第3話 出会い
彼らとの出会いは中三の春。
「去年の体育祭のあの絵、晴ちゃんから八木先輩が描いたって聞いたんです!」
三年になって、在籍していた漫画クラブの部長を渋々引き受けた直後、部室のドアを開けて入ってきた咲良の第一声がそれだった。
「俺、先輩の絵めっちゃ好きです」
そのハキハキした口調と目の輝きがキラキラしすぎていて、一緒に入ってきた咲良の友人で、すでに一緒に漫画を描いていた逢坂司音の第一印象はほとんどない。
【オレの武器って見た目しかないのにそこ忘れられているって、咲良のテンションどれだけかって話だよ】
出会った時の話をすると、必ず司音くんはそう僻む。そして一つ下で、咲良と司音くんより先に出会っていた部活の後輩の早川晴人はもっと落ち込む。
【いやいや、咲良たち部室に連れて行ったのは俺だからね! 八木ちゃんの説明だと、俺はすでにいないことになってんじゃん】
その凹んだ早ちゃんをフォローする声が少し離れた場所から入ってくる。
【紹介したって役割があるだけ、オレよりマシだから】
偶々、その場に居合わせた篠崎啓吾は確かに僕の記憶の中には存在しない。司音くんや早ちゃんはまだ何となく影だけはあるけど。
【要は俺が一番愛されてるってことでしょ】
数十回と繰り返される「出会い」についての締めはいつも咲良のこの言葉で終わる。
そんな咲良に溺愛される僕の絵が生まれたのは、小学生の時。当時、クラスメイトの誰もが夢中になっていたアニメの模写から始まる。
元々文字より絵が得意だった僕は、授業も聞かずに最新号の雑誌を破いて、それを見ながらひたすら自分のノートに書き写した。
それが何の役に立つかも分からず、ただひたすらに。
絵を描き始めると時が止まった。
自分だけの世界に没頭できるという空間が僕には合っていたのかもしれない。
大人になった今、自分の性格を客観視出来るようになって、改めてそう思う。
けれど人間って結局は自己満足だけでは満たされない。一人の世界が好きなくせに、誰かの評価はやっぱり心地がいい。
「八木くんって、本当に絵上手だね」
中学生になっても同じようなことをしていた僕に、そう声をかけてくれたのが僕の初恋の女の子だった。
「そのアニメ私も好きだけど、凄く上手いね。漫画とか描いてみればいいのに」
入学して出席番号順に座った席の隣に彼女がいて、僕の書いた絵を見つけると笑顔でそう言ってくれた。
まぁ社交辞令だったんだけど、その時の僕にはまるで僕自身を好きだと言ってもらったくらいの勘違いをした。
おかげで入るつもりだった美術部をやめて漫画クラブに入部することになった。
「八木ちゃんの入部動機って俺と全く一緒。おかげで親近感沸いて先輩な感じしないし」
僕が二年生になって入部してきた早ちゃんは会った瞬間から人見知りなんて持ってない感じで、超人見知りの僕にもグイグイ声をかけてきた。
それが妙に嫌な気分にならないところが早ちゃんの人柄っていうか、性格っていうか。要は僕が憧れている部分だ。
「早川の、あの勢いと笑顔に大体の人は圧倒されますよね」
いつも早ちゃんに連れてこられていたクラスメイトの啓くんの表現は常に適切だ。
後に、集まるべきして集まったと世間には評されることになったけど、僕たちの始まりは何でもないことだった。
僕が女の子に褒められて漫画クラブに入部して、そこに同じような後押して早ちゃんが入部して、その早ちゃんが小学校から仲良くしていた咲良に勝手に僕の絵を紹介して、咲良と一緒に漫画を描いていた司音くんを連れて入部してきて、そこに早ちゃんに連れてこられた啓くんがいた。
なんてことのない、中学校でよくある話。女の子にモテない(いや司音くんはモテてた)ヤローが集まって絵を描いて、それが他の何より楽しくて、始まっただけなんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます