yellow yellow
白い肌に浮かぶりんご飴のような唇。 その唇がティーカップを優しく咥え手前にほんの少しだけ傾ける。
瞳は閉じられている。 しかし、私はその瞼の奥に黒くて力のある、優しい目を何度も見たことがある。
彼女の背後で何度も時計の秒針が音をたてている。それさえも疎ましく思えてしまうほどの閑静なカフェの中は、学生の頃二人で通った図書室の静寂を想起させる。
私たちの他には馴染みの客がチラホラといるだけで、時折ちいさな笑い声が聞こえる。
「ねぇ、なんでいつも黄色い服を来てるの?」
私はふと、素朴な疑問をぶつけてみた。
急にこんな質問をするなんて思っていなかった彼女は、いつもは少し控え目に閉じられている瞳を大きくした。
そして、少し考え事をする風にまた目を閉じた。
「そうねぇ。 ほら、わたしぃ両親が離婚してるでしょう?」
彼女は自分を指すときに「わたし」ではなく、語尾を微妙に延ばす。
「お母さんに引き取られてから、ずっとお母さんのお下がりばかり着てたの。 でも、ある日どうしても欲しい黄色の服があってね、特別に買って貰ったのよ」
彼女の顔が微かに赤らんだのを私は見た。 桃のように上品に染るその肌は美しかった、
「とても似合ってるよ」
「そう、ありがとう」
彼女は微笑んだ。
「けれど君は綺麗なだけだ」
私の声は興ざめした氷水のような声を出した。 その声はどこまでも冷淡だった。
そして私は、冷笑した。
「え?」
彼女のその声は風船のように、空中にふわりと浮かんでどこかへ消え失せてしまった。
私は確信を持って内ポケットに秘めていた拳銃を取りだした。 ぬらりと光る黒は、肌の白い彼女と重ねるとよく映えた。
言葉を失った彼女の怯えた両目の間に、私は冷酷にも銃弾を撃ち込む。 命乞いを聞いたら壊せなくなる気がするからだ。
彼女はぐったりと背もたれにもたれかかり、時折ピクピクと体を動かしている。
眉間から覗いた配線は、ショートしたように青白い光を瞬かせている。
店内の客は騒々しく店を出たり、驚愕し腰を抜かしたりしている。
「おい、もういいだろ。 こいつは芽衣子じゃない。 芽衣子はな自分の両親のことをベラベラ喋ったりしないんだよ!」
そう叫ぶと、辺りが急に無機質な白い壁に変わる。客も店員もホログラムで、彼女だけ彼女の記憶を持ったアンドロイドだった。
「よくわかったね〜」
変声機で歪んだ声を出しているふざけた仮面の男が白い壁に投影される。
「いいか、最初も言ったけどな。 見た目だけ精巧に作られていても、アンドロイドは所詮アンドロイド。 完璧にコピーは出来ない」
「そうかなぁ〜。 まぁ、あと3人……。その全ての真偽を見分けられたら、信じてもいいけどね」
男はおかしな笑い方をした。
「そんときはあんたをぶち殺しに行くよ」
私もその男の調子に乗って、少しふざけた口調で返したやった。
「できるかなぁ〜。 第2問! 場所:思い出の公園、 時間:夕方。 今から君の目の前に現れる女性は君の追い求める芽衣子さんとやらかどうか見極めろ! よーい アクション!」
一瞬の静寂と沈黙の後、目の前に突如現れた夕日に目くらましをくらった。
私は咄嗟に顔を背けると、そこには見覚えのある白い手があった。 目線をあげていくと、彼女が座っていた。 芽衣子である。
「いい景色……」
「そうだねーーとても」
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