわけで各国の女王様達から直々に招待状貰っちゃってね、それで行くことになったのよ」
「………………」
「どうしたのよ、みんなぼーぜんとして。なんかマズい?」
ハルの説明を聞いてしかし、ノーリアクションな他の住民をハルは少し訝しげに見た。
そんな気まずい沈黙を破ったのは意外にもルチアだった。
「ハル、一言いいかい? その……図書館を攻撃されてブチ切れて女王様達と『強制契約』したんだよね……しかもその前には娘にも同じ事してるって……」
「そうだけど?」
「なんて羨まし……いや、それで和平締結させるなんて正直信じられなくて言葉が出ないよ」
「そんな凄いことなの?」
この世界に来てまだ1年も経ってないハルは本の中で読んだ知識で一応『天使族と悪魔族は犬猿の仲』ということは知っていたが、そこまでだ。
しかし、ハルよりも何倍もこの世界で生きてるルチアはまだ震えるように続ける。
「凄いも何も……天界と魔界の戦いはボクらが生まれる前から続いている。それを図書館が壊れる程度で和平締結するってそんなバカなことがあるわけないと思ってな……」
「程度って何よ、程度って」
ルチアの最後の一言にハルはカチンときたが、すかさずショコラの制止が入り、ルチアに向かって言った。
「いや、あの時のハルの気迫はルチア、オマエが来たときよりも凄かったぞ。女王は愚か他の軍勢も動けなかったからな」
「そんなに凄かったのかい!?」
「ああ、そうだ、私も近くで見たけどアレは怖かったわね……」
ルチアは椅子にもたれかかり、小声で「だからあの時守護結界魔法をかけてくれと頼まれたのか……」と呟いた。
若干重苦しい空気になったが、これを破ったのは近くにあった手紙を見たルビィだった。
「ところで魔界や天界って行くのハル様だけですかね」
「え、ルビィ、行きたいの?」
「いえ、そういうわけではなくて誰か付添でもいた方が良いと思いまして……」
「確かに、そこの図書館に籠もりっきりも考えられるからな」
「何よ、人を読書バカみたいに……」
「実際そうだろ」
ショコラに指摘され、少しふて腐れるハル。
と、その時、いきなり手紙が動き、また昼間のようにリリスが表れた。
『何だ、ハルちゃんのお友達もわらわの国に来たいのか? ええぞ、歓迎するぞ』
「え、いいのですか?」
『よいよい。祭りは多ければ多いほど賑やかになるからの』
『それに、ハル様のご友人達も見てみたいわぁ』
『ガブリエル! いつ来た!』
また先程のように喧嘩を始め、その続きをするために消えたリリスとガブリエルの言葉を聞いたハルは屋敷の皆に聞いた。
「だってさ、どうする?」
住民は皆複雑な顔をしたが、好奇心には勝てなかったのか、全員一致で魔界にも天界にも行くことになったのだ。
そして、1週間後、魔界から迎えの馬車がやって来た。
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