記憶喪失になった俺には秘密があるみたいだが、幼馴染がそれをひた隠しにして迫ってくる件。【幼馴染は俺と付き合うためなら容赦ない】

月平遥灯

幼馴染は俺と付き合うためなら容赦ない

小動物系幼馴染と至高の歌姫

#01 パンツを見せてくれたら思い出すかも 前篇

※この作品は伏線が多く張り巡らされています。第二幕終わりに回答編がございます。違和感やヒロインの言動に違和感があると思います。ご容赦下さい。では本編どうぞ

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 ベッドから起き上がれない。いや、起きたくない。




 ————起きてたまるかっ!




「ちょっと、起きてよっ!」

「茉莉……パンツ見せてくれたら起きてやっても良い!」



 頬を膨らませて、震えながら眉根を寄せる白詰茉莉しろつめまりは、力いっぱいに掛け布団を剥がす。夏が終わり、秋がぐっと近づく蒼天色濃そうてんいろこい季節。そんなことを昨日、現国の先生が言っていた。全然意味分かんないけど。


 少しずつ肌寒くなってきたのに、茉莉は毎朝強引に布団をがすんだ。



「いいから起きてってッ! もうッ! 遅刻しちゃうよっ」



 ポニーテールを揺らす口やかましい茉莉は、俺の幼馴染なんだって。全然覚えていない。むしろ、こんな可愛い子が幼稚園から一緒? マジか。こうして毎日起こしに来てくれるなんて、それだけでカチグミなんだってさ。まん丸の瞳がキラキラしていて、薄い桃色の唇が可愛らしい。なんていうかな。ああ、小動物系?


 もう、クラスどころか学校中で大人気。誰にでも優しくて、人懐っこいの。よく言われているのが、膝の上に乗せて顎の下をこちょこちょしたいとか。でも、俺にだけはなんだか厳しい気がする。



「寒い……風邪引いたらさ」

「な、なに?」

「裸で温めてくれるよね?」

「そんな目で見たって、無理なものは無理ですっ」



 それにしても寒い。八畳ほどの部屋を見回しても羽織るものが見当たらない。クローゼットに手を伸ばすのもダルい。まあ、制服に着替えるからいいか。



「はやく歯を磨いて、顔洗って。ところで、お聞きしますっ! 緋乃春彩あかのはるやくんっ! 朝ごはん作るけど、食べたいものある?」



 後ろに手を組んで、俺の顔を覗き込むのヤメテ。可愛いからっ。俺も茉莉を膝の上に乗せて、全身コチョコチョしたくなるじゃん。



「ミートソース」

「えっ!? スパゲティ?」

「ミートソースってスパゲティ以外にあんのけ? 俺、記憶喪失だから分かんないよ」

「そういうときばっかり、記憶喪失を強調しないのっ」



 そう、俺は記憶喪失になってしまった。原因は歩道橋から転げ落ちたかららしい。春の頃。ちょうど高校二年生に上がったばかりの頃。それも覚えていない。医者には定期的に掛かっているけど、記憶は突然戻るかもしれないし、戻らないかもしれない、なんて言われた。つまり、何かの拍子に戻れば良いね、なんていう希望的観測。投げやりもいいところ。



「むぅ。仕方ないなぁ。春彩がそう言うなら作ってあげようかな」

「うむ。ありがたや。お礼にパンツみせてやってもいいぞ」

「あのね。毎日教えてるでしょ。人にパンツ見せて、とか、パンツ見せてやるとか。おっぱいとか、エッチさせろとかって言っちゃだめなんだよ? 記憶喪失になる前は、あんなにまともだったのになぁ」



 溜息混じりにそんなことを言う。それもほぼ毎日。茉莉がいなければ、記憶を失った直後の俺は逮捕されていたかもしれない。公然わいせつ罪っていうらしい。素っ裸で外を歩いていたところを茉莉に捕獲された。あれ、捕獲? 保護か。うん、それ。


 それで、常識とか勉強とか小学生でも分かるようなことを教えるために、毎日学校が終わってから来てくれるの。親父は仕事で、日本中で綱渡りしているから俺は一人暮らし。つまり、茉莉がいないと餓死するわけ。だって、お金の払い方分かんないもん。最近、やっとこコンビニで買い物できるようになったくらい。



 歯を磨く。



「ぶふぉぉぉぉ!! な、なんだこの非常識なハミガキコは!? 殺すぞッ!」

「ど、どうしたのッ!?」

「このハミガキコ野郎が、凶悪な味なんだッ! 失礼にもほどがある」

「……春彩………これね。洗顔フォームっていって、顔を洗うときに使うものなの。歯磨き粉はこっちね。ほら、うがいして、磨き直して」

「なあ、そうやって屈むと、その割と大きめのおっぱい丸見えなんだけど」

「もうッ! いい加減、まともな人間になってよ。本当に困っちゃう……よ……」



 キッと睨まれて、悲しい顔をして、すぐに笑顔になるの。表情豊か。茉莉って可愛いよな。けど、俺には好きな人がいる。その人のことを考えると、胸が熱くなる。これが………初恋っ!?


 いや、ほら、記憶失くしているからさ。頭の中が真っ白になってからの、初めての恋。




 食卓に戻ると、茉莉が手際よくスパゲティの麺を茹でている。ミートソースが大好物の俺にとって、この上ない幸せ。



「ま、茉莉。俺……」

「うん? ————えっ?」



 茉莉の後ろに立って、茉莉を抱きしめた。優しく。



「ミートソース作ってくれる茉莉が大好きだ」

「………むぅ。昨日のミルキーラブラブピースでやってたヤツじゃん」



 そう。昨日のテレビドラマ『ミルキーラブラブピース』の中で、俳優がやっていたんだ。料理を作ってくれる好きな人には、こうして後ろから抱きついても良いんだよね。俺は、ミートソースが好きだ。ミートソースを作ってくれる茉莉は、必然的に好きってことになる。だから、こうするのが礼儀だろ。



「あのね。これ、普通の人にやったら、セクハラで警察に捕まるからね?」

「そ、そうなのかッ!? 俺、自首してくる」



 お巡りさ〜〜〜ん。俺は、凶悪犯罪を犯してしまったみたいです。ごめんなさい。塀の中でまずい飯食ってきます。



「待って待て待てマッテ。こ、今回は、特別に許してあげるから。お、幼馴染のよしみってやつ。でも、毎日、なにかしらセクハラしてくるよね。いい加減、その辺りの境界線を覚えてくれてもいいような気がするんだけどなぁ」

「よしみ? 境界線?」

「はぁ……。ま、いいや。ねえ、いい?」

「は、はいっ!」

「春彩はアホになっちゃったんだから、わたしの傍から離れないこと。特に単独行動はダメね。どこに行くのにも、必ずわたしに断って? ね? 危なっかしくて見てられないよ」



 茹で上がった麺をお皿に乗せて、となりの鍋で温めた銀色のパックの封を切ってミートソースを掛けてくれた。



「はい。ミートソース。あ、だめだめ。服汚れるから、前にタオルかけて」

「ええええ。なんか赤ちゃんみたいじゃん」

「同じようなも——こほんっ。いい、スパゲティを食べるときは、大人でもこうするものなの。大人しくタオルを掛けて」

「そ、そうなのか。分かった。いただきまっ————あれ」

「どうしたの?」

「茉莉は食べないのか? 昼飯まで長いじゃん」



 棚から皿を取って、スパゲティを半分移した。これくらいなら俺にでもできる。



「ほら、はんぶんこっ」

「わ、わたしは朝ごはん食べ————分かった。いただくねっ」



 茉莉の後ろに立って、タオルを胸に掛けた。これでよし。



「あ、ちょっ……ふぅ。そうだよね。春彩は優しいね。ありがとう」



 ニコッと笑った茉莉の表情を見ると、なにか思い出せそう。あれ、なんだ、なんだっけ。あれ、あれ。確か茉莉は俺の…………だめだ。思い出せない。ま、仕方ない。



「「いただきますっ」」



 茉莉の作ってくれる朝ごはんはいつも美味しい。あ、夕飯も。感謝しなくちゃいけないんだよな。友達の丹原満たんばらみつるが言っていた。お前には白詰茉莉が傍にいるだけでカチグミなんだって。あいつが言うんだから、そうなんだろうな。



 でも、カチグミってなんだ?








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お読みいただきありがとうございました。

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